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◎私感訳注:
※薛昭蘊:五代、後蜀の侍郎。『花間集』には、薛侍郎昭蘊と記されている。李白にも同様の詩『蘇臺覽古』「舊苑荒臺楊柳新,菱歌C唱不勝春。只今惟有西江月,曾照呉王宮裡人。」があり、この詞はそれに基づいていよう。同じく、五古『越中覽古』「越王勾踐破呉歸,義士還家盡錦衣。宮女如花滿春殿,只今唯有鷓鴣飛。」もある。
※浣溪沙:詞牌の一。詞の形式名。詳しくは「構成について」を参照。この作品は『花間集』第三にある。
※傾國傾城恨有餘:国を亡ぼすほどの美貌には、恨みごとが、余りあるほどである。 ・傾國傾城:国を傾け、国を亡ぼすほどの美人。越王・勾踐から献上され、呉王夫差の愛妃となった西施の美貌をいう。ここでは、西施自身のこと。或いは、広く美貌の意。 ・恨:うらみ。情愛。深く複雑な感情。ここでは、西施ら女性の辿った運命ともとれる。 ・有餘:余りある。
※幾多紅涙泣姑蘇:幾多の女性が姑蘇城に涙を流して泣いたことだろう。どれほど多くの女性がここ、姑蘇城に涙を流したことだろう。 ・幾多:いくたの。多くの。 ・紅涙:女性の涙。 ・泣:声を出さないで涙を流して泣くこと。 ・姑蘇:姑蘇台。蘇州にある。また蘇州の街のこと。呉の首都。呉王・夫差が姑蘇城にいたが、越王・勾践に攻められ、降ろされたところ。
※倚風凝睇雪肌膚:風に乗って瞳をこらせば、雪のように真っ白な美しい肌の女性だ。 ・倚:よる。たのむ。すがる。あわせる。 ・風:かぜ。 ・凝睇:瞳をこらす。注視する。この語の主語は何になるかによって、意味が微妙に動く。「倚風」の意味も分かりにくい。 ・雪:雪のように真っ白な。女性の美しい肌の形容。 ・肌膚:はだ。
※呉主山河空落日:呉王夫差の領地である呉の国は、むなしく落日に晒されている。 ・呉主山河:呉王夫差の領地である呉の国は。 ・呉主:呉王・夫差のこと。 ・空:むなしく。 ・落日:夕日。ここでは、国の滅亡をいう。呉の国が、越の勾踐に滅ぼされたことを指す。
※越王宮殿半平蕪:越王の勾践の宮殿は、半ば、草に埋もれている。 ・越王宮殿:越王の勾践は呉を滅ぼした後、やがては、自分も滅んでいき、その宮殿は半分草に埋もれているということ。 ・越王:越王・勾践のこと。 ・半:なかばは。 ・平蕪:雑草の生い茂った平野。
※藕花菱蔓滿重湖:ハスに花が咲き、ヒシが繁って、太湖に、いっぱいになっている。 ・藕花:ハスに花が咲く。 ・菱蔓:ヒシが繁る。 ・滿:いっぱいになる。 ・重湖:太湖のこと。
◎ 構成について
四十二字(双調)。 脚韻は、平声韻一韻到底。韻式は「AAA AA」。韻脚は「餘蘇膚蕪湖」で、詞韻第四部七麌。
●○○●●○,(韻)
○●●○○。(韻)
○●●○○。(韻)
●○○●●,
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