Clear-Com MS-232の修理(Sep 12, 2009)
Clear-Com装置のメインステーション、MS-232(仕様)のスピーカー音が可笑しいとヘルプ。
診るとスピーカー音が「ガリガリ・ビリビリ・ガサガサ・グジュグジュ」etc状態で、とても聞けたものじゃない。
カバーを外し様子を見るとスピーカーアンプのLM384Nが火傷をする位に熱い。 こいつが原因か?と思いつつ、この種のキカイにはチト自信もあり、早々に修理を引き受けた。


写真は上蓋を取り外したMS-232。19インチラックEIA/1Uサイズに納め、奥行きは突起物を除き170mmと短い。30V/1.75Aのスイッチング電源がひときは大きく見える。
アナログ回路で構成され、基板上のICデバイスも2.5mmピッチなので取り扱いやすい。
シャシは独特の光沢を放つヘアライン加工の高質アルミ。ビス受け部分はヘリサート処理がなされ、何度もビスを回す内にバカになることが無くベリーグッドだ。
フロントパネルやリアパネルの塗装の食い付きも非常に良くラックにビス留めしても塗装が割れる事は無い。 3PのACコンセントのアースラインは筐体に接地されている。
Made in USAであるが、SW電源やスピーカーはTAIWAN製を使うなど、ローコスト化のためか使用部品は多国籍になっている。
既に2007年9月に生産完了と国内代理店である松田通商のサイトにあるが、非常に息の長い製品である。

アンプを疑うが実はスピーカー不良
カバーを外すとナショナルセミコンダクター(NS)のIC、LM384Nが目に飛び込んでくる。
このICはあの有名なLM380Nの兄貴分。実はLM380Nとは40年近い付き合いがあり親しみを持って眺めた。同じDipの14Pinでそのまま差し替えが出来る。但しLM384Nは利得は同等だが電圧が高く掛けられ倍以上の出力が得られる。
IC周辺を眺めるとハハーン・・・大体何をやっているか分かってしまうから困ったもの・・・などと独り言を呟きながら赤外線温度計をLM384Nに当てると数分で55℃に達した。熱くて指先でも瞬間しか触れない・・・何で?。
しかもLM384Nの絶対最大定格はVcc=26Vの筈だが、堂々とクリアカム電源電圧である30Vを加えている。これって規格オーバーじゃない!と思いつつも、その追求は本来の目的じゃないのでサラッと流し、テスターでLM384Nの電圧を当った。
電源14番Pin=30V、Bypass1番Pin=14.96V、出力8番Pin=15.55V。このICは自動的に電源電圧の半分に出力がバイアスされるので、動作としては問題なさそうだ。
と、ところがその最中スピーカーから音が出なくなった。それではとオシロスコープでLM384Nの入出力を当ると動作はしている。入力に歪ませた信号を入れると出力にはその状態が再現されるのでLM384Nアンプは問題無い。
ひょっとしたらスピーカーユニット?と思いながら、ワニ口で外部に用意したスピーカーにつなぐと何とこれが正常に音を出した。


代替スピーカーの選定と交換
外部スピーカーをワニ口でつないで丸一晩様子を診たが問題ない。そこでスピーカーユニットをオーダー。EIA/1Uサイズに納まるスピーカーユニットは意外と少ない。フォスターのサイトに同サイズ(40mmx70mm)の物がある。ところが固定穴の形状が異なるため別を探すと秋葉原のコイズミ無線にあった。実はこれもフォスター製の072A01。2W/8Ωで同等と考えオンラインで発注した。左は取り外したスピーカーユニット。MISCO/740A08-1/TAIWANと記されている。下は到着した072A01を交換実装。Made in Chinaで製造元は同じ模様。


スピーカーユニット断の推測
 @グースネックMic→Micアンプ→HYB(負荷オープン反射)→LM384N→スピーカーで発振
 A非可聴周波数を含む発振により連続的にスピーカーが駆動
 Bスピーカーユニットのボイスコイル発熱(LM384N含)・断線



