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Robot Dreams / Mi Amigo Robot / Mon ami robot / Meu Amigo Robo / Robot Dreams - Amigos Improvaveis / Il mio amico robot / 汪汪夢裡人 / 再見機器人 / ロボット・ドリームズ

Pablo Berger

原作:Sara Varon

Spanien/F 2023 103 Min. アニメ

声優

氏名不詳、
言語による会話無し、犬のため息などを担当

見た時期:2023年9月

2023年ファンタ参加作品

要注意: ネタばれあり!

見る予定の人は退散して下さい。目次へ。映画のリストへ。

★ ディズニーとも日本とも違うアニメ

特にアニメ・ファンではありませんが、たまにいい作品に出会うことがあります。イノセンスなどがその例。ルパン三世も好きでした。アイスエイジスクラットも大好き。

まあ、この程度の知識ですが、今回のファンタではトレイラーを見た段階から期待していたのが Robot Dreams。フランスは漫画王国で、時々アニメも作ります。この作品はスペインとフランスがお金を出し、スペイン人の監督が作っています。

★ 原作絵本とアニメ

サラ・ヴァーロンの同名のグラフィック・ノヴェル(2007年、28ページ+おまけ)が原作。ある程度成功を収めた作品。現在でも入手可能。

出版の翌年には既に映画化の話が持ち上がっていたようです。ベルガーはニューヨークに住んだことのある人で、2010年頃ヴァーロンの絵本を見たそうです。コロナ騒ぎで中断もあったようですが、2021年から制作を開始。

ヴァーロンの作品は1作を除き、人間は登場せず、動物にしてあります。映画化に当たってヴァーロンはパブロ・ベルガーを信頼して一任。ベルガーのやり方に口を挟まなかったと聞いています。(スペイン人のため正しい発音は不明。ドイツ系の名前なので、ここではドイツ読みしています。スペイン語の g は i と e の前では「ヒ、ヘ」と発音するようです。Berger なのでベルハーと読むのかも知れません。その「ヒ、へ」は日本語より口の奥の方から出る発音のようなので、私は白旗を振りまくっています。――奥様、助けて!)

ベルガーはスペインの映画監督。1988年、25歳ぐらいの頃に短編、2003年、40歳ぐらいの時に長編を撮っています。その後2012年、2017年、2023年に長編、2013年に短編と、比較的少ないです。脚本家としても少な目。2003年より前には留学をしたり、学位を取り、外国で教授もしています。私はロボット・ドリームズ以外は見ていません。その代わりファンタの他に2度、合計3回見ており、現在DVDを注文すべく、待ち構えています。

サラ・ヴァーロンの原作も取り寄せ、見てみました。アニメに比べ柔らかい画風。原作もアニメも台詞が無く、擬音だけ。原作は静かに物語が進み、夢のシーンと現実のシーンははっきり分けてあります。ベルガー版は物語の主題を変えずに所々にメリハリをつけています。ベルガーが挿入した、原作に無いエピソードもあるのですが、ヴァーロンが表現したい内容から逸脱せず、原作の意図に忠実です。

あっけらかんと筋をばらしますので、見る予定の人はこの辺で読むのを止めて下さい。

目次へ。映画のリストへ。

★ ストーリー

1、2分のトレイラーを見ると話の半分ぐらいが分かります。

1980年頃のニューヨーク。人種の坩堝を表現するために、住んでいるのは様々な種類の動物にしてあります。

☆ 主人公1

ニューヨークの町で1匹暮らしをしていた孤独なDOG。アパートにはDOGという表札がかかっています。何かしらの仕事で生計が成り立っているらしく、ウェスト・サイド物語に出て来そうなアパートで1匹暮らしをしています。 今日も電子レンジで出来合いの食事を温め、ソファーに座って1匹でテレビを見ています。2人用のゲームも1匹で2役。

ふとテレビの画面を見ると通販でロボットを売っている。「これだ!」と思い、電話を取って注文。暫くすると届いて、組み立ててみます。機械には強いらしく、届いたロボットを説明書を見ながら組み立てて行きます。RTFM。無事完成。

