秋夜香閨思寂寥, 漏迢迢。 鴛帷羅幌麝煙銷, 燭光搖。 正憶玉郞遊蕩去, 無尋處。 更聞簾外雨蕭蕭, 滴芭蕉。 ![]() |
楊柳枝
秋夜 香閨に 思ひ 寂寥として,
漏(とき) 迢迢たり。
鴛帷 羅幌に 麝煙 銷え,
燭光 搖らぐ。
正(まさ)に 憶(おも)ふ 玉郞 遊蕩に 去り,
尋ぬるに處 無し。
更に 聞く 簾外に 雨 蕭蕭として,
芭蕉に 滴るを。
****************** ◎私感訳注: ※楊柳枝:詞牌の一。詞の形式名。この作品の『楊柳枝』は、中唐以降広く流布した白居易の七言絶句体のそれとは異なる。唐詞でいう『添声楊柳枝』のこと。『太平時』ともいう。七絶の各句に三字句が附いたとも見られる詞調。双調。四十字。詳しくは「構成について」を参照。この作品は『花間集』第七にある。女性が去っていった男性を思い偲んだ歌になる。 ※秋夜香閨思寂寥:秋の夜長に、婦人の住む立派な建物では、(女性が)寂しい思いに(耽っている)。 ・秋夜:秋の夜。夜の時間が長くなっている。後出の「漏迢迢」に続く。 ・香閨:婦人の住むすばらしい建物や部屋。かぐわしい、婦人の部屋。 ・香:すばらしい。 ・閨:婦人の部屋。 ・思:おもう。おもい。 ・寂寥:さびしい。ここでは、男性が、女性の部屋に訪れなくなったことをいう。 ※漏迢迢:漏刻の時を告げる音は、遥かで、ゆっくりと流れている。 ・漏:漏刻。古代の水時計のこと。ここでは時間の経過をいう。 ・迢迢:遥かに遠いさま。ここでは、時間がゆったりと流れる感じをいう。 ※鴛帷羅幌麝煙銷:麗しいとばりの垂れた女性の部屋では、ジャコウ(麝香)の香の煙がきえている。 *男性が、女性の部屋に訪れなくなって久しいため、香を焚く必要が無くなったことをいう。 ・鴛帷羅幌:女性の部屋をいう。 ・鴛:オシドリ。夫婦を指す。 ・帷:とばり。たれぎぬ。婦人の部屋。 ・羅幌:うすぎぬのたれぎぬ。女性の部屋をいう。 ・幌:ほろ。おおい。とばり。たれぎぬ。 ・麝煙:ジャコウ(麝香)の香の煙。 ・銷:きえる。へる。おとろえる。 ※燭光搖:灯火の焔が揺れ動く。 *女性の心の動揺、また空しく訪れる人の気配を感じて揺れ動いていることを暗に示している。 ・燭光:灯火の輝き。 ・搖:ゆらぐ。焔が揺れ動く。 ※正憶玉郞遊蕩去:ちょうど、愛しい男性が遊びに去ったのを思い起こしているが。 ・正憶:ちょうど思い起こしている。 ・玉郞:愛しい男性。大切な方。かの君。 ・遊蕩:遊び呆ける。酒などに耽ってだらしなく遊ぶ。放蕩する。 ・去:さる。行く。 ※無尋處:尋ねるあてがない。どこを探せばいいのかわからない。探すめどがたたない。 ※更聞簾外雨蕭蕭:おまけに窓のカーテンの外からは、ものさびしく雨が降る音が聞こえてくる。 ・更:その上に。おまけに。 ・聞:聞こえてくる。受動的な場合によく使われる。 ・簾外:窓のカーテンの外で。屋外で。 ・雨:雨。雨降る。雨が降る。 ・蕭蕭:ものさびしいさま。 ※滴芭蕉:バショウ(の葉)に滴り落ちている。 ・滴:したたる。滴り落ちる。 ・芭蕉:ここでは、バショウの葉。 ◎ 構成について 四十字 双調。唐詞での『添声楊柳枝』のこと。『太平時』ともいう。七絶体の『楊柳枝』とは異なる。平韻で起こり、換頭の仄韻を夾む形になる。韻式は「AAAA bbAA」。 韻脚は「寥迢銷搖 去處 蕭蕉」で、第八部平声二蕭と第四部平声七虞。 ![]() ![]() ●○○。(平韻) ![]() ![]() ●○○。(平韻) ![]() ![]() ○ ![]() ![]() ![]() ●○○。(平韻) |
2003.12.19 12.20 12.21完 |
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