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1998年11月の感想

199810199812


<10タイトル>
アダムとイヴの日記(M・トウェイン) (11/1)
十五歳の残像(江國香織) (11/2)
見えないグリーン (J・スラデック) (11/4)
演じられた白い夜(近藤史恵) (11/8)
地下室の殺人(A・バークリー) (11/10)
謎解きが終ったら(法月綸太郎) (11/15)
メン アット ワーク 山田詠美対談集 (11/18)
シネマでヒーロー(武藤起一編) (11/19)
死刑台のエレベーター(N・カレフ) (11/23)
アルケミスト(P・コエーリョ) (11/25)

マーク・トウェイン 大久保博訳『アダムとイヴの日記』旺文社文庫 1976
Mark Twain, EXTRACTS FROM ADAM'S DIARY/EVE'S DIARY

*内容紹介
旧約聖書創世記のアダムとイヴが、もしも日記をつけていたら?

*感想
アダムの日記のほうは、アダムがイブをうざったく思う気持ちに、なぜか感情移入。カインが「ある日突然発見され」、どんどん成長していくさまが、アダムの目から見るとどうだったのか、これはとても面白かった。そうだよねえ、人間は、アダムとイヴしかいなかったんだもの。

イヴの日記は、ああ、やっぱり女性らしい感じがあらわれているといった内容。より精神的な日記。

しかし、なんと言っても、最後の一行に「おおっ」と思ってしまう。しみます。

98/11/1


江國香織『十五歳の残像』新潮社 1998

*内容紹介(帯より)
大人と子どもの間で揺れる、どっちつかずの少年時代。格好いい大人たちは、どんな15歳を過ごしてきたのか。江國香織の暖かなまなざしが、22人の思春期を鮮やかに蘇らせる。

*感想
というわけで、「ミセス」'94.1−'95.12に連載していたインタヴュー集。登場するのは、甲斐よしひろ/安西水丸/大仁田厚/森田正光/琴錦功宗/公文公/春風亭小朝/金子功/萩原健一/田尾安志/大島渚/美川憲一/山本直純/金田喜稔/谷川俊太郎/嵐山光三郎/長塚京三/石坂浩二/大沢在昌/おすぎ/五味太郎/宮本文昭

みなさん、どうして15歳のことをそんなにおぼえているの? 私はパッと思い出すことができません。それぞれいろいろな場で活躍している人たちばかりだけど、なにかで有名になる人というのは、やっぱりどこか言うことが違うんだなあと思ってしまった。というより、表現がうまいのかもしれない。自分を表現する術をちゃんと持っている、身に付けている。そして、それを言葉ですうっとあらわすことができるんじゃないかな。てーい、格好いい大人って、少年時代から格好良かったんじゃないの? 姿が格好いいのじゃなくて、考え方が格好いいの。男の格好よさ。それは、大人のもつ少年の気持ちだけじゃあない。少年の持つ大人の考え方も格好いいんだ、って気づいた。しょっぱなの甲斐よしひろの格好よさが印象的だった。なんとも言えずくらくら〜。

インタヴューを行った時の本人の言葉そのままと、江國香織の印象による言葉がまじりあっているのが、とても心地よい。

98/11/2


ジョン・スラデック 真野昭裕訳『見えないグリーン』ハヤカワ文庫HM、1985
John Sladek, INVISIBLE GREEN, 1977

*内容紹介(裏表紙より)
名探偵サッカレイ・フィンは、我が目を疑った。内側から鍵をかけられた、窓ひとつない狭いトイレの中で、老人が奇怪な死を遂げているのだ。なにものかが、老人の弱った心臓にショックを与え、死に追いやったのは明白だった。だが、フイン自らも見張っていた完全な密室でどうやって−−? 老人を皮切りに、三十五年前の<素人探偵会>のメンバーを次々に襲う姿なき殺人者。探偵の推理を嘲笑うかのように、不可能とも思える犯行が繰り返されるが・・・・・・鬼才が現代の密室不可能犯罪に挑戦する意欲作。本格ファンを唸らせる奇想天外のトリックとは?

