Cool Cool Dandy2 〜Summer Night Festival〜
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第3章
8回表にポーラスターズが追加点を挙げて5−0とタイタンズを突き放し、9回裏のタイタンズの攻撃に移った。先頭バッターのガシーデがあっさり投ゴロで倒れると、またルティネスに打順が回ってきた。 雲行きが怪しくなって来たのはカウント0−1からの第2球だった。前の打席と同じく、高目のボール球がすっぽ抜けてルティネスをのけぞらせたのだ。今度もルティネスはムッとした顔でザカーラをにらんだ。 続けて第3球、153キロの剛速球がルティネスを襲った。避ける間もなく、もろに食らった左肘を押さえてルティネスは前のめりにその場に倒れ込んだ。 「ルティ、大丈夫か!?」 ネクストサークルからヤムチャが叫ぶ。と同時にベンチからチームメイトたちがバラバラッと気色ばんで駆け出して来た。先頭を切っているのはなんとスターノ監督だ。 痛みをこらえて立ち上がったルティネスが歯をむき出してマウンドのザカーラ目がけて突進した。ポーラスターズのラッター捕手が彼を後から羽交い締めにし、向こうのベンチからも選手やコーチが飛び出して来て、あっという間に両チーム入り乱れての大乱闘となった。 「あーあ、やっちまったよ」 ヤムチャはその場に立ちつくしていた。こういう場合、傍観を決め込んでいるのは士気にかかわるとして普通なら罰金ものなのだが、以前に乱闘で“大活躍”してしまい、相手選手に怪我をさせたことがある彼は、監督から乱闘の場合は“適当に”参加せよとの指示を受けていた。 つまり、遠巻きにして手は出すなということだ。彼が武道の心得があり、相当の使い手であることは球界に知れ渡っており、乱闘に参加するのはかえって そんな訳で目の前の乱闘に血が騒ぐのを、彼はグッと我慢していた。 (でも、ファンの手前もあるし、オレだけじっとしてる訳にもいかないもんな。10数えてから参加するかな) そう思っていた矢先、バックネット裏からマリーンの怒鳴り声が聞こえた。 「こらーーーっ、ヤムチャ! なにサボってんのよっ。行けーーーーーっ!!」 うわっと叫んで反射的にヤムチャは乱闘のただ中に飛び込んでしまった。 (あ、やべえ) そう思ったのは既に相手も味方も構わず、手向かう者をことごとくのしてしまった後だった。 普通なら試合が数十分中断する乱闘のはずだったのが、ヤムチャのおかげでほんの数十秒で片を付けることが出来た――――のは事実だ。だが、この怪我人の山を見れば誰もそんなことで誉めてくれそうにない。医務室でまかないきれる人数ではなく、彼らはまとめて救急車で病院へ運ばれて行った。 興奮した両チームのファンの間でも小競り合いから暴力ざたが起き、スタンドでもあちこちで大乱闘というメチャクチャなゲームになってしまった。 ヤムチャとルティネスは退場、チームメイトにかばわれたザカーラは怪我ひとつなくピンピンしている。無傷だった者だけで続けた試合は5−0のままタイタンズが惨敗し、ヤムチャの記録は結局3打数ノーヒットに終わった。 肩を落としてロッカールームに引き上げたヤムチャを待っていたのは、観客席での乱闘騒ぎでマリーンが怪我を負ったという知らせだった。 「何だって!?」 血相変えてヤムチャは医務室に駆け込んだ。ベッドには 「マリーン、大丈夫か」 いくぶん呆れ気味にアメリアが言った。「ヤムチャさん、マリーンをうんと叱ってやってね。信じられないわ。自分から殴りかかって行くんだもの」 「ええっ!?」 「すみません。僕のファンが先に挑発したようです」 横合いから声がして、ヤムチャはびっくりしてそちらを見た。なんとザカーラが立っている。 「なんでおまえが……」 ザカーラは白い歯を見せて困ったように笑った。 「バックネット裏でいつも陣取っている僕の親衛隊の子たちが、ヤムチャさんを侮辱する暴言を吐いたらしくて。それがきっかけで……」 「見せてみろ」 ヤムチャは布団をはがそうとした。 「だめっ、やめてよ」 「いいから見せてみろ」 顔を隠そうとするマリーンの手を強引にどけてみて、ヤムチャは危うく吹き出しそうになった。右目の周りがまるでパンダの出来損ないのように、くるっと丸く青紫になっている。 「笑ったわね! あんたたち、笑ったでしょ!!」 「い、いや……笑って……ないって」 「うそっ! じゃ、なんでアメリアの肩が震えてるのよ」 見れば向こうをむいたアメリアが一生懸命笑いをこらえている。ザカーラまでが窓の外を見るふりをして顔をそらし、片手で口元を覆って笑いをかみ殺しているのがわかった。 「バカバカッ! みんな嫌いよ。出てけっ」 |