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◎私感訳注:
※謁金門:詞牌の一。詞の形式名。双調。四十五字。詳しくは「構成について」を参照。この作品は『花間集』第八にある。
※留不得:留めることができない(し)。 ・留不得:とどめることができない。「〔動詞〕+不得」…することができない。 ・留:(去っていくのを)とどめる。
※留得也應無益:留められても、おそらく無駄だろう。 ・留得:とどめられて(も…)。元・白樸の『清平樂 題闋』に「朱顏漸老。白髮添多少?桃李春風渾過了。留得桑楡殘照。 江南地迥無塵。老夫一片濶_。戀殺山不去,山未必留人。」とある。 ・也:…も。 ・應:おそらく…だろう。まさに…べし。・無益:無益である。為にならない。無駄である。
※白紵春衫如雪色:(揚州へ立ち去った時の衣服は、)白い麻布で作った、春物の単衣の短いころもは、雪のような白い色だ(った)。 ・紵:イチビで織った一種の麻布。 ・衫:単衣の短いころも。現代でいえばカッターシャツ状の着物。 ・如雪色:雪のような白い色。
※揚州初去日:商業の中心地である揚州へ、一旗揚げに出て行った当初の日(の服装が、「白紵春衫如雪色」だった)。 ・揚州:長江北岸にあり、廣陵ともいわれ、隋代
に揚州といわれた。大運河の開鑿と水運が揚州の発展に拍車を掛けた。大運河と長江の交接点で、往時の貿易と物流の中心地。 ・初去日:出かけていった当初の日(の服装)。
※輕別離:別離という情誼を軽んじる。「利益を重んじて、揚州に行った」ということをも言っている。 ・輕:かろんじる。 ・別離:わかれ。ここは白居易の『琵琶行』「商人重利輕別離,前月浮梁買茶去。」を聯想させる。
※甘抛擲:なげやりにされていることに甘んじて。 ・甘:あまんじる。 ・抛擲:〔はうてき;pao1zhi4○●〕なげうつ。なげつける。なげやりにする。ここでは、女性が棄てられていることをいう。
※江上滿帆風疾:長江では、帆にいっぱいの風(を受けて、)速い。男性の行旅を暗示している。 ・江上:川の上。川で。長江で。 ・滿帆:帆にいっぱいの(速い風を受けて)。 ・風疾:風が速い。
※卻羨彩鴛三十六:美しいあやのある三十六のつがいのオシドリを、反対に羨ましく思う。 ・卻:かえって。反対に。逆に。 ・羨:うらやむ。・彩:美しい。いろどりのある。「彩鳳」「彩鸞」と、「美しい(鳥)」の意。 ・鴛:オシドリ。 ・三十六:三十六のつがいの。三十六対の。
※孤鸞還一隻:かたわれになった鸞鳥が、また一つ(のかたわれ)。 ・孤鸞:(つがいであるべき鸞鳥の)一羽だけになった鸞鳥。かたわれになった鸞鳥。この女性のことをも指す。 ・鸞:〔らん;luan2〕鳳凰に似た伝説上の霊鳥。 ・還:また。なおまた。 ・一隻:つがいのかたわれ。つがいの片一方。一羽。一匹。
◎ 構成について
四十五字 双調。仄韻一韻到底。韻式は「aaaa aaaa」。韻脚は「得益色日 擲疾六隻」で、第十五部入声一屋(六)、第十七部四質(日疾)、十一陌(益擲得)。
●,(仄韻)
●○○●。(仄韻),
●○○●●,(仄韻)
○○●●(仄韻),
●○●,(仄韻)。
●○○●。(仄韻)。
●○○●●,(仄韻)。
○○●●。(仄韻)
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