*感想
それほど言葉遊びをしているわけじゃないけど、なぜか『ホッグ連続殺人』を思い出すような雰囲気。地に着いた解決編なのに、やっぱり全体を通した印象は「軽やかな遊び」。トリックが好きな人は好きになるかもしれない。実は私は、最後までテンポにいまいち乗れなかった。どうしてだろう。

でも、この「推理問題」は面白いでしょ。答えも本文にちゃんと出ています。

判事とモデルが、とある丘をのぼって、また降りてくる自転車の競争をすることになりました。何人かの胴元が優劣を話し合っているのを、ある賭け事師が立ち聞きしました---
「判事は登り坂でモデルよりも時速一マイルは早く走れる」
「そりゃそうだが、彼女は下り坂では彼よりも十パーセント走れるぞ」
「登り坂の距離も、二人の速度も誰にもわかってない」
「そんなことは問題じゃない。勝負ははっきりしてる」
これを聞いて、胴元というのは常に情報通の正直な連中と知っていたので、その賭け事師は自分のお金を---誰に賭けたでしょう?

98/11/4


近藤史恵『演じられた白い夜』実業之日本社 1998

*内容紹介
新しい芝居の稽古のために、集められた男女8人。芝居は推理劇。台本は、少しずつ渡され、誰が殺されるのか、そして犯人なのかも最初はわからないようになっている。台本中で最初の被害者がわかった翌朝、その役柄を演じていた女性が死体となって発見される。それから先も、まるで台本を追うように事件が起きてゆく。

*感想
隔離された場所で起こる殺人劇。謎めいた台本に操られるように、現実にも事件が起きてゆくさまには、恐ろしくも引き込まれて読んでしまった。心理的な書き込みは、いつものとおりしっかりしているけれど、あまりしつこさを感じず、むしろ著者にしてはあっさり仕上げてあるような気もした。読み終えてみると、もっと濃くても良かったような気もするくらい。気持ちの綾を書くのは、やっぱりうまいと思う。

近藤史恵って、なんていうか、どろどろとした気持ちの内面を描くわりに、突き放したところがあると思う。後味が良いとは思わないけれど、どーんと重くのしかかるでもないと感じる。「終わったことはしょうがないよ」みたいなところがあるというか。うーむ、慣れちゃっただけかなあ。

クセがあって嫌いな人は嫌いみたいですが、私には毎回楽しみな人です。

98/11/7


アントニイ・バークリー 佐藤弓生訳『地下室の殺人』国書刊行会(世界探偵小説全集12) 1998
Anthony Berkeley,MURDER IN THE BASEMENT, 1932

*内容紹介(表紙折り返しより)
新居に越してきた新婚早々のデイン夫妻が地下室の床から掘り出したのは、若い女性の死体だった。被害者の身元も分からず、捜査の糸口さえつかめぬ事件に、スコットランド・ヤードは全力をあげて調査を開始した。モーズビー首席警部による<被害者探し>の前段から、名探偵シェリンガム登場の後半に至って、事件は鮮やかな展開をみせる。探偵小説の可能性を追求しつづけるバークリーが、様々な技巧を駆使してプロットの実験を試みた傑作ミステリ。

*感想
バークリーなのだから、皮肉な結末が待っているだろう、と期待して読んでしまった。前半はモーズビーによる捜査が割合地味に描かれるし、シェリンガムが登場してからも、証拠探しに終わるのか? と心配になってくるのだけど、最後にはやっぱり、にやっとして読み終えてた。読者の気持ちをAへ誘導して、でもバークリーならそのままじゃないよね、と思わせつつも、もしやこのまま? という不安も抱かせる。一応、気持ちはAに残されたまま、期待してたBが目の前にあらわれて、それがこっちの期待通りなので安心(というのもヘンだけど)かつ嬉しいという、そんな感じ。偶然な設定も、気持ちを誘導させるような描写も、すべては最後のために用意されているように思った。わざと途中を平凡に描いているようにも思えたし。