1980年代なのでまだインターネットや携帯はありません。

☆ 主人公2

DOGが注文した新品のロボット。この日からDOGには親友ができ、自分が行く所にはどこにでもロボットを連れて行きます。ロボットはまだ生まれたばかりなので世界を知らず、DOGのやることを真似してみます。

☆ 差込の余談 - ロボット3原則

私たちミステリー・クラブのメンバーは1970年代からロボット3原則と言うのがあるのを知っています。アシモフというソ連生まれのおっさんが小説の中で作った規則。アシモフはソ連生まれですが、御年3歳でブルックリンへ引越し。飛び級をして、高校に入るぐらいの年で大学入学。在学中にSF雑誌に投稿するぐらいの力がありました。他の人が大学に入学するぐらいの年で卒業。この頃すでにロボットをテーマにしていて、ロボット3原則なるものを作っています。

   1   ロボットは人間に危害を加えたり、及ぼしてはならない。
   2   ロボットは人間から与えられた命令に服従しなければならない。
     (従うことで人間に危害が及ぶ場合はしない。)
   3   ロボットは、1 と 2 に反しない限り、自分の身を守らなければ行けない。

ってな話なのですが、前提になっているのはロボットが人間のために働くということ。

☆ DOGは規則違反

DOGはロボットを組み立てるとすぐ、散歩に連れ出し、公園で一緒にスケート靴を履いて、ディスコのダンス、休憩する時にはホットドッグをおごる、湖にボートで漕ぎ出すなど、ロボットを友達扱いして、働かせることはしません。

そうやって夏の間1匹と1台は楽しい時を過ごします。

ロボットは金属製なので、寒いはずはありませんが、DOGが夜眠る時、ロボットに毛布を掛けてやるなど、DOGがいかにロボットを大切にしているかを示すシーンが出て来ます。どうやら夏の終わり、9月頃までのエピソードのようです。ここまでは誰もが楽しい気分で見ていられます。

☆ 別れ

ところがある日海岸で水遊びをしているうちにロボットが動けなくなってしまいます。市内の公園の湖ではなく、ここは大西洋岸。海水の塩分が祟ったのです。DOGはロボットを海岸に置き去りにせざるを得なくなります。タオルの上に寝かせて帰宅しますが、彼なりに助けようと思い、海岸に引き返します。しかし海水浴場は秋になって閉鎖。来年の6月にならないと開きません。

ロボットは自分の置かれている状況を悟り、悲しみながら時々楽しかった日々を思い出します。

ようやく年が明けて海水浴シーズンが近づくのですが、ロボットはそれまでにひどい目に遭い、片足はうさぎに切断され、指の部分を持ち去られます。海水浴場が再び開く直前に廃品回中の猿にさらわれ、鰐親子の業者に売り飛ばされます。ぶっ壊れたロボットは二束三文の値段。その上ガラクタの山に放り投げられ、さらに壊れてしまいます。

☆ 新しい出会い

たまたまやって来た、アパートの管理人を仕事にしているアライグマがロボットを買います。仕事柄修理ができるため、失った片足の代用品、お腹の部分にはラジカセをつけてみると、何とか動けるようになります。ロボット三原則通りロボットは管理人の仕事を手伝わされるのですが、管理人は親切で、ロボットはそれなりに幸せな日々を送り始めます。

海水浴場が開いた日、さっそく海岸に戻って来たDOGはロボットを見つけることができず、残された片脚だけを持って帰宅。仕方なく新しいロボットを注文しますが、最初のロボットを忘れることができません。新しいロボットと再び海岸に行ったDOGですが、同じ間違いを2度やるまいとロボットが水に入らないように注意します。

☆ 再会か・・・?

