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LiQingzhao liqingzhao李清照
  添字采桑子

窗前誰種芭蕉樹,
陰滿中庭。
陰滿中庭。
葉葉心心、
舒卷有餘情。


傷心枕上三更雨
點滴霖霪,
點滴霖霪,
愁損北人、
不慣起來聽!

    **********************


      添字采桑子

窗前 誰が種へし 芭蕉の樹,
陰は滿つ 中庭。
陰は滿つ 中庭。
葉葉  心心,
(のば)し 卷きて  餘情 有り。


傷心の枕上  三更の雨,
點滴 霖霪,
點滴 霖霪,
愁損せる 北人は、
慣れず  起き來りて聽く。

             ******************

◎私感訳註:

※添字采桑子:詞牌の一。詞の形式名。『添字醜奴兒』ともいう。「添字」は、字数を増やしたもの。『采桑子』(『醜奴兒』)の上片、下片の第四句の七字に、二字増やして、四字句と五字句にしたもの。詳しくは「構成について」を参照。

※窗前誰種芭蕉樹:窓の前に誰が芭蕉の樹を植えたのか。 ・窗前:窓の近く。窓の前。 ・誰種:誰が植えたのか。種:〔しゅ;zhong4●〕(去声)植える(動詞)。 ・芭蕉樹:芭蕉の樹。なお、正確には、バショウは樹ではなく、草本として分類される。北宋・歐陽脩/張先の『生査子』に「含羞整翠鬟, 得意頻相顧。 雁柱十三弦, 一一春鶯語。 嬌雲容易飛, 夢斷知何處。 深院鎖黄昏, 陣陣芭蕉雨。」と、芭蕉に当たる雨音をうたう。

※陰滿中庭:(芭蕉の大きい葉のため)中庭は、すっかり陰になってしまった。 ・陰滿:かげでいっぱいになる。芭蕉の大きい葉のため、すっかり陰になってしまったことをいう。 ・中庭:なかにわ。庭中。

※葉葉心心:それぞれの葉と芯(は)。

※舒卷有餘情:ゆったりとしていたり、丸く巻き込んでいたりして、味わい深い。 *「葉舒」であり、「心卷」でもある。(大きな葉は、)ゆったりと伸びやかに伸びており、芯の芽は、丸く巻き込んでいる。餘情を餘Cとするのもある。

※傷心枕上三更雨:心を(悲しみで)痛めて、寝ている耳元に。傷心:心を悲しみで痛めること。枕上:寝ている耳元に、枕辺に。 ・三更雨:午前零時前後に降る雨。深夜の雨。 ・三更:夜間を五分した三番目で、丁度真夜中の午前零時前後になる

 ・傷心枕上:心を(悲しみで)痛めて、寝ている耳元に。傷心:心を悲しみで痛めること。枕上:寝ている耳元に、枕辺に。 ・三更雨:午前零時前後に降る雨。深夜の雨。 ・三更:夜間を五分した三番目で、丁度真夜中の午前零時前後になる。唐〜・温庭の『更漏子』に「玉爐香、紅蝋涙。偏照畫堂秋思。眉翠薄、鬢雲殘。夜長衾枕寒。   梧桐樹。
三更雨。不道離情正苦。一葉葉、一聲聲。空階滴到明」と「三更雨」の描写がある。

※點滴霖霪:雨のしずくが、ぽたぽたとしたたり落ちる。 ・點滴:〔てんてき;dian3di1●●〕雨のしずくが、したたり落ちる。 ・點:〔てん;dian3●〕雨のしずく。 ・滴:〔てき;di1●〕しずく。したたり落ちる。ぽたぽた。作者自身(=李清照)の『聲聲慢』「尋尋覓覓,冷冷CC,凄凄慘慘戚戚。乍暖還寒時候,最難將息。三杯兩盞淡酒,怎敵他、曉來風急。雁過也,正傷心,却是舊時相識。   滿地黄花堆積,憔悴損,如今有誰堪摘。守着窗兒,獨自怎生得K。梧桐更兼細雨,到黄昏、
點點滴滴。這次第,怎一個、愁字了得。」は有名。 ・霖霪:〔りんいん;lin2yin2○○〕長雨が降り続いてやまないさま。 ・霖:〔りん;lin2○〕三日間降り続く雨。 ・霪:〔いん;yin2○〕長期に亘って降り続く雨。しとしと。ここの「點滴霖霪」の繰り返しは、とても音楽的に美しい。「點滴霖霪」は日本語の音読みでも、點滴(てん・てき(dian3・dik):双声)と霖霪(りん・いん(lin2・yin2):畳韻)と、リズムをとっている(双声、畳韻)のがよく分かる。

※愁損北人:悲しみの程度が激しい北方系の人(=作者自身)は。 ・愁損:悲しみの程度が激しいこと。ひどい悲しみ。 ・北人:北方系の人。南方の植物である芭蕉に慣れていない人、という意味で、南渡した作者自身のこと。現代語でいう「北方人」ともいえる。

※不慣起來聽:(南方の植物である芭蕉に当たる雨音に)慣れていないので、(芭蕉の葉に当たる音が気になって寝られなくて、臥している姿勢から)坐って聴いている。 ・不慣:(南方の植物である芭蕉に当たる雨音に)慣れていない。(芭蕉の葉に当たる音が気になって寝られなかったということを詠じた詩に、)晩唐・杜牧の『雨』「連雲接塞添迢遞,灑幕侵燈送寂寥。
一夜不眠孤客耳,主人窗外有芭蕉。」がある。 ・起來聽:(白話)起きあがって聴く。「起来」は、起きあがる、立ち上がる、の意だが、ここでは、横になって臥している姿勢から、坐ったことをいう。






◎ 構成について
          双調。四十八字。平声一韻到底。韻式は「AAA AAA」。韻脚は「庭庭情 霪霪聽」で、第十一部平声。「霪」は第十三部「平声十二侵」だが、可。「霆」の間違いではない。これは、宋代より起こった方言音の混淆による。当時は、まだ基本的には-m、-n、-ngを区別して発音していたが、方言音の混淆で、-m、-n、-ngを区別しない。ここは、-ingと-imの違いがある。王力の『漢語詩律學』の「詞韻(上)」の條に詳しい。
 以下に、添字采桑子と采桑子の双方を載せておく。

  ・添字采桑子  
           四十八字 (双調) 平韻。韻式は「AAA AAA」。赤いところが変わったところ。下の青いのが本来の形。

   ●○○●,
   ●○○。(韻)
   ●○○,(韻)
   
●○○、
   
●●○○。(韻)

   ●○○●,
   ●○○。(韻)
   ●○○,(韻)
   
●○○、
   
●●○○。(韻)


   ・采桑子
          双調。四十四字。平韻。韻式は「AAA AAA」。

   ●○○●,
   ●○○。(韻)
   ●○○,(韻)
   
●○○●●○。(韻)

   ●○○●,
   ●○○。(韻)
   ●○○,(韻)
   
●○○●●○。(韻)

 

2001.6.9
     6.10
     6.11
     6.12完
2012.6.19補

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