それほどヒネリがあるわけではないけど、ああバークリーだなあというのを感じられる内容。

98/11/10


法月綸太郎『謎解きが終ったら』講談社 1998

これまでに書かれた、単行本や文庫の解説をまとめたもの(1つだけ、雑誌に載せられたものもある)。

解説自体を読んだものも、本自体を読んだものも少ない(文庫になる前に単行本やノベルスで読んでいたりすると、文庫解説は読まないので)。解説だけ読んで、果たして面白いのかと思ったけど、案外楽しめた。

彼の解説は、こんなに枚数さくのかーというのが第一印象。そして、その本自体の解説というより、脇から固めて掘り下げるタイプに思った。彼自身の膨大な(に思える)読書体験から関連をさぐって、こういう読み方をしたんだよ、っていうのを出してくれる。竹本健治 『緑衣の牙』(『眠れる森の惨劇』改題)の解説なんて、その分析自体がミステリの解読みたいで面白かった。

読んでいない本の解説の中に、読んでいる本が引き合いに出されている。そうなると、読んでいない本を読みたくなる。逆もまたしかり。デクスターのとある作品を「何度読んでもサッパリわけがわからない」と言ってるのだけど、彼にもそんなものがあるのか! と単純に驚いてしまう。

解説全体を眺めると、そんなムズカシク読まなくてもいいじゃん、と思うところもある。けど、刺激的という点で、悪くはないな。

98/11/15


『メン アット ワーク 山田詠美対談集』幻冬社 1998

登場人物は、以下のとおり。

石原慎太郎/伊集院静/井上陽水/大岡玲/大沢在昌/奥泉光/京極夏彦/佐伯一麦/団鬼六/西木正明/原田宗典/水上勉/宮本輝/村上龍

あははと笑ってしまった箇所。ここだけ引用してもうまく伝わらないかもしれないけど。

私と村上春樹の読者が重なってないことは確かね。自分から口説きたいやつは私のを読むし、偶然を待っている人は村上春樹に行くわけでしょう。(pp.31-32)

誰かの対談の中に、他の誰かと対談した時の話題などが絡んできて、そこからまた発展していくのが楽しかった。団鬼六や水上勉のような、うーんと年上の人との対談にも全然びびってないところがいいねえ、それに、そういう人との対談がまた深くて良いのだ。

京極夏彦は、対談の日ちゃんとゴミ出しをしてきたそうです(笑)

98/11/18


武藤起一編『シネマでヒーロー』ちくま文庫 1995

永瀬正敏、三上博史、豊川悦司、佐野史郎へのインタビュー集。『映画愛 俳優編』(大栄出版、1993)を男優編として再構成し、文庫のための新たなインタビュー(95年)を加えたもの。

ひょんなことから俳優への道へ入ったんだなと思え、俳優になるって思い込んでしがみついて、という印象から遠い4人。オーディションに受かってしまった、とか、サラリーマンになるつもりだったんだけど、とか、なれるんじゃないかと思ってたとか、そういう感じなんだもの。それでも、それぞれ衝撃を受けてそういう世界にのめりこんでいくわけで、運命を少し感じてしまう。

永瀬正敏と三上博史が、同じような答えをしているところがあって、面白い。長くなるけど引用。

---ふだん永瀬くんは、どんなプロセスで役作りをしていきます?
永瀬 一生懸命作るほうですよね。自分の中にあるものとか、何かの機会に接したものとかを、一生懸命、引き出してそこから作る。そしていざ初日を迎える前に、全部、真っ白にしようと努力するんですよね。そこがね、とっても大変なんです。実際に動いてみなけりゃ、わかんないですし、共演の人の出方によっても芝居は変わってくるから。(pp.50-51)
---何も考えないというのは、現場で何も考えないという意味?
三上 そうそう。現場へ入る前は、以前よりいろいろなプランを考えるようになっていると思うけどさ、いざカメラの前に立ったら一旦、全部忘れるんです。あとはセットの中に飛び込んで、そこにあるものに身を任せる。すると、それまで考えていたプランが全部ごちゃまぜになってくるんだ。
---自分の内部で演技プランを醸成して行く、そんな感じですか?
そう。セットの中に、(中略)見渡せば必要なデータはそろうんですよね。で、まずフンフンフンと考える。そのあと、きれいに忘れてから「そろそろお願いします」とカメラを回してもらう。最初、僕の中には植木鉢を投げるというおぼろげなプランがあるんだけれど、いざつかんじゃうと投げられなかったりするわけですよ。それでフッとプランが変わって、つかんだ植木鉢を延々と叩く、とかね。あとは成り行き任せです。(pp.103-104)

