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      澄邁驛通潮閣二首
              其二
                  蘇軾 

餘生欲老海南村,
帝遣巫陽招我魂。
杳杳天低鶻沒處,
青山一髮是中原


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澄邁驛の通潮閣       
                       
餘生 老いんと欲す  海南の村,
帝 巫陽をして  我が魂を招か遣
(し)む。
杳杳たる 天 低
(た)れて  鶻 沒するの處,
青山 一髮  是れ 中原。

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◎ 私感註釈

※蘇軾:北宋の詩人。北宋第一の文化人。政治家。字は子瞻。号は東坡。現・四川省眉山の人。景祐三年(1036年)〜建中靖國元年(1101年)。三蘇の一で、父:蘇洵の老蘇、弟:蘇轍の小蘇に対して、大蘇といわれる。
『歴代絶句類選』二 第八葉

※澄邁驛通潮閣:蘇軾は晩年政争のために、海南島の役人に左遷流された。この作品はそれが赦されて、流謫の地から本土に還る際、海南島北部の澄邁駅にある通潮閣に上って詠じたものである。 ・澄邁驛:海南島北部で海岸線より2キロメートル入り込んでいる。任地の州と海口の間に位置する。

※餘生欲老海南村:残りの人生は、この海南島の村で過ごそう(と思っていたが)。 ・餘生:残りの人生。残生。この時蘇軾は六十歳を超えていた。 ・欲老:年老いていこう。残余の人生を過ごそう。 ・海南村:化外の海南島の村で。

※帝遣巫陽招我魂:天帝は、巫陽に命じて、忠臣(屈原であり、わたくし蘇軾でもある)の魂を哀れみ傷んで、その魂魄を招来させた。ここは『楚辭』の『招魂』「帝告
巫陽曰:「有人在下,我欲輔之。魂魄離散,汝筮予之!」…とあり「魂兮歸來!」の繰り返される古代詩(辞)に基づく。蘇軾は自分の境涯を、放たれた忠臣屈原に擬し、この句を作った。但し、『詩經』では、「招魂」の意は二通りあり、一は、楚の懷王の亡魂であり、一は、屈原が、自ら招くの意になる。蘇軾は、この『楚辭』「招魂」を天帝が忠臣屈原の魂を傷み哀しんで呼び寄せた、と取っている。 ・帝:天帝。 ・遣:…に、…をさせる。(…をして)…しむ。使役表現。使役表現は多数あるが、その用法の差異は平仄、語調の面もあるが、本来の文字のニュアンス、語感も残している場合が多い。ここもその例。 ・巫陽:『楚辭』「招魂」に出てくるみこの名。巫女。ただし性別不詳。 ・招我魂:招魂する。わたしの魂を招き寄せる。

※杳杳天低鶻沒處:遥かな天空が低くたれ込め、ハヤブサが見えなくなるところ(に)。 ・杳杳:遥かなさま。 ・低:低くたれ込める。 ・鶻:〔こつ;hu2(gu3)●〕ハヤブサ、クマタカ。 ・沒處:見えなくなるところ。

※青山一髮是中原:青い山影が、一筋の線になって近くに見えるが、(それが)祖国なのだ。 ・青山一髮:青い山影が、一筋の線になって。青い山影が指呼の間にあり。「乘潮簸扶胥,近岸指一髮。兩巖雖云牢,水石互飛發。」に同じか。後世、日本・頼山陽は『泊天草洋』で「雲耶山耶呉耶越,水天髣髴
一髮。萬里泊舟天草洋,烟篷窻日漸沒。瞥見大魚波闥オ,太白當船明似月。」と使う。 ・是:〔ぜ(し);shi4●〕(「青山一髮」なの)は、…である。…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。 ・中原:中華の地。ここでは、中国本土を指す。

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◎ 構成について

 韻式は、「AAA」。韻脚は「村魂原」で、平水韻上平十三元。この作品の平仄は、次の通り。

○○●●●○○,(韻)。
●●○○○●○。(韻)
●●○○●●●,
○○●●●○○。(韻)



2003. 8.29
      8.30完
2006. 3.10補
2011.11. 5画

漢詩 填詞 

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