huanying xinshang Ding Fengzhang de zhuye
文天祥



                     
江月
                    
和友驛中言別
           
            
          南宋・文天


乾坤能大,
算蛟龍、元不是池中物。
風雨牢愁無著處,
那更寒蟲四壁。
槊題詩,
登樓作賦,
萬事空中雪。
江流如此,
方來還有英傑。


堪笑一葉漂零,
重來淮水,
正涼風新發。
鏡裏朱顏都變盡,
只有丹心難滅。
去去龍沙,
江山回首,
一綫青如髮。
故人應念,
杜鵑枝上殘月。



    **********************

              江月

乾坤  能
(か)く 大なれば,
(かんが)ふるに  蛟龍、 元 是れ 池中の物にあらざらん。
風雨 牢愁  著く 處 無く,
(なん)ぞ 更に  寒蟲 四壁するを。
(ほこ)を たへ  詩を 題し,
樓に 登り  賦を 作るも,
萬事  空中の雪たり。
江流  此
(か)くの如く,
(まさ)に 還(な)ほ  英傑の來(あらは)るる 有らん。


笑ふに堪へん  一葉 漂零し,
重ねて  淮水に 來
(きた)れば,
正に 涼風  新たに 發せんとす。
鏡裏の 朱顏  都
(すべ)て 變じ盡くし,
只だ  丹心の 滅じ難きが  有るのみ。
龍沙に  去り去らんとし,
江山に 首
(かうべ)を回(めぐ)らせば,
一綫  青きこと 髮の如し。
故人  應
(まさ)に念(おも)ふべし,
杜鵑 枝上の 殘月を。

             ******************

◎ 私感訳註:

※文天祥:南宋末の大臣。南宋・端平三年(1236年)〜元・至元一九年十二月(1283年)。字は宋瑞、履善。号して文山。吉州廬陵(現・江西省吉安県)の人。元軍の入寇に際して、これと戦うように主張する。後に元に抗する武装勢力を組織し臨安に入ってこれを防衛した。やがて元軍との講和の使者となるが、伯顔(バヤン)を痛烈に非難したために捕らえられたが、脱走。福建、広東一帯で元への抵抗を堅持した。後に敗れて、北京に送られ、投降の勧誘に応じることなく大義を守り抜いた。現・北京の柴市で刑死。

江月:詞牌の一。念奴嬌のこと。詳しくは「構成について」を参照。この作品は、蘇軾の『念奴嬌』「
大江東去,浪淘盡、千古風流人。故壘西邊,人道是、三國周カ赤。亂石穿空,驚濤拍岸,卷起千堆。江山如畫,一時多少豪。  遙想公瑾當年,小喬初嫁了,雄姿英。註綸巾,談笑間、檣櫓灰飛煙。故國~遊,多情應笑我,早生華。人間如夢,一樽還江。」の韻字を使っている。次韻。 なお、蘇軾の前出『念奴嬌』(大江東去)の作品以来、『念奴嬌』の詞調の作品を作る場合、蘇軾の『念奴嬌』(大江東去)に因り、 『江月』とも『大江東去』とも云う詞牌になった。

※和友驛中言別:和韻して詞を作り、友人に別れの言葉とする。或いは、友人の『驛中言別』の詞に和韻して作る。 ・和:和韻して詩詞を作る。 詩詞を他の人に和韻して作ること。ここでは、友人の鄭に和して作ったことをいう。・言別:別れの言葉を告げる。

※乾坤能大:天地は、かくの如く大きい。 ・乾坤:天地。 ・能:かく。かくの如く。 ・大:おおきい。

※算蛟龍:思うに、蛟龍は(池中の物として、収まっているものではなく、「蛟龍得雲」として、天に昇るものである。)・算:……だと思う。……と認める。……に数える。……になろう。 ・蛟龍:鱗のある龍。みづちと龍。天下を狙う梟雄のことでもある。