「あなたにとって贅沢とはどんなことですか」に対する三上の答え。カッコイイのよ。

とにかく、話を引き出すインタヴューがうまいなあと思った。

98/11/19


ノエル・カレフ 宮崎嶺雄訳『死刑台のエレベーター』創元推理文庫 1970
Noe"l Calef, ASCENSEUR POUR L'ECHAFAUD, 1956

*内容紹介(とびらより)
夕闇せまるパリの一角、ビルのエレベーターにとじ込められたジュリアンは抜け出そうと悪戦苦闘していた。ようやく36時間後に脱出して帰宅した彼を待っていたものは殺人容疑であった。エレベーターの中にいた彼にはアリバイがない。しかも、彼はなぜその時間にエレベーターの中にいたのか話せない秘密があった。偶然の一致、偶発した出来事の重なりの中で、追いつめられた男の焦燥と苦悩を描いた第一級のサスペンス・スリラー。

*感想
「作者紹介」のところにも書いてあるけれど、とても映像的に書かれた物語と思った。この映画はみたことがないのに、文章を読んで、こんなふうだろうか、と映像が頭に浮かんでくるような感じ。

自分に殺人容疑がかかりつつ、それを話せない理由がある、と。でも、その理由は、許される理由じゃないんだよな。この主人公の男に降りかかる出来事は、結果から見ると同じなのよ。アプローチが違っているだけで、本当はそうなるべきなわけ。だけど、そこにある「間違ったこと」に対して、主人公もそして私も敏感に反応してしまうから、物語は成立する。その居心地の悪さは、バークリーの某作品みたいな読後感。こちら、裁判がなんだか甘いような気がしたので、余計シビアに思えたなあ。

映画がこの物語に忠実につくられているのならば、みるのはちょっとキツいです。とりあえず、今は遠慮しておきたい。焦燥感がたまらん。

98/11/23


パウロ・コエーリョ 山川紘矢+山川亜希子訳『アルケミスト 夢を旅した少年』角川文庫ソフィア 1997(1994)
Paulo Coelho, O ALQUIMISTA, 1988

*内容紹介(裏表紙より)
羊飼いの少年サンチャゴは、アンダルシアの平原からエジプトのピラミッドに向けて旅に出た。そこに、彼を待つ宝物が隠されているという夢を信じて。長い時間を共に過ごした羊たちを売り、アフリカの砂漠を越えて少年はピラミッドを目指す。「何かを強く望めば宇宙のすべてが強力して実現するように助けてくれる」「前兆に従うこと」少年は、練金術師(アルケミスト)の導きと旅のさまざまな出会いと別れのなかで、人生の知恵を学んで行く。欧米とはじめ世界中でベストセラーとなった夢と勇気の物語。

*感想
わかりやすい話のようでいて、実はわかりにくい話に思った。具体的に「これ、それ」という対話というより、象徴的な対話で進む物語。だからこそ、多くの人に受け入れられた話なんだろうな。自分の環境、境遇、立場と照らし合わせて、物語を読めるから。先に目指すものがある人にとっては、勇気づけられる心地よい物語と思う。今の私はクリスタル商人だな、多分。

すべては一つという大きな考えかた。最後の最後、宝物のありかを知った時、循環する世界を思う。

蛇足:「なにかを死ぬほど強く望んでどーのこーの」という文章だか、歌だか、そういうテーマだか、とにかく、以前読んだような記憶がひっかかってる。どこでだったろう?

98/11/25


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