李煜虞美人詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩　李いくliyu

liyu LiYu 漢詩
　

　虞美人

風回小院庭蕪綠，
柳眼春相續。
憑闌半日獨無言，
依舊竹聲新月　似當年。

笙歌未散尊罍在，
池面冰初解。
燭明香暗畫樓深，
滿鬢淸霜殘雪　思難任。

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虞美人
　　　　　　　　　　　　　

風は　小院に回（かへ）り　　庭蕪（くさ）は　綠に，
柳は眼ぶき　　春は　相ひ續く。
闌に憑（よ）り　半日　　獨（ひと）り言ふこと無し，
舊に依る竹聲新月　　　當年に　似たり。

笙歌　未だ散ぜず　尊罍　在り，
池面の冰　　初めて解く。
燭は　明るく　　香は　暗（ひそかやか）に　　畫樓　深く，
滿鬢の　淸霜殘雪　　　思ひは　任（たへ）へ難（がた）し。

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◎私感注釈

※虞美人：詞牌の一。詳しくは下記「構成について」を参照。この作品は春愁を詠っているが、場の設定をどうとるかによって、大きく意味が変わってくる。

※風回小院庭蕪綠：春風が吹き始めて、小さな奥庭の庭の草は緑色になってきた。　・風回：（春）風がかえってきた。春風が吹き始めた。　・小院：小さな奥庭。　・庭蕪：庭の草。　・綠：緑色になる。形容詞、動詞の用法。

※柳眼春相續：柳が芽吹き、春の訪れを次々に告げている。　・柳眼：ヤナギの芽。韋莊に「微紅幾處花心吐，嫩綠誰家柳眼開。」、元「柳眼梅心漸欲春」がある。早春の描写になる。　・春：春季。　・相續：続いてきた。「風回」「庭蕪綠」「柳眼」。また、「冰初解」…と、次々に春が訪れてきた情景が続いてきていることをいう。

※憑闌半日獨無言：窓の欄干に寄り添って、ずうっと、長い間、言葉もなく独りで過ごした。　・憑闌：てすりに寄り添う。窓の欄干に寄り添う。　・半日：半日。ずうっと。相当長い時間をいう。蛇足になるが、現代語の“半天”（長い時間、長い間）に近い意になろう。　・獨：ひとりだけで。　・無言：（話を交わす相手がいないために）無言で（すごした）。

※依舊竹聲新月：昔ながらの竹藪のざわめきと三日月の姿よ。　「風回小院庭蕪綠，柳眼春相續。」で春の訪れを積極的に祝ったが、「憑闌半日獨無言」の状態が続いているので、「竹聲」や「新月」は一層の物寂しさを訴えてくる。　・依舊：昔通りの。昔ながらの。　・竹聲：竹藪のざわめき。篁を吹き抜ける風の音。　・新月：三日月。馮延巳の『鵲踏枝』「誰道閑情抛擲久，毎到春來，愁悵還依舊。日日花前常病酒，不辭鏡裡朱顏痩。　　　河畔青蕪堤上柳，爲問新愁，何事年年有？獨立小樓風滿袖，平林新月人歸後。」がある。後世、日本の絶海中津『赤間關』「風物眼前朝暮愁，寒潮頻拍赤城頭。怪巖奇石雲中寺，新月斜陽海上舟。」でも使っている。

※似當年：昔のあの時のようである。　・似：…のようである。…に似る。…の如くである。　・當年：かの年。過去のある年をいう。「当年とって十六歳」というときの「当年」とは、声調が異なる。

※笙歌未散尊罍在：音楽の演奏や歌声は、まだ終わらず、宴会はにぎやかに続いて、酒もふんだんにある。　*物思いに耽っていたのが現実に呼び戻されたことをいう。　・笙歌：笙の音曲と歌声。音楽の演奏と歌唱。宴会をいう。　・未散：まだ終了しない。・尊罍：〔そんらい；zun1lei2〕大きな酒杯と深い杯。酒宴を謂う。　・尊＝樽で、酒器。　・在：…がある。存在している。

※池面冰初解：（陽気に誘われて）氷も、今日はじめてとけた。　・池面：池の表面。　・冰：「氷」の正字。　・初解：今日はじめてとけた。

※燭明香暗畫樓深：としびは明るく照らし出して、薫香の香りがひそやかに流れる御殿の奥深くで。　　・燭明：としびは明るく照らし出されて。夜になっていることをいう。　・香暗：薫香の香りがひそやかに流れる。　・畫樓：美しく彩った建物。「畫堂」ともする。　・深：奥深い。

※滿鬢淸霜殘雪：（愁いのために）髪の毛に多くなった白髪。　・滿鬢：髪の毛いっぱいに。　・淸霜殘雪：白髪の形容。

※思難任：思いは、耐え難いものがある。　・思：思い。　・難：難い。むつかしい。　・任：まかせる。負う。ゆだねる。堪える。

◎　構成について

五十六字。（双調）換韻。韻式は「aaBB　ccDD」韻脚は「綠續　在解　深任」で第十五部入声二沃（緑）、第五部去声十賄、第十三部平声十二侵（任）。九字句は六字と三字に分けること。

○●○○●，（a仄韻）
●○○●。（a仄韻）
○●●○○，（B平韻）
●○●・●○○。（B平韻）

○●○○●，（c仄韻）
●○○●。（c仄韻）
○●●○○。（D平韻）
●○●・●○○。（D平韻）