※元不是池中物:(蛟龍は、)もともと狭い池の中にいる器量のものではない。(蛟龍とは、)もともと雲雨(機会)を得れば、天に昇るものである。後出『三國志・呉書・周瑜』に基づいた句。 ・元:元来。もともと。 ・不是:…は、……ではない。これ…にあらず。 ・池中物:狭い池の中にいる器量のもの。規模の小さいもの。鱗獣の王である蛟龍とは異なる普通の魚のこと。文天祥の経歴からすると、抗元の戦闘が敗れ、崖山で捕まったが、そのことに基づいて考えれば、元に捕らえられていることをいう。周瑜が劉備の人物を批評して「非池中物」と言った。『三國志・呉書卷五十四周瑜』で「瑜上疏曰:『劉備以梟雄之姿,而有關羽、張飛熊虎之將,必非久屈爲人用者。愚謂大計宜徙備置呉,盛爲築宮室,多其美女玩好,以娯其耳目,分此二人,各置一方,使如瑜者得挾與攻戰,大事可定也。今猥割土地以資業之,聚此三人,倶在疆場,蛟龍得雲雨,終非池中物。』」 と言った。英雄は機会をつかめば世に現れる意。「非池中物」「不是池中物」とは、非凡な者、大物のこと。

※乾坤能大,算蛟龍、元不是池中物。:天地は、斯くの如く壮大であるので、やはり、英雄はは、小さな狭いところで、収まっては居ないだろう。広い天地の下、きっと、(わたしは)囚われの身から脱出することだろう。

※風雨牢愁無著處:風雨は、心細く憂愁に満ちていて、(心の)帰着するところがなく。 ・風雨:風と雨。試煉。厳しい状況をいう。 ・牢愁:心寂しく心配すること。憂愁。 ・牢:寂しい。心細い。 ・著:〔zhuo2〕帰着するところ。あて。めあて。あてとする。めあてとする。なお、この「著」の意味は多く、「無著」:執着しない、「著處」:〔zhuo2chu4●●〕いたるところ、などあるが、ここは後の「那更……」に続く句なので、「あて。あてとする。めあて。」になる。

※那更寒蟲四壁:ましてや、死にかけのコオロギなどの虫が、部屋の周りの壁から(弱々しげに鳴き声をあげているのを聞けば)なおさらである。 ・那更:どうして更に……(できよう)か。なんぞ更に。 ・那:なんぞ。また、語気詞。  ・寒蟲:晩秋、冬にまで生き残った虫。気節が終わり、死に瀕している虫をいう。「蟲」を「蛩」〔きょう;qiong2○〕ともする。「蛩」はこおろぎ。「寒蛩」:冬のこおろぎで、「寒蟲」に同じ。 ・四壁:周りの壁。周囲。

※槊題詩:馬上でホコを横たえて(臨戦態勢であっても)詩を作ることで、英雄が軍陣あっても文雅風流であること。曹操親子は、(文人でもあって、)戦闘中でも、しばしば詩をものしたことによる。元『唐故工部員外郎杜子美墓系銘』に、「曹氏父子鞍馬間爲文,往往
槊賦詩。」のことをいう。後世、明の戚繼光は『馬上作』っで「南北驅馳報主情,江花邊草笑平生。一年三百六十日,キ是馬上行。」としている。 ・槊:戈(ホコ)を構える。武器を構えた戦闘中のことをいう。槊賦詩。 ・槊:〔さく;shuo4●〕ホコ。 ・題詩:詩を作る。詩をものする。

※登樓作賦 (王粲のように)楼に登って(遠く故郷の中原を思う)賦を作り。杜甫に『
登樓』「花近高樓傷客心,萬方多難此登臨。錦江春色來天地,玉壘浮雲變古今。北極朝廷終不改,西山寇盜莫相侵。可憐後主還祠廟,日暮聊爲梁甫吟。」 がある。登楼は、王粲の『登樓賦』のことに基づく。王粲は後漢末〜の文学者(177年〜217年)で、建安七子の一人。 字は仲宣。山陽高平(現・山東省鄒県)の人。『登樓賦』は、後漢末の戦乱の哀しみを、楼に登って、遠く故郷の中原を見やって、懐かしみながらも荒廃を嘆き、やがて楼を降りて歌いあげたもので、「登茲樓以四望兮,聊暇日以銷憂。……循階除而下降兮,氣交憤於胸臆。夜參半而不寐兮,悵盤桓以反側。」というもの。文天祥は、その嘆きを共有するということ。 ・賦:散文調の韻文。叙事的な内容のものに使う。漢魏六朝に発達する。

