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◎ 私感訳註:
※更漏子:詞牌の一。詞の形式名。双調 四十六字。換韻。詳しくは 「構成について」を参照。この詞は花間集の温庭の更漏子 其六。
※玉爐香:香炉が香って。 ・玉−:玉は美称。
※紅蝋涙:赤い蝋燭(の溶けて流れてくる蝋)が涙のようである。
※偏照畫堂秋思:美しい彩色が施された建物に遍(あまね)く日が射して、秋の寂しい物思いに(耽る)。 ・偏:(詞語)丁度、正に。ただ、(だけ)。最も。前者。廖剛の滿路花に「桂華光滿,偏照最高樓。」があり、ここと同じ「正にちょうど」の意。 ・畫堂:美しい彩色が施された建物。唐〜蜀・韋莊の『浣溪沙』に「夜夜相思更漏殘。傷心明月凭欄干。
想君思我錦衾寒。咫尺畫堂深似海, 憶來唯把舊書看。 幾時攜手入長安。」とある。 ・秋思:秋の物思い。秋に感じるものさびしい思い。名詞。
※眉翠薄:黛がおちて、薄らいできて。
※鬢雲殘:髪が乱れてきた。 ・雲:女性の豊かで美しい髪の形容。 ・殘:不完全であること。缺けていること。すたれてきたこと。
※夜長衾枕寒:秋の夜長に独りで過ごす夜は、蒲団や枕辺が寒々しい。 ・夜長:秋の夜長でもあり、また、独りで過ごす夜故、長く感じられる。 ・衾枕寒:蒲団や枕辺が寒い、寒々しい。独り寝を暗示している。
※梧桐樹:アオギリやキリの木。 *落魄、零落を暗示する働きを持つ語 。
※三更雨:午前零時前後に降る雨。 ・三更:夜間を五分した三番目で、丁度真夜中の午前零時前後になる。李清照の添字采桑子に「三更雨」の描写がある。
※不道離情正苦:別れたときの気持ちは、本当にこんなにも辛いとは、思いもよらなかった。 ・不道:(詞語)分からない。思いがけなく。思いもよらず。はからずも。構わない。(白話)分からない。思いがけなく。思いもよらず。はからずも。言わず。道理に合わない。気が付かない。構わない。…にかかわりなく。最初の意。『中国詞学大辞典』(浙江教育出版社)「語辞」629ページに「@不管、不顧。A不覺。B不知。C不料」とある。後世、宋・万俟詠の『長相思
雨』に「一聲聲。一更更。窗外芭蕉窗裏燈。此時無限情。 夢難成。恨難平。不道愁人不喜聽。空階滴到明。」とある。 ・離情正苦:別れる気持ちは、本当に辛い。
※一葉葉、一聲聲:一枚一枚の葉毎に、(それぞれ)一声ひとこえ雨音が起こって。 ・ 一葉葉:一枚一枚の葉毎に。 ・一聲聲:一声ひとこえ。清末・秋瑾の『昭君怨』に「恨煞回天無力,只學子規啼血。愁恨感千端,拍危欄。 枉把欄干拍遍,難訴一腔幽怨。殘雨一聲聲,不堪聽!」とある。
※空階滴到明:人気のないきざはしに(雨が、そして涙が)滴って、明け方まで続いて、夜明けを迎えた。 *後世、宋・万俟詠の『長相思 雨』に「一聲聲。一更更。窗外芭蕉窗裏燈。此時無限情。 夢難成。恨難平。不道愁人不喜聽。空階滴到明。」とある。 ・空階:人気のないきざはし。北宋・張詠の『雨夜』に「簾幕蕭蕭竹院深,客懷孤寂伴燈吟。無端一夜空堦雨,滴碎思ク萬里心。」とある。 ・滴到明:(雨が、そして涙が)滴って、明け方まで続き、夜明けを迎える。
◎ 構成について
双調 四十六字。換韻。 押韻は、換韻で、韻式は「aaBB cccDD」。ただし、これは温庭だけの例外であり、宋代の人は、下片起句を押韻しないで上片、下片とも完全に同一。韻式は「aaBB ccDD」が普通。
韻脚は「涙思」は第三部去声(思:名詞は詞韻では去声。動詞は平声。)で、「殘寒」は第七部平声。「樹雨苦」は第四部上声(樹:去声)で、「聲明」は第十一部平声。
●○○、
○●●,(a仄韻)
●○●。(a仄韻)
○●●,
●○○。(B平韻)
○●○,(B平韻)
●○○、(c仄韻 上記を参照)
○●●,(c仄韻)
●○●。(c仄韻)
○●●,
●○○。(D平韻)
○●○,(D平韻)
となる。
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