ところで基板は取り外し出来るの?
背面パネルにはノイトリックのXLR型コネクタが8個、フォーンジャックが2個、スライドSWが2個VRが1個が顔を出し、内部の基板にハンダ付けされている。そしてそのうちXLR型コネクタは背面パネルに外側から差し込まれ、ご丁寧にリベット打ちされている。
フォーンジャックはナットを外せば良いし、VRやスライドSWは穴を通しているだけだから良いが、このXLR陣はどう見ても容易ではない様に見える。
ところがXLR型コネクタの背面を良く観察するとコンタクト部分のみ基板にハンダ付けされ、リベット打ちされた筐体と分離できる仕掛けになっている。
したがって、電源ユニットを外してクリアランスを稼いでおいて基板の固定ネジを外し、基板を前方に引っ張れば取り外す事が出来る。
この仕掛けに気付かないといきなりハンダゴテを当てる事になりドツボにはまる事になるのでご注意を!。
所 見(考察)

当初はスピーカーアンプの不良が原因と考えたが、結果はスピーカーユニットのボイスコイルの断線だった。
ここで問題になるのは、MS-232のライン側がオープンになったとき、HYBバランスが崩れマイクから送話された信号がライン側で反射してListn側へ一機に流れ込んでくること。このときスピーカーがONでListenレベルが上がっていると格好の発振(ハウリング)ループが出来上がってしまう。
発振による電力でボイスコイルが発熱すると、初期は接着剤が緩みガサゴソ音になるが、最期は温度に耐え切れずボイスコイルは溶断する。
Clear-Com装置のスピーカーアンプは相応のパワーを持ち、回路定数からみて可聴域外(高域)にも特性が伸びている様に思える。したがって可聴域はもとより、聴こえない周波数での発振もあり得るので、小型スピーカーの場合は注意が必要だろう。
ちなみにLM384Nの飽和出力は5Wを超えるから、連続スイングが続くと2W程度のスピーカーでは、ボイスコイルにとって辛い状況になる。さらにLM384NのVCCが定格26Vより4V高い30Vでは飽和出力の上昇を招く。
またMS-232は、グースネックMicとスピーカー間が非常に近距離であり、かつ同一パネルに固定されているため、HYBバランスが崩れると非常にハウリングを起し安い構造上の特徴がある。
なお予防保全だが、ノーシールドのスピーカー配線がフロントパネル裏のコントロール基板に接触し静電結合する(高域の発振誘発)のを嫌い一定の間隔を確保した。
さて、いくら効率的作りがお好きなMade in USAだとしても、前述の様に最大26V仕様のLM384Nに30Vかける設計は如何なモノかと率直な疑問を抱かせる。
それに、スピーカーユニットには高耐電力の物を使うか保護回路が欲しくなるがどうだろう。
トラブル要因を「使い方の問題」として片付けるのは20世紀の発想。21世紀はユーザーレベルの如何に関わらず安定運用が確保される事が望まれると言えよう。
・・・とは言え現実的な対応として運用面の工夫も必要である。即ちラインの適正な負荷状態の確保とHYBバランス(側音のNull)の管理が求められる。
適正に管理されたクリアカムパーティラインシステムは、2Wシステムでありながら4Wマトリクスシステムにも匹敵する良好な動作を期待できる素晴らしい装置である。


余 談
Clear-Com社のグースネックマイクのタッチノイズは他社では真似の出来ない位低く抑えられている。したがってMS-232やMS-400等のメインステーションで同一パネルにあるスピーカーをガンガン鳴らしながら、グースネックでのトーキングが実現する。
もう20年も前のことだが、試しに国産有名メーカーのグースネックマイクをメインステーションに取り付けたことがあったが、低域のボコボコ・ノイズが多く全く使い物にならなかった(ワイヤードではOKだが)。スピーカーが鳴らすフロントパネルからの直接振動を見事に軽減させる能力には圧倒された。
関連情報
 @About Audio Hybrid Circuit・・・Audio-HYB回路全般について。
 AHow to Clearcom/RTS Line ⇔ 4Wire Interface・・・Clear-Com装置関連ノウハウ。
 Bハイレベル(パワー)AF-HYBの考察・・・動作原理など。
 Cハイレベル(パワー)AF-HYBの製作・・・スピーカー出力混合。
 DPROFESSIONAL INTERCOM PRODUCTS・・・MS-232/Clear-Com社のPDFファイル。
 ERFシグナルジェネレータの混合・・・U-PADを使ったRF-HYBを混合器に使う。