※萬事空中雪:全ては空中の雪のように、はかなく消え去ってしまった。『槊題詩』という文武の心がけも、『登樓作賦』という憂国慨世の心も、全ては空中の雪のように、はかなく消え去ってしまった。奮戦空しく、宗廟社稷は滅亡した、ということ。 ・萬事:何事も。全ては。 ・空中雪:空中の雪のように、はかなく消え去ったことをいう。

※江流如此:川の流れは、かくの如く。前出蘇軾の『念奴嬌』「
大江東去,浪淘盡、千古風流人物。故壘西邊,人道是、三國周カ赤壁。亂石穿空,驚濤拍岸,卷起千堆雪。江山如畫,一時多少豪傑。に基づいていよう。

※方來還有英傑:(祖国の山河の上には)これからやがて、もっと英雄や豪傑が現れることだろう。 ・方:ちょうど。まさに。やっと。 ・還有:もっと。 ・英傑:英雄や豪傑。

※堪笑一葉漂零:(しかしながら、わたしの身の上は)本当に可笑しいことに、一枚の葉(のように)散ってさまよい、落ちぶれて。 ・堪笑:(どうして)笑うことに堪えられようか。本当に可笑しいことに。 ・一葉:一枚の葉(のように)。 ・漂零:散る。彷徨う。落ちぶれる。これと同じく文天祥の『過零丁洋』「辛苦遭逢起一經,干戈寥落四周星。山河破碎風飄絮,身世浮沈雨打萍。惶恐灘頭説惶恐,零丁洋裏歎零丁。人生自古誰無死,留取丹心照汗。」に意味では同じ。 「漂零」を「飄零」ともする。

※重來淮水:(金陵の)秦淮河に再び来てみたら。 ・重來:再び来てみたら。 ・淮水:秦淮河のこと。南京を流れる。 文天祥は崖山で捕らえられた後、金陵(現・南京)に連れてこられた。そのため、ここは金陵を流れる秦淮河ととるのが至当。尤も、その後、燕京(現・北京)に連れて行かれるが、その際、黄河、長江に並ぶ大河の淮水(淮河)を超えるが、表現内容から見てここは、やはり金陵を流れる秦淮河となる。

※正涼風新發:ちょうど初秋の涼しい風が、初めて吹き出した。「正涼風新發」を「正是應涼風新發」ともする。 ・正:ちょうど。 ・涼風:初秋の涼しい風。 ・新發:初めて吹き始めた。

※鏡裏朱顏都變盡:鏡の中(に映っている、わたしの)若々しかった顔は、すべてすっかり変わってしまった。わたしの外形はすっかり老いてしまった。(しかしながら、わたしの赤心だけは、減じ難いものがあるのだ)。 ・鏡裏:鏡の中。鏡(に映っている、その)中では。・朱顏:若々しい顔。若者。 ・都:すべて。 ・變盡:すっかり変わってしまった。

※只有丹心難滅:ただ真心だけは消しがたいものである。 ・只有:ただ…のみが…である。ただ……だけは…だ。 ・丹心:真心。赤心。赤誠。前出「人生自古誰無死,留取
丹心照汗。」 に同じ。 ・難:…しがたい。 ・滅:滅ぼす。なくなる。火が消える。

※去去龍沙:北方の(夷狄の地の)砂漠地帯へ去って行って。 ・去去:去って行って、もっと去っていって遥かに去っていって。動作が重複して行われるさま。言葉のリズム感と同時に別離のさまの強調でもある。それらが複合して使われている。現代語の用法とは異なる。用例は、蘇武の『詩四首』其三「結髮爲夫妻,恩愛兩不疑。歡娯在今夕,婉及良時。征夫懷往路,起視夜何其。參辰皆已沒,
去去從此辭。」 や、『古詩十九首』の一の「行行重行行,與君生別離。相去萬餘里,各在天一涯。道路阻且長,會面安可知。胡馬依北風,越鳥巣南枝。」 また、東晉の陶潛の『雜詩十二首』其七「日月不肯遲,四時相催迫。寒風拂枯條,落葉掩長陌。弱質與運,玄鬢早已白。素標插人頭,前途漸就窄。家爲逆旅舍,我如當去客。去去欲何之,南山有舊宅。」 と多い。 ・龍沙:白龍堆砂漠。甘粛省と新疆の間にあるが、ここでは、金に拉致された徽宗・欽宗の両帝が囚われている所として使っている。龍を皇帝を象徴するものとして使われている。『資治通鑑・巻第一百九十七・唐紀十三』には次の「夫龍沙以北,部落無算,匈奴庭謂之龍城,無常處,故沙幕(「漠」ではない)因謂之龍沙」(『資治通鑑』の文字の一部が小さいのは原本通り。)と、匈奴と関係がある名称となっている。張元幹の『石州慢』「雨急雲飛,瞥然驚散,暮天涼月。誰家疏柳低迷,幾點流螢明滅。夜帆風駛,滿湖煙水蒼茫,菰蒲零亂秋聲咽。夢斷酒醒時,倚危檣C絶。  心折,長庚光怒,群盗縱横,逆胡猖獗。欲挽天河,一洗中原膏血。兩宮何處?塞垣只隔長江,唾壺空撃悲歌缺。萬里想龍沙,泣孤臣呉越。」にもこのように使われている。

