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2018年1月20日 - 21日
2日目が終わりました。
今年のホワイト・ナイト・ファンタは質がかなり良かったです。1番弱い作品でもそれなりにきっちりまとまっていました。良い方はかなり楽しめるように作られていました。政治的なメッセージに賛成できない、エンターテイメントだと割り切れない人で、方向が違う人にはちょっと引っかかる作品もありますが、そのあたりを「思想はともかく、出来はいい」と割り切れるなら、佳作と優秀作の並んだフェスティバルと言えます。
1日目が終わりました。
予想通り夏のファンタより質のいい作品が来ていました。ただ、「思想性を直接前に出し過ぎた」という印象を残す作品が複数ありました。おもしろいストーリーの作品を作り、そこにやんわり思想性を含ませた方が後々まで人の記憶に残る作品ができると思うのですが、今年は直接派が出始めています。
今年は前半が目の手術、中頃に職場復帰、9月にファンタ、その後はまえがきに書いたように、時間が殆ど取れない状態になり、またしても次のファンタの記事を出すシーズンになってしまいました。
冬、春のファンタにはメインのファンタの積み残しを出すという側面もあるのですが、今回の冬のファンタはアジア勢をのけてあります。アジア勢と言えば元々は日本、香港、台湾、韓国、中国が順繰りに作品を送って来ていましたが、1部の国が高い使用料を要求したという話もあり、必ずしもコンスタントには入っていませんでした。
加えて中国では大きな政治の変化があり、映画産業に力を入れていた元主席の関係者が次々地位を追われた様子で、今後は国策の歴史映画ばかりになるのではと危惧しているところです。台湾、香港も今は独自の映画作りに時間とお金を取る余裕があるのかは不明。国の政治とはうらはらに、時々おもしろい犯罪映画を出して来る韓国ですが、あちらも今は国難の時期に入っており、ゆっくり映画を作っている余裕があるのかは未知数。では日本はと言うと、日本はどうやらテレビ・シリーズに力点が向いているらしく、ファンタ向きの劇場用の作品が作られるのかはこれまた不明。私自身はシンゴジラが見たかったのですが、ファンタ随一のゴジラ・ファン(ドイツ人)が他界してからもう10年以上。当分ゴジラ映画は来そうにありません。
とは言うものの、今回のファンタには凄い作品が入っています。メジャーなパシフィック・リムの続編を蹴って、こちらに決めたギレルモ・デル・トロ監督。そして友情に厚い彼に頼まれて両棲人間の役を引き受けたダグ・ジョーンズ。見も涙の物語のようです。期待しちゃうなあ。
夏のファンタにも作品を送って来た監督。
1914年、第一次世界大戦が起ころうという時、アイルランドから蒸気船に乗って大西洋の孤島にやって来た気象観測士がモンスターを発見。
トレイラー: 雰囲気はとてもいい感じ。
後記: スタッフ、キャスト共頑張って作った作品ですが、思想性があからさまに前に出て、やや食傷気味というか、図式が単純過ぎて、もう少し何とかならないものかと思いました。
もう1つ気になった点があります。以前にも1度似たような作品を見たことがあるのですが、欧州人が休暇に出かけるような明るくて暖かい土地をロケに選び、そこを暗く、雪の降る、厳しい自然環境の映画にしてしまったことです。
さらに言うと、この作品は初日の1作目だったのですが、登場する両棲人間がギレルモ・デル・トロの作品と被るのではないかと危惧しています。
ストーリーは予想よりずっと酷かったです。新人の気象観測氏が孤島にたどり着いて出会ったのは、前任者。彼は両棲人間の女性をセックスの餌食にし、暴力をふるい酷く虐待する日常生活を送っています。そこへ新人がやって来て、彼が見聞きした様子がメインのストーリーになっています。夜な夜な襲って来る両棲人間の大群との戦いが外の話、女両棲人間を虐待するというのが内輪の話になっています。前任者を徹底的に悪者に、新人を心は優しいし、女両棲人間に対して優しく接するけれど、目の前の悪に対しては「ただ見ているだけ」というスタンス。ちょっと情は示すけれど、虐待男にはっきり反対の意見を示すわけではありません。徹底的な対立が生じたのも、たまたま女両棲人間が彼の子供の産み、それを知った虐待男が怒ったから。つまり、新人が直接虐待男を諭したわけではありません。このスタンスは現実の70年代から今日までの流れを示しているという点では評価しますが、その映画自体が、様子を描写するだけという伝統を踏襲しているだけ。
