ミステリ&SF感想vol.2 |
2000.04.14 |
『オクトパスキラー8号』 『宇宙船オロモルフ号の冒険』 『解決まではあと6人』 『毒入りチョコレート事件』 |
オクトパスキラー8号 赤と黒の殺意 霞 流一 | |
1998年発表 (アスペクトノベルス・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] “バカミスの帝王”霞流一。今回のお題は蛸です。
殺人事件も不可解ですが、登場する芸人たちがイロモノ、というよりキワモノばかりで、笑えるのか笑えないのか紙一重、という感じです。そして無茶苦茶な真相。相変わらず飛ばしています。しかし、“霞ワールド”にはまってしまうと、この真相もしっくりくるものに感じられるのが不思議なところです。 2000.03.27読了 [霞 流一] |
宇宙船オロモルフ号の冒険 石原藤夫 |
1982年発表 (ハヤカワ文庫JA191・入手困難) |
[紹介]
[感想] この作品は、数学SFです。個人的には数学は苦手で、ここで扱われている題材を完全に理解することはできませんが、不思議に想像力を刺激されます。一部引用してみましょう。
飛翔体を内に捕えるための運動は、縁部{ペリフェラル}をそのままにして中心部を渦巻かせることに等しかったため、“それ”の時空形状にいちじるしい非正則性が生じたのである。 |
解決まではあと6人 5W1H殺人事件 岡嶋二人 | |
1985年発表 (双葉文庫お05-1) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 最近は京極夏彦などの作品でみられる、“モジュラー形式”の作品です。
5つの依頼はバラバラで、平林貴子を追っている警察も、なかなか事件の真相に迫ることができませんが、読者には少しずつ背景が明らかになっていきます。しかもその依頼が、“Who?”、“Where?”、“Why?”、“How?”、“When?”の各要素に分解されていて、最後に“What?”として、“何が起こったか?”が明らかになるという趣向です。この趣向自体も秀逸ですが、事件の真相も丁寧に隠されています。派手ではありませんが、岡嶋二人の巧みな技術が味わえる作品です。 2000.04.08再読了 [岡嶋二人] |
超・博物誌 山田正紀 |
1980年発表 (徳間文庫210-3) |
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毒入りチョコレート事件 The Poisoned Chocolates Case アントニイ・バークリー | |
1929年発表 (高橋泰邦訳 創元推理文庫123-05/高橋泰邦訳 創元推理文庫123-01・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] アントニイ・バークリーの代表作とされる本書は、バークリー作品への入り口として手に取られることが多いかと思います(かくいう私自身もそうでした)が、“ロジャー・シェリンガム年代記”の第5作にあたる本書を最初に読むと、シェリンガムの位置づけ――その“異能の名探偵”ぶりやモレスビー(*1)首席警部との関係など――がつかみにくいところがあるので、できれば発表年代順に読むことをおすすめします。
それはさておき、一つの事件について〈犯罪研究会〉の6人がそれぞれの推理を披露する“多重解決”の趣向、さらにその結果としての特異な構成――(長編としては)わずかな“問題篇”に対して“解決篇”が大部分を占める――が、本書の大きな特徴であることはいうまでもないところで、作中でも言及される“手がかりからたった一つの結論しか導き出されない”類の推理小説への批評的精神が、斬新でユニークなスタイルへと結実しているのが見事です。 実のところは本書以前のバークリー作品でも、“超人的な名探偵”に対するアンチテーゼとしての“等身大の探偵”を描くという狙いのもと、発端の事件よりもシェリンガムによる“捜査”と“解決”の繰り返しに重きが置かれています。しかしそれはあくまでも一人の探偵の試行錯誤にとどまるもので、繰り返される仮説の構築と破棄の果てにはただ一つの“解決”が用意されており、最終的には“手がかりからたった一つの結論しか導き出されない”推理小説の範疇に収まっている感があります。
それに対して、原型の短編「偶然の審判」(*2)の“問題篇”はほぼそのままに、新たな“解決”を付け足していく異例の手法で長編化された本書では、推理合戦という形式を採用して複数の“解決”を複数の探偵役に割り振ることで、“解決”同士がよりパラレルな関係――複数の“解決”が独立しかつ共存し得る――に近づいたものになっています。もっとも、バークリーが本書で完全にパラレルな“解決”を狙ったわけではないことは明らかで、ある種妥協の産物との見方もできなくはない(*3)のですが、それでもユニークな試みであることは確かでしょう。 “問題篇”を最小限にとどめ、さらにシェリンガムに視点を据えることで他の探偵役による“捜査”の描写を排除し、ほぼ“解決篇”のみで読ませるのはなかなか困難だと思いますが、まずはやはりシンプルな事件(わずかな手がかり)から導き出される多様な“解決”そのものが興味深いところ。そしてそこでは、真田啓介氏が指摘する(*4) “証拠事実の取捨選択の誤り”・ “証拠事実それ自体の誤り”・ “証拠事実の解釈(推論)の誤り”を駆使した、“誤った解決”を生み出す技巧が光っています。 と同時に、“解決篇”が複数の“解決”の単なる羅列ではなく、それを提示する探偵役たちの造形(立場や性格)なども相まって、会長であるシェリンガムの思惑―― “われわれ全員が、同じ結果に行きつくかどうか”([新版]16頁)――を超えて、時に議論が不穏な空気を帯び、また時に意外すぎる“解決”が示されるなど、“解決篇”としての推理合戦それ自体にストーリー性が備わっている(*5)のが見逃せないところで、思わぬ紆余曲折を経てメンバー6人の“解決”が出揃った後のどこかとぼけた味わいの結末に至るまで、実験的なスタイルでありながら楽しく読める傑作です。
*1: 近年翻訳された作品では
“モーズビー”と表記されています。 *2: 江戸川乱歩編『世界短編傑作集3』やR.T.ボンド編『毒薬ミステリ傑作選』(いずれも創元推理文庫)などに収録されています。 *3: そこのところをさらに徹底し、(以下伏せ字)探偵役を分断することでパラレルな“解決”を達成(ここまで)したのが、[新版]の杉江松恋氏による解説でも挙げられている、貫井徳郎『プリズム』です。 *4: 「書斎の死体/「毒入りチョコレート事件」論」を参照。ただし、本書を未読の方はご注意下さい。 *5: このあたりは、他の作品にみられる“探偵の試行錯誤”の延長線上にあるともいえるもので、前述のパラレルな“解決”とは相容れない部分です。 2000.04.13読了 2009.11.18再読了 (2009.12.20改稿) [アントニイ・バークリー] |
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