※江山回首:(祖国の)山河をふり返れば。 ・江山:(祖国の)山河。 ・回首:ふり返る。こうべをめぐらす。

※一綫青如髮:(中原の)山の輪郭の線は、青い一本の髪の毛のようである。蘇軾の『澄邁驛通潮閣二首』其二「餘生欲老海南村,帝遣巫陽招我魂。杳杳天低鶻沒處,
青山一髮中原。」 に基づいて作られた。 ・一綫:(中原の)山の輪郭の線。 ・青如髮:青い一本の髪の毛のようである。「江山回首,一綫青如髮」を「向江山回首,青山如髮」ともする。

※故人應念:友よ、懐かしく思い起こしてほしい、(「杜鵑枝上殘月」を)。 ・故人:友人。ここでは、和韻の相手である鄭になる。 ・應念:懐かしく思い起こしてほしい。まさに念ずべし。 ・念:想う。懐かしく思う。

※杜鵑枝上殘月:残月は、ホトトギスが悲痛な鳴き声で鳴いている枝の上に出ている月(のさまを)。悲痛なわたしの心の叫びを、残月(を見るたびに思い起こしてほしい)。 ・杜鵑:〔とけん;du4juan1●○〕ホトトギス。蜀王・杜宇(望帝)の魂が化してこの鳥となったという。「杜鵑」は、その鳴き声から、血を吐くような強い哀しみの表現として、宋詞では悲痛な思いの描写に、しばしば出てくるが、この場合は帝王の魂に思いを致す意にも使っている。杜甫の『杜鵑』「我昔遊錦城,結廬錦水邊。有竹一頃餘,喬木上參天。杜鵑暮春至,哀哀叫其間。我見常再拜,重是古帝魂。」『杜鵑行』「君不見昔日蜀天子,化作杜鵑似老烏。寄巣生子不自啄,群鳥至今與哺雛。」や後世、清・康有爲の『戊戌八月國變紀事』「歴歴維新夢,分明百日中。莊嚴對宣室,哀痛起桐宮。禍水滔中夏,堯臺悼聖躬。小臣東海涙,
望帝杜鵑。」の用法に同じ。  ・殘月:明け方の月。明るくなってからも残って見える月。前出「杜鵑」同様に、情況が頽勢になったときに使う。また、月は、離れている人同士が、それを眺めて、お互いに懐かしく思う、というアイテムでもある。
※故人應念,杜鵑枝上殘月:友よ、悲痛なわたしの心の叫びを、残月を(見るたびに)懐かしく思い起こしてほしい。





◎ 構成について

壱百字 (双調)(念奴嬌、大江東去ともいう)。韻式は「aaaa aaaa」。一般に入声韻を使用。韻脚は「物壁雪傑 發滅髮月」。詞韻第十八部入声。五物(物)、六月(月發)。
           
   
○○●,
   ●●、○○●。(入声韻)
   ○○●●,
   ●○○●。(入声韻)
   ●○○,
   ●,
   ●○○●。(入声韻)
   ○○●,
   ○○●○●。(入声韻)


   ●○○,
   ○○●,
   ●○○●(入声韻)。
   ○○●●,
   ○○●。(入声韻)
   ●○○,
   ●,
   ●○○●。(入声韻)
   ○○●,
   ○○●○●。(入声韻)

2003.10.10
     10.11
     10.12
     10.13完
2005.10.30補
2007. 3. 5
2019. 6.20

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