カナダ映画はメジャーにはなりませんが、ファンタには精力的に作品を送って来ます。
ケベック州に謎の病気発生。かかるとゾンビになる。
トレイラー: ドイツの郊外とそっくりのケベック州。ゾンビ自警団のような村人。カナダの方がアメリカより武器が普及していると聞きますが、ゾンビが出たら撃たなければなりません。人間模様に重点があるようなのですが、フランス語なので字幕を読むのが大変そう。
後記: ストーリーはゾンビ物で、これと言った新しい思いつきはなかったのですが、描写で 他のゾンビ映画と違う味を出していました。多少ウィッカーマンをパクっていますが、真似をしたという感じではありません。
登場人物は設定がケベックの近くということで全員フランス語を話します。私たちは最近フランス人のファンタ常連と知り合ったので聞いてみたのですが、フランス語を母国語にしているその人も、そのドイツ人の夫人、あるいは長年の連れも、このフランス語は全然分からず、字幕を読んでいたそうです。私は語学に関しては結構耳がいい方ですが、そしてフランス語の他のカナダ映画を見たことが何度もありますが、さらに言うと、アフリカ人の話すフランス語も知っていますが、Les affamés のフランス語はあらかじめフランス語だと言われていても、フランス語に聞こえませんでした。
蛇足: 制服軍人が出て来るランニング・ギャグはおもしろかったです。
以前じわっと不快感が漂う作品で参加した監督。
フェニックスの演技が評価されている作品。セックス産業に従事している子供を元兵士が救出。どちらの側も非合法。ある日彼に娘救出を依頼した政治家。そこから殺人事件に発展。テーマの方向はタクシー・ドライバー + レオン風。韓国のオールドボーイをパクった殺人方法が使われています。
トレイラー: 英語ですが聞き取りにくいです。ちょっとスタイルに懲り過ぎた感じ。もう少しストーリーだけを追うスタイルの方が外国人には分かりやすいです。
後記: 部分的には先の予想がつきましたが、それで負の影響が出ることはありませんでした。確かにタクシー・ドライバー、レオン、オールドボーイのパクリですが、まあ上手く料理してあります。私は3作を知っているので、A beautiful day を見て衝撃を受けるということはありませんでしたが、まじめに作られた作品だとは感じました。
劇場長編デビュー
テレビに出演して幽霊話のトリックを見破る教授。ある日死んだと思われていた師匠筋の学者が無傷で現われ、彼に3つの未解決事件の解明を依頼。
トレイラー: どこまでまじめか分かりにくい作りですが、時々きれいな景色が映ります。カメラは凝っているのかも。
後記: 舞台になった段階で既に筋が良く練られていたためか、監督が劇場映画デビューでも手堅い作りです。どんでん返しには見事に引っかかりました。引っかかった後で考えると「この100分ほど、何を見ていたのか」と腹が立ちますが、上手く観客を騙しています。
長編2作目。デビュー作は2014年の Life After Beth。恋愛コメディーで、そこそこおもしろい作品でした。
ある日女性ばかりの世界、修道院にジェームズ・フランコの弟が紛れ込みます。弟のデイヴもいかにも DNA が受け継がれているなあと思われる顔立ち。彼を巡って女性たちが繰り広げる騒ぎ。
今回も共演しているのが Life After Beth にも出ていた John C. Reilly。他にもあちらの作品から大勢、キャストのみならずスタッフも協力しています。
トレイラー: めっちゃくちゃな教会生活、超下品な会話、つつしみのかけらも無い修道女。
後記: トレイラー通りの運びで、全編教会、貴族をおちょくる脚本。気になった所が2点。
中世の欧州の話なのに、米語。欧州の人はこういった所が多少気になるかも知れません。とは言うものの、この出演者に欧州の古い英語を話せというのは要求がきつ過ぎますし、観客がその発音を理解できないでしょうから、まあ、仕方ないでしょう。
