歴歴維新夢,
分明百日中。
莊嚴對宣室,
哀痛起桐宮。
禍水滔中夏,
堯臺悼聖躬。
小臣東海涙,
望帝杜鵑紅。
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戊戌八月 國變 紀事
歴歴たり 維新の 夢,
分明たり 百日の 中。
莊嚴 宣室に 對し,
哀痛 桐宮に 起る。
禍水 中夏に 滔(みなぎ)り,
堯臺 聖躬を 悼む。
小臣 東海に 涙して,
帝を 望めば 杜鵑 紅し。
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◎ 私感註釈
※戊戌八月國變紀事:戊戌変法政変の記事。 *康有為、梁啓超、譚嗣同 、また、張之洞に詩作あり。 ・戊戌:1898年光緒二十四年のこと。ここでは、戊戌の変法を指す。八月國變紀事:戊戌変法が挫折した八月の出来事。戊戌の変法とは、1898年(光緒二十四年)に宣布された変法維新(欧化、近代化の改革運動)の政治運動。その由来は、アヘン戦争後、国威の衰頽が顕在化し、やがて、日清戦争(中国側の呼称:甲午戰爭)後、日本の欧化の優越性を目の当たりにしすることで、自国の後進性の改革の必要性と、西欧列強の対清朝中国蚕食という現実に直面して、危機感を持った先覚者が、政治の改革と軍備の改善を図り、日本の明治維新後の政府と帝政をモデルにした救国改良運動にある。康有為や梁啓超がその中心であった。やがて、1898年(光緒24年)に光緒帝によって宣布された変法維新は、百三日後、西太后慈禧のためにあえなく挫折する。それ故「百日維新」とも称される。なお、この政