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Cool Cool Dandy2  〜Summer Night Festival〜

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第27章

 病院側はあらゆる検査を駆使して目覚ましい回復の原因を探るつもりらしかったが、ヤムチャは半ば脅しまがいに強硬に退院を主張し、ようやくそれは受け入れられた。
「ダメよ。お願いだから無茶しないでちゃんと検査を受けて。わたし、あなたがすっかりよくなるまで毎日ここへ通って来るわ。仕事は休みを取ったの。何なら辞めたって構わないのよ」

 おろおろと取りすがるアロマに、ヤムチャはあわてて言った。
「そんなことさせられないよ。オレはもうぴんぴんしてるんだし、きみが心配することは何もない。悪い夢だったと思って、今までのことは忘れて元の生活に戻るんだ」
「そんな……なぜそんな他人行儀なことを言うの? あなたはわたしの身代わりになってくれたんじゃない。愛しているから……そうなんでしょ?」
「違うんだ。きみだから助けたわけじゃない。たとえ通りすがりの婆さんだろうと、行きずりのオッサンだろうと―――オッサンならちょっと躊躇ちゅうちょするかもな―――襲われたのが誰であれ、オレは助けに入ったと思う。本来ならヤツのナイフをたたき落とせるはずだったんだ。それがあの野郎、意外に素早かった上に、ナイフの扱いに慣れているようだった。だから優男やさおとこだと思って油断していたオレはあっさりやられてしまった。それだけのことさ」

 アロマはいまいましそうに親指の爪を噛むと、低い声でつぶやいた。
「あいつ、今はフリーターだけど、以前に少しだけ軍の情報部でプログラマーをやっていたのよ。基本的な護身術はその時に身につけたんだと思うわ」
「なるほど。盲点だったな。今後の教訓にしておくよ」
 軽く笑ってからヤムチャは真顔で言った。
「あいつは逮捕されたし、これできみも安心して生活できるようになる。オレに対する気持ちは嬉しいけど……それは不安と恐怖におののくきみの心が、一時的に誰かすがりつける者を求めて、それがたまたまオレだっただけなんだ。気持ちが落ち着けばきっといい男が見つかるさ」
「残酷なこと言うのね。…….わかったわ。今日のところは帰るわ。でもわたしは諦めないから」

 アロマが帰ったあと、すぐにでも出て行くつもりだったのが、次々と見舞客が訪れて機を逸してしまった。まずはタイタンズのマネージャーが様子を見に来たついでに、監督の機嫌が麗しくない旨を伝えていった。
「ゆうべの試合を落として、ただでさえ虫の居所が悪い時にこのスキャンダルだもんな。見たところもう大丈夫らしいが、当分スタメンからは外すってスターノ監督からの伝言だ。おまえの代わりに4番にはルティネスが入った。いいか、今後は身を慎めよ。また何かあったら今度は二軍落ちだぞ」
 グサリと釘を刺すとマネージャーは出ていった。

 次に来たのがクリリンと悟飯だ。
「ヤムチャさん、婚約者を巡る三角関係のもつれだって聞いたけど、こんなことで死んだらシャレになんないっすよ。……でもいいなあ。オレも一度でいいから三角関係ってのを経験してみたいよ」
 クリリンの見舞いの言葉は最後には愚痴になっている。ヤムチャは苦笑した。
(そっか。オレはアロマの婚約者としてあの男に会ったんだっけ。世間じゃそういうことになってるのか)

 敢えて訂正するつもりはなかった。本当の事情が知れればアロマが世間の好奇の目にさらされ、悪者にされるのはわかりきっている。それでは彼女がかわいそうだ。
 マリーンにだけは真実を話そう。彼女さえ信じてくれればそれでいい。事件のことはニュースで知っているはずだ。すぐにでもここへ駆けつけてくれるだろうか。

「な、なあ、おまえたち、ここへ来るまでに18、9の女の子を見なかったか? 背が高くて、思わず振り向きたくなるような美人だ」
 クリリンと悟飯は顔を見合わせた。
「見なかったですけど。その人がヤムチャさんがかばったっていう婚約者ですか?」
「い、いや、そういう訳じゃないんだけど」
「ヤムチャさん」クリリンがおごそかに言った。「いい加減フラフラするのはやめて一人に決めた方がいいっすよ。だいたいヤムチャさんは贅沢なんだよな。オレだったら恋人なんて一人いれば充分だって思うけど」

 そこへドアがノックされて、花を抱えたアメリアが顔を出した。
「こんにちは―――あ、ごめんなさい。お客様ね」
「アメリア! よく来てくれたな」
 飛び上がらんばかりに喜んでいるヤムチャとアメリアを交互に見て、クリリンは露骨に呆れた顔をした。
「ヤムチャさん……あんたって人は。この子、まだ中学生くらいじゃないっすか。犯罪っすよ! オレ、ヤムチャさんがそこまで見境ないとは思わなかった」
「オレは援交オヤジか!」

「クリリンさん、違いますよ。この人はピッコロさんの彼女なんです」
 悟飯の言葉はクリリンをメガトン級に打ちのめした。
「ピ……ピッコロに……あのピッコロに……彼女……彼女……かの……じょ……」
 ショックに陥っているクリリンをよそに、アメリアは「やだ、悟飯くんったら。彼女だなんて」と、悟飯を力任せにばんばんたたきながら恥じらっている。
 アメリアが来たのを機に、悟飯は虚脱状態のクリリンを引っ張っていとまを告げた。
 帰り道、クリリンは思い詰めた表情で悟飯にぼそりとつぶやいた。
「悟飯……オレ、人間やめるわ」


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