ポリティカリー・インコレクト路線なので、教会や貴族批判が続出するのはまあいいですが、政治主張が直接的過ぎ、過剰に前に出た感じがします。もう少し上手に脚本を書き、ストーリーをはちゃめちゃにまとめ、批判は「後から考えて見ると、これは社会批判だったんだ」とじわっと染み出して来るようにしたら、何年も経った後でも観客の記憶に残ったかと思います。The little hours は一過性の笑いに集中し過ぎた感があります。もったいない。
1920年代、アイルランドの片田舎。2卵生双生児の孤児がこの家族がずっと住み続けていた屋敷に住んでいます。両親は生前2人に注意をしていました。
・ 夜中に外出しない
・ 他人を家に入れない
・ 長く家を空けない
女の子レイチェルは村に若くてハンサムが元軍人が現われてから家を離れようかと考え始めます。何か起きそう。
監督と同じ姓の人が何人か出演しているのですが、アイルランドには同じ姓の人が多いので、家族かどうかは不明。
後記: 幽霊物としてはかなり良い出来でした。恐らく幽霊風の出来事は現実ではなく、当事者の思い込みなのでしょうが、当事者の目で見た物語となっているので、幽霊シーンにも気合が入っていました。功労者は双子の病気がちの弟を演じる俳優。本当は幽霊ではなく、この家で代々行われている婚姻関係が問題を作り出しているという種明かしに説得力があり、納得の行く結末でした。
(両監督が演じる)スミス兄弟が10年経って帰郷。以前カルト集団から逃れ町を離れていました。ある日ビデオが届けられ、過去を調べようと思って戻って来ます。なぜか住民は誰も年を取っていません。気味の悪い様子は以前のまま。
トレイラー: 大した舞台装置も無く、ストーリーと演技で上手にホラーの雰囲気を作っています。
後記: 本日の大穴。解説を読んだり、トレイラーを見たりして、比較的低い期待を抱いていました。しかしこの種のジャンルの中では最優秀か、準優勝ぐらいの気合の入った、説得力のある作品でした。
監督は夫婦で、The ABCs of Death (O is for Orgasm)でファンタに参加したことがあります。
女性の芸術家と2人の愛人。そこへ凶暴なギャング3人と2人のオートバイの警官、250キロの金塊。これが出くわすと当然騒ぎになります。
トレイラー: 状況が人工的過ぎ、作品は気取り過ぎな印象を与えます。筋がおもしろければいいんだけれど。
後記: かなりお金をかけて、派手な美術で作った作品。この2人はビジュアルに凝る傾向があります。今回はタランティーノ風の作り方で行こうと決めた様子。そこへマカロニ・ウエスタンの現代版という筋運び。スタイルは統一が取れていましたが、筋があほらしく、タランティーノ風のユーモアが出ておらず、私自身は低い評価、友人の中には途中退場した人もいます。監督が経験を積むために今回はタランティーノ・スタイルの勉強をしたというのなら納得が行きますが、そうなると授業料が高くついただろうと思います。
今や大監督の1人となったギレルモ・デル・トロ。長編初期の頃からのファンです。ベルリンに来て、私のために日本のアニメ作品の主題歌を歌ってくれたり、日本語を話してくれたのには大感激しています。
子供の頃図書館で読んだアレクサンドル・ベリャーエフの両棲人間の大ファンの私としてはこういう作品を作ってくれた監督に改めて大感激。パシフィック・リムの続編を蹴っての仕事です。
1960年代前半、ある研究所の掃除婦とそこで研究対象になっていた両棲人間の交流を描いた作品。ホーキンズの演技の評判が高いです。
後記: 期待通り、予想通りの作品でした。
今年の作品は悪人役には徹底的に悪になってもらい、残酷、不条理、アンフェア満載で輝いてもらう方針の作品が多かったです。この作品で輝いたのはマイケル・シャノン。
長編デビュー。有名な監督の下でアシスタントなどをしていた人。
女性がジープに乗って食料とガソリンを探す。道中には焼け焦げた車や惨殺された死体が。過去に戻ると、彼女はギャラリーのオーナーと恋愛中。現在と過去のつながりは?
トレイラー: フランス映画ですが、英語でした。助かった。でも過去と現在のつながりは全然分かりませんでした。
後記: この2日に上映された10本の中では腹の立つ作品ではありましたが、夏のファンタと比べると、良い方に入る作品です。
詳しくはそちらのページで。
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