ある日、ロボットが住んでいるアパートの前をDOGが通りかかります。それを目にしたロボットは自分のラジカセのボリュームを最大限上げて、去年一緒にダンスをした曲をかけます。アース・ウィンド&ファイアーセプテンバーです。それが耳に入ったDOGは思わずその場で踊り出します。ロボットも自分が住んでいるアパート最上階の部屋の中で踊ります。ロボットは、DOGに会うべく、全てを放り出して外に出ます。ですが、その時ロボットはDOGが新しいロボットと一緒だと気付き、名乗り出るのを思いとどまります。自分には新しい主人がいて、良くしてくれる。DOGには新しいロボットがいる・・・その関係を壊しては行けない・・・と再会を思いとどまります。聞くも涙の物語。おしまい。「ティシューを必ず持って行くこと」と言っている映画批評家もいます。

★ 効果的に使われたディスコ・ソング

トレイラーにも出て来ますが、アース・ウィンド・アンド・ファイアーの1978年のヒット曲セプテンバーがダンス・シーンに使われます。

私自身は、ソウル、ファンク、ブルースのファンで、ディスコには普段はあまり関心を持っていません。ですが、セプテンバーは非常に上手く映画に溶け込んでいます。1匹と1台がニューヨークの(恐らく)セントラル・パークに出掛け、ローラー・スケートを履いて、ラジカセでセプテンバーをかけながら踊るシーン。前半のクライマックスと言えます。

バンドの中心メンバーのモーリス・ホワイトはスタックス系のミュージッシャンと親交があり、また、ラムゼー・ルイスのバンドにいたことがあり、ルイスは恩師に当たるようです。私自身モータウンよりスタックス系のバンドやミュージッシャンが好きなことと、ラムゼー・ルイスはそれほどジャズが好きでない私が好きな数少ないジャズ・マンだったため、波長が合うのかも知れません。1970年頃から活動を開始したバンドですが、暫く不調。70年代の中頃からヒットが出始め、セプテンバーが大ヒット。

★ 表現のミニマリズム

子供向きのアニメと言うとディズニーがまず頭に浮かびます。それから数々の日本のアニメ。そしてピクサー。主人公に色々な動きをさせる作品が多いです。私は劇映画を見ることが圧倒的に多く、それほど多くのアニメを知りませんが、ロボット・ドリームズと比べられる、あっさりしたアニメとしては鉄腕アトムが思い浮かびます。

ロボット・ドリームズはちょっとした目の動き、ちょっとした手の動き(ちょっと手をつないでみるシーンなど)などで止めてあり、しつこく描きません。あっさりし過ぎているかと思うものの、見終わってみると、過不足なくちょうどいい具合だったと気づきます。ユーモアを交えたメリハリがあるため印象にはきちんと残ります。例えば海岸で3色カラーの海水パンツをはいていたDOGが帰宅しようというので、腰をタオルで覆い、海水パンツを脱ぐのですが、普段はいつも裸で暮らしているので、海水パンツを脱いだ後のDOGはすっぽんぽん。後で考えるとなぜタオルで腰を覆ったのかが???となります。

★ 現実逃避の夢

原作は漫画の駒の枠が直線になっていると現実の話、曲線になっていると夢と描き分けています。アニメでは最初から夢と分かる入り方をするシーンと、見ているうちに徐々に夢だと分かるシーンがあります。例えば冬の雪の中通りを歩くシーン。ロボットはまだ海岸に横になっているので、1匹と1台は一緒に冬を過ごしたことが無いはず・・・と思ったら夢だったりします。

★ 引用シーン

有名な映画からちょっと数えただけでも5つ以上引用されています。

レビューなどを見るとあと2作引用されたようです。

★ ラスト

パブロ・ベルガーの夫人は日本人だという話を聞きました。原作もアニメも1匹と1台は再会しないのですが、彼女の日本的な考え方が影響したのかなとも思います。ここで再会して2組のカップルが仲良くなってハッピーエンドというのがアメリカっぽい解決法かも知れません。原作者ヴァーロンはアメリカ人なので、ハリウッドのためにストーリーを提供するのなら、そういうラストになったかも知れません。しかしヴァーロンは独自の結末にしており、ベルガーもそれを変えずに使っています。外国生活の方が長い私も、悲しいけれどこれでいいのではという考え方です。その分大人の鑑賞に耐えるでしょう。

実生活で拡大家族をやっているデミ・ムーア、ブルース・ウィリス元夫妻のような解決法は離婚の多い現代では正解の1つと言えると思います。離婚後それぞれ新しいパートナーを得、旧カップルの間にできた子供たちに配慮し、あまり遠く離れた場所に住まず、休暇は両家族が子供と新しいパートナーを連れて一緒に過ごしていたそうです。ムーアがその後そのパートナーとも別れることになったり、ウィリスが病気になったりしましたが、現在でも何人かの家族が集まるそうです。これは少なくとも子供が大きくなるまではいい方法ですし、離婚、離婚、離婚と続けて、最後1人切りになることに比べると、新しいパートナーを連れた拡大家族は、かなりましな解決法です。ですがロボット・ドリームズでそれをやると、ご都合主義が過ぎる気がします。

いくつかレビューを読みましたが、大人にも子供にも楽しめる作品だと書いている人が多いです。子供の時はまずDOGの1年の経験として読み、見、大人になってからもっと深い解釈というわけに・・・行きます。

★ 絵のミニマリズム

ベルガーがアニメ用に原作を変更した絵はミニマリズム(ゴテゴテした装飾を排して、あっさり表現)の成功例です。日本ではかなり昔からミニマリズムの傾向が強く、思い切ってバッサリ背景を切ってしまい、主要な物だけを描くことを好む国なので、何百年も実践している国と言えます。近年のドイツなどではミニマリズムがいい事とされ、褒めたがる人が多いのですが、本当の成功例は多くありません。

ベルガーの絵ははっきりした線を使い、単純な色彩にしてあり、やり過ぎ感がありません。不足もしていません。ちょうどいいバランス。ヴァーロンの方は椅子に座ってゆっくり絵を見るタイプの本で、そちらもいい具合です。ベルガーは1時間40分ほどで終わらなければ行けないので、1秒1秒の印象がはっきりしている方がいいです。ベルガーは原作からそこを上手に変えていて、素晴らしい出来です。これまで撮った映画の数が少ないのに、凄いなあと思います。

元々が絵本で、それをアニメ化する時、緩い線、柔らかい線で描かれている絵をくっきりした線に変えなければ行けないのはアニメ化の際の技術的な問題なのだそうです。ドイツでヒットした挿絵入りの本を映画化した著者が話してくれました。当時ベルリンで本を数冊出してヒットしていた若い作家と知り合った時、映画化されたばかりの作品について教えてくれました。そのアニメの場合原作の絵の方がずっといいと感じていたのですが、ベルガーの場合はアニメ化が上手く行っていました。ピクサーなど、アニメ作品を作る技術が大発展した現代、ベルガーが大分前の技術でこういう作品を作り、オールド・スクールの手法で2023年に成功したのは、意外でした。私は二昔ほど古い世代の人間だから、私に大受けするのは当然かもしれませんが、この作品は若い人からも受けています。

もう1人、個人的な知り合いではないのですが、絵本を先に知って、後からテレビ用のアニメを見たケースがありますが、こちらはアニメ化が上手く行って私は違和感を感じませんでした。まあ、アニメ化はケース・バイ・ケースなのでしょう。

★ すてきなプレゼント

ファンタで見た翌年の5月、近所の映画館で、他の映画館に先駆けて一般公開されました。たまたま祭日だったので出掛けて行きました。すると宣伝用のバッジ、ハガキ、パンフレットがあり、貰えました。2日後もう1度行ったら映画館の人が覚えていて、またバッジなどをプレゼントされました。その上、上映期間が終わって余っている物があったら、全部あげると言われました。何と等身大の大きなパネルまで。大喜び。感謝感激でした。ファンタ仲間に一揃いプレゼントしたら、喜んでくれました。何とかこのパネルを会社の事務所に持ち込めないか、今作戦を練っているところです。

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