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漢詩 陸放翁   追感往事
            

            
        南宋 陸游

諸公可歎善謀身,
誤國當時豈一秦。
不望夷吾出江左,
新亭對泣亦無人。



    **********************

        往事を追感す
           

諸公 歎ず 可
(べ)し  善(よ)く 身を 謀る,
國を誤らせしは 當時  豈
(あ)に一秦のみならんや。
望まず  夷吾の 江左に 出づるを,
新亭に 對泣せんも  亦た 人 無し。

             ******************

私感訳注:

※追感往事:昔の出来事を想い出しての感懐。 ・往事:詩詞で使われる場合、過去の歴史上の事件といった、青史を回想した時によく使う。普通には、過ぎ去った事、昔のこと、の意。

※諸公可歎善謀身:大臣や高官たちは、歎かわしいことに上手に身の安泰を図るのに立ち回っており。 ・諸公:政治に与(あず)かる大臣、高官。 ・可歎:なげかわしい。 ・善:よく。うまく。上手に。 ・謀身:身の安泰を図る。

※誤國當時豈一秦:国の進む方向を誤らせたのものは、どうして秦だけといえようか。 ・誤國:国の進む方向を誤らせた(者)。清末の秋瑾『寶劍歌』に「按劍相顧讀史書,書中
誤國多奸賊。中原忽化牧羊場,咄咄腥風吹禹城。除却干將與莫邪,世界伊誰開暗K。斬盡妖魔百鬼藏,澄C天下本天職。他年成敗利鈍不計較,但恃鐵血主義報祖國。」と詠われている。  ・當時:〔たうじ;dang1shi2○○〕むかし。その頃。当時。蛇足になるが、〔たうじ;dang4shi2●○〕とすれば、「ただちに」の意となる。 ・豈:どうして…だろうか。あに…や。 ・一秦:秦国であり、また、陸游の前に立ち塞がった秦檜のことでもある。

※不望夷吾出江左:半壁である江南の地に、国土恢復運動を行った民族の英雄・管夷吾の出現までは(もはや)望まない(ものの)。 ・不望:希望しない。望まない。 ・夷吾:管夷吾(管仲)のこと。春秋時代の斉の宰相。後出『晉書・列傳・王導』「『向見
管夷吾,無復憂矣。』」に基づき、管夷吾にも擬せられた王導のことを指す。 *国土恢復の征戦は、もはや望まないものの。 ・出:出現する。現れる。 ・江左:江南。

※新亭對泣亦無人:新亭に集まって亡国の歎に涙しあった人すら居なくなった(とは!)。 *亡国の涙を流す士大夫層や庶民の姿すら消え失せてしまった現状ではないか。それどころか、臨安(杭州)に逃れて、そこで安逸を貪った。誰も失地恢復を言わなかった。林升の『題臨安邸』「山外山樓外樓,西湖歌舞幾時休。暖風薫得遊人醉,直把杭州作州。は、その間の事情と空気を詠っている。また、時代は遡るが、杜牧の『泊秦淮』「煙籠寒水月籠沙,夜泊秦淮近酒家。商女不知亡國恨,隔江猶唱後庭花。」をも聯想してしまう。  ・新亭:勞勞亭のこと。建康(現・南京)にある労労亭のこと。=新亭。嘗て、亡国の歎きを吐出していたところ。(西)晋が胡に滅ぼされた後、江南半壁に追いやられ、皇帝を拉致(永嘉の乱)されながらも、江南の地に拠って漢民族の国家を保持し続け、長江を南渡して(遁れてきた)人士たちは、)いつも休みの日になると、長江南岸の建康(=南京附近)の新亭(労労亭)に集まって、酒を酌み交わし、郷土中原を偲び、歎いていた処。周は、『風景(=風と陽光)は(故国)とは異なってはいないが、目にする川の姿、全てが新たで異なったものである』と言ったので、みんなは、見つめ合って、涙を流した。ひとり、王導だけは、形を改め正して、憤りを見せ『(我々は、)一緒になって王室のために力を尽くして(建設すべきであり)、祖国の故地・神州を恢復させるべきであり、何をめそめそと亡国の民のようになっているのか、この江南に新天地があるではないか!』と言ったので、みんなは彼に謝った。『晉書・列傳・王導』「晉國既建,以(王)爲丞相軍諮祭酒。桓彝(桓階の弟、桓温の父)初過江,見朝廷微弱,謂曰:「我以中州多故,來此欲求全活,而寡弱如此,將何以濟!」憂懼不樂。往見(王),極談世事,還,謂(周)曰:『向見管夷吾,無復憂矣。』過江人士,毎至暇日,相要出新亭飮宴。中坐而歎曰:『風景不殊,舉目有江河之異。」皆相視流涕。惟(王)愀然變色曰:「當共力王室,克復神州,何至作囚相對泣邪!』衆收涙而謝之。」。李白の『勞勞亭』「天下傷心處,勞勞送客亭。春風知別苦,不遣柳條。」 のみならず、この部分は、南宋の豪放詞には、常に出てくる部分である。民族の怨念がこもっている部分。辛棄疾の水龍吟「渡江天馬南來」 や、宋 劉克莊の『賀新カ』「北望~州路,試平章 這場公事,怎生分付? 記得太行山百萬,曾入宗爺駕馭。今把作握蛇騎虎。加去京東豪傑喜,想投戈、下拜真吾父。談笑裡,定齊魯。兩河蕭瑟惟狐兔,問當年 祖生去後,有人來否? 多少新亭揮泪客,誰夢中原塊土?算事業須由人做。」に詳しい。南宋末の汪元量に『題王導像』も「秦淮浪白蒋山,西望~州草木腥。江左夷吾甘半壁,只縁無涙灑新亭。」 とある。これはこの陸游の作品『追感往事』に基づいたものともいえる。 ・對泣:向かい合って涙を流しあって泣く。前出『晉書・列傳・王導』「過江人士,毎至暇日,相要出新亭飮宴。中坐而歎曰:『風景不殊,舉目有江河之異。』
皆相視流涕。」の部分に基づいて詠っている。 ・亦:…さえも。…すら。また、…も。…もまた。ここでは、前者の意。 ・無人:その人物がいない。その任に堪える人物がいない。



◎ 構成について

韻式は「AAA」。韻脚は「身秦人」で、平水韻上平十一真。次の平仄はこの作品のもの。

     ●○●◎●○○,(韻)
    ●●○○●●○。(韻)

    ●◎○○●○●,
    ○○●●●○○。(韻)

2005.2.27

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