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USA 2017 111 Min. 劇映画
出演者
Justin Benson
(Justin Smith - アーロンの兄)
Aaron Moorhead
(Aaron Smith - ジャスティンの弟)
Tate Ellington
(Hal - カルト集団のリーダー)
Callie Hernandez
(Anna - カルト集団のメンバー)
James Jordan
(Carl - 村の外れに住むカルト集団のメンバー、首吊り男)
Lew Temple
(Tim - カルト集団のメンバー、アーカイブの管理人)
Emily Montague
(Jennifer Danube - パーティーに参加しないカルト集団のメンバー)
Peter Cilella
(Michael Danube - ジェニファーの夫、ジェニファーと別なパラレル・ワールドに住んでいる)
Ric Sarabia
David Lawson Jr.
Shane Brady
Vinny Curran
Kira Powell
Glen Roberts
見た時期:2018年1月
アメリカの映画界には目の前にある問題とあまり向き合わず、政治などの方向に大風呂敷を広げて問題作を作る傾向もあるのですが、逆に数は少ないですが、目の前にある問題とガチで取り組む意欲的な監督もいます。
今年の冬のファンタのラインアップを見た時にあまり期待をしていなかった作品が2、3本あったのですが、良い方に期待を裏切られた例の1つです。
★ タイトル
終わりの方にこの作品全体をまとめた描写があり、「終わりが無く、無限に繰り返される世界」とまとめられます。それをタイトルにしています。なるほどとうなずくまでには2時間弱かかります。
★ ちょっと SF
The endless を見て思い出すのは、イギリスのテレビ・シリーズのプリズナーNo.6 と、最近のファンタに出ていた Coherence。
全体的には普通の世界の話ですが、話が展開するカルト集団の村はバリアーのような物で外界から遮断されています。しかしそれは目にははっきり見えず、いくつか超常現象が起こります。この部分だけが SF というかファンタジーで、話全体はもしかしたら主人公の頭の中だけで起きているのかも知れないという曖昧さを醸し出しています。
2人が体験した事が実際に起きたかどうは本題から外れ、あまり重要ではありません。2人が何をどういう風に考えたか、これからどうするかが重要な点です。
★ あらすじ
短くまとめるとカルト集団の問題を扱った作品です。この種の作品がファンタに出るのは初めてではなく、最近注目できる作品としてはサクラメント、The Invitation を挙げることができます。しかし The endless の方が深く掘り下げていると思いました。
監督2人がファースト・ネームはそのまま、苗字はスミスということにして、兄弟を演じています。
ジャスティンとアーロンの兄弟は10年ほど前にカルト集団から救出され、テレビのニュースで報じたれたこともあります。仲のいい兄弟はその後ずっと普通の生活を送っていましたが、特にパッとした職業についているわけではありません。平凡な生活を送っています。ある日、当時のビデオ・テープが送られて来ます。ジャスティンは乗り気ではなかったのですが、結局アーロンに説得されて2人はかつて住んでいた田舎の村へ車で出向きます。
到着して驚いたのは、当時の友人知人が誰もあれ以来年を取っていなかったこと。村の全員が10年ぶりの再会を喜び、温かく迎えてくれます。2人の食住は全部村の負担。
後になるとすっきり分かるのですが、このカルト集団は村ごとごっそりバリアーで守られていて、その中で暮らす人全員が年を取りません。そしてそこから空を見ると月が2つ、後には3つ見えます。
ブードゥー教の杭のような物が村の外れに何本も立っていて、村を去ろうとするとそれが妙な現象を起こし、出ようとする人は不思議なワープの中に取り込まれていることに気づきます。ここには複数のパラレル・ワールドがあるということになっています。
極端な例は村はずれに住んでいる男。ジャスティンが訪ねて来てガレージのドアを開けると、そこにはたった今クビを吊ったばかりのカールがぶら下がっています。ところがその直後後ろからやって来たのもカール。自殺したばかりの世界と、死んでいない世界の2つがジャスティンの目の前に並行して存在しています。
といった感じで、この村にはちょくちょくこういった不思議な現象が起きますが、村人は何事も無かったかのように楽しそうに暮らしていることになっています。
2段ベッドのある簡素な部屋をあてがわれた2人は、村の様々なレクリエーションや催しに誘われ、何もかもが上手く行っているように見えます。ただ、時々誰かがちょっと暗い表情を見せたり、口を閉ざしたりするのが観客には気になります。
2、3日経ち、ジャスティンが予定通り帰ろうとすると、アーロンが「残ることに決めた」と言いだします。アーロンを連れて町に戻りたいジャスティンですが、説得に成功せず、ジャスティンは「じゃ、僕だけでも」と1人で旅立とうとします。
しかしカルト集団のメンバーからは反対され、バリアー、ワープも効果を発揮し、なかなか外に出ることができません。最初2つの月が見えただけでもおかしいのに、今では月が3つも見えます。
色々困っていた所へアーロンがやって来て、「自分も帰る」と言い出します。彼は自分に確信が持てなかったので、ここに来て自分の気持ちを確かめようとしたらしく、この時点でようやく自分は外にいるべき人間だと分かったとか。兄弟は力を合わせて外へ出るべく戦います。するとそれまで厳重に鍵がかかっていた倉庫の鍵を開けてくれる人がいたり、妻と別なパラレル・ワールドに住んでいた男が自宅に火をつけて自殺したりと、本当はこの世界が好きでない人たちが本当の気持ちを表わすようになります。
最後は2人で力を合わせてバリアーの外へ出ます。めでたし、めでたし。
★ 「よく考えよう」という映画
ハリウッドから来る作品は時に問題作品とか、意欲作品と言われ、一見タブーに見えるテーマを扱うこともあります。とは言っても実際には起きた事件をなぞるだけだったり、当事者の1人の心情を代弁するだけで、あとは見ているだけか、観客に「勝手に好きなように感動してくれ」と丸投げの作品が多かったです。
それに比べ The endless はこのような出来事を体験した人は10年経っても(現実には20年、30年経っても)出来事から決別できていない、バンジーのゴムのようにどんなに努力してもまた引き戻されてしまうという経験を表現していると思われます。トラウマから卒業できていないことをその当事者の責任として、他の人は片付けられますが、本人にとっては非常な負担で、次の一歩を踏み出せません。頭を切り替えたくても、人生をやり直したくてもできないところをこの作品は上手に描写しています。
そしてこの作品のもう1つの良い点は、そういう難しさを分かりやすく描写した後、「それでも諦めるな、カルトからは離れろ」という方向に後押ししてくれる点です。状況を描写するだけで、後はほったらかしにする映画が多い中、この作品は似たような体験をした人に優しい目を向けているとも言えます。
そして同じ体験をした人でも、ある人は一定期間が経つとそれなりに過去の事と見られるようになる、その場に居合わせても別な人は決別に困難さを感じるといった、違う反応の仕方があることも分かりやすく教えてくれます。
そして「あとは勝手にしてくれ」と放り出すのではなく、「事に正面から向き合えば道は開ける」というトーンで終わります。こういう終わり方をする作品はここ25年ほど色々な映画を見て来ましたが、殆ど出会ったことがありません。ハッピーエンドではあるのですが、安易ではありません。
私自身は「道は開ける」と信じて行動し、本当に開ける体験をしたことがありますから、人に口で言われただけでも、ある程度信じますが、実生活では人に「大丈夫だから」とか「Everything will be alricht.」と言いながら言っている本人がそれを信じていないというのが一般的だということも骨身にしみて知っています。本来は Everything will be alricht if you try. と言うべきでしょうね。
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