ミステリ&SF感想vol.16 |
2001.02.03 |
『技師は数字を愛しすぎた』 『仮面の男』 『悪魔のような女』 『呪い』 『死はいった、おそらく……』 |
技師は数字を愛しすぎた L'ingenieur aimait trop les chiffres ボワロ&ナルスジャック | |
1958年発表 (大久保和郎訳 創元推理文庫183・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 緻密な心理描写によるサスペンスを得意とするボアロー/ナルスジャックですが、この作品はボアロー単独の『殺人者なき六つの殺人』にも似た、不可能犯罪をメインとした作品です。密室トリックなどは、まずまずといったところでしょうか。
サスペンスの方はどうかといえば、核燃料チューブまで登場し、序盤からスリリングな展開となっています。が、惜しむらくは、中盤以降やや盛り上がりに欠けています。その一つの原因としては、視点人物が定まっていないことがあげられるのではないでしょうか(ちなみに、原因はもう一つあると思いますが、そちらはネタバレ感想で)。そのため、一人の登場人物に焦点を当て、丁寧な心理描写でじわじわと盛り上げていくという、他の作品でみられるボアロー/ナルスジャックお得意の手法が、あまりうまく機能していないように思えます。特に、中盤以降の主役となる捜査官・マルイユ警部が、密室からの犯人消失の謎だけに集中しすぎていることもあります。 傑作……ではありますが、もう一つ物足りないといった感じの作品です。 2000.09.17読了 [ボアロー/ナルスジャック] |
仮面の男 Maldonne ボワロ&ナルスジャック | |
1962年発表 (井上 勇訳 創元推理文庫337・入手困難) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 基本的にジャックとジルベルトの日記が交互に登場する構成となっていますが、叙述トリックが仕掛けられた本格ミステリというわけではありません。しかし、この構成によってジャックとジルベルトがそれぞれ抱える秘密が読者には明らかになり、また一方で二人のすれ違いがサスペンスを盛り上げるという趣向になっています。
読者にとってはほぼすべての謎が早い段階で明らかになってしまいますが、それでもページを繰る手は止まりません。サスペンスとしては十分に傑作といえるでしょう。 なお、本書はnakachuさんよりお譲りいただきました。あらためて感謝いたします。 2001.01.25読了 [ボアロー/ナルスジャック] |
呪い Malefices ボワロ&ナルスジャック | |
1961年発表 (大久保和郎訳 創元推理文庫141-04) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] ほぼ全編がローシェルの手記という形式をとったこの作品は、2人の女性の間で揺れ動く彼の葛藤と苦悩がその最大の見所です。ボアロー/ナルスジャックらしく、ローシェルの心理状態が丁寧に、また克明に描かれているので、読者はいつの間にか彼に感情移入させられてしまい、否応なしに物語に引き込まれていくことになります。
また、本土と島とを結ぶ、満潮時には水中に没してしまう小道・“ル・ゴワ”という舞台の設定が秀逸です。好きなときに自由に行き来できるわけではないため、アフリカのエキゾチックな雰囲気が漂うミリアンの屋敷と、本土での日常という二重生活を送っているローシェルにとって、“ル・ゴワ”を渡ることは自分の生活を、さらには愛情の対象を切り換えるための儀式として作用しているといえます。また、本土と島の往来に物理的な制限があり、エリアーヌの災厄に関してミリアンが直接手を下したとは考えにくいということが、ローシェルの疑惑を超自然的な方向へと向かわせることになっています。 真相は比較的わかりやすいかと思いますが、それでもやはりドラマチックな物語であることには変わりありません。印象的なラストもよくできています。 2001.01.29読了 [ボアロー/ナルスジャック] |
悪魔のような女 Celle qui n'etait plus ボアロー/ナルスジャック | |
1952年発表 (北村太郎訳 ハヤカワ文庫HM31-3) | ネタバレ感想 |
[紹介] [感想] 非常によくできたサスペンスです。いきなり冒頭から展開される殺人計画は倒叙もののような雰囲気をかもし出していますが、うまくいったはずの計画に予想もしなかった齟齬が生じ、さらにスリリングな展開となっていきます。
そして後半が圧巻です。死んだはずのミレイユから送られてきた手紙、ミレイユが訪ねてきたと主張する兄のジェルマン、そしてラヴィネル自身が目撃した影のような姿。ラヴィネルは次第に亡霊の存在を信じるようになっていきます。このあたりの微妙な心理の変化を描くのは、ボアロー/ナルスジャックの得意とするところです。 真相が明らかになった後の、最後の一言が痛烈です。 2001.01.30読了 [ボアロー/ナルスジャック] |
死はいった、おそらく…… La mort a dit : peut-etre ボアロー/ナルスジャック |
1967年発表 (大友徳明訳 ハヤカワ・ミステリ1140・入手困難) |
[紹介] [感想] 本格的な事件はなかなか起こりませんが、次々と変事がズィナを襲うことで、読者を飽きさせない展開となっています。ズィナの過去がほんの少しずつ明らかにされていくことも、これに拍車をかけているように感じられます。このようなじわじわと盛り上げていく展開は、ボアロー/ナルスジャックならではといえるでしょう。
『呪い』や『悪魔のような女』にも通じますが、クライマックスを経て真相が明らかにされた後の、物語の幕引きのうまさも彼らの特徴といえるかもしれません。この作品のラストは特に見事です。 2001.02.01読了 [ボアロー/ナルスジャック] |
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