急雨斜飛濺客裾,
枝路滑不堪扶。
誰家軒檻春風裏,
數葉芭蕉未折書。
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途中に 雨に 値(あ)ふ
急雨は 斜めに飛びて 客裾に 濺(そそ)ぎ,
枝(しきょう)は 路 滑らかにして 扶(たす)くるに 堪へず。
誰が家の 軒檻ぞ 春風の裏に,
數葉の 芭蕉 未だ 書を 折けず。
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◎ 私感註釈
※明極楚俊:〔みんきそしゅん〕。南宋滅亡後、日本の鎌倉末期の1329年(日本:元コ元年、元:天暦二年)に来朝した禅僧。「明極」を「みんき」と読むのは、伝統的な呉音、漢音ではなく、鎌倉、室町期に伝えられた唐(宋)音に依るのもの。蛇足になるが、現代北方音では、〔ミンチー;ming2ji2〕となる。1262年(南宋:景定三年、元:中統三年で日本:弘長二年)に南宋の明州慶元府(現・寧波 ニンポー)に生まれる。日本の京都・建仁寺の方丈にて、1336年(日本:建武三年、元:至元二年)入寂。明極楚俊は、来朝後、摂津・広厳寺の開山、鎌倉・建長寺、京・南禅寺、建仁寺と各寺の住持を歴任して、日本の仏法興隆に尽くす。
※途中値雨:道中で、雨に遭う。 ・途中:途上で。道(みち)中ばで。道中(どうちゅう)にて。 ・値:…にあたる。ちょうど…にあたる。
※急雨斜飛濺客裾:急に降り出した雨が斜めに吹きつけて、旅人(であるわたしの)着物のスソに(雨滴が)はね飛ぶ。 ・急雨:急に降り出した雨。 ・斜飛:斜めに吹きつける。 ・濺:(水滴や泥などが)はね飛ぶ。杜甫の『春望』では「國破山河在,城春草木深。感時花濺涙,恨別鳥驚心。」 とあり、この場合は「そそぐ」になる。本来の古漢語の意は、杜甫の方になる。「(水滴や泥などが)はね飛ぶ」の意は、現代白話系列。 ・客裾:旅人の着物のスソ。
※枝路滑不堪扶:杖も(雨で)路が滑るようになって、杖をつくのにたえられない。 ・枝:〔しきょう;zhi1qiong2〕ツエ。四川の名産の、杖に適したの竹で作った杖。 ・枝:≒支。ささえとするもの。 ・路滑:路がすべる。 ・不堪扶:杖をつくのにたえられない。 ・扶:たすける。杖をつく。扶老(つえ)の「扶」。
※誰家軒檻春風裏:どこの軒ばの格子窓だろうか、春風に(芭蕉の葉が……)。 ・誰家:どこの。 ・軒檻:のきばのれんじ窓。格子窓。 ・春風裏:春風に。
※數葉芭蕉未折書:(もう春になって、春風が吹く季節になったのに)数枚の芭蕉の葉が(巻紙の)手紙をひらいていない。まだ、若い葉は巻いたままである。そのために、雨宿りができないでいた。 ・數葉:数枚の。何枚かの。 ・芭蕉:バナナ(の葉)。 ・折書:手紙をひらく。 ・折:切る。破る。空ける。 ・書:ふみ。手紙。
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◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「裾扶書」で、平水韻上平六魚(書裾)、上平七虞(扶)。この作品の平仄は次の通り。
●●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
○○○●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2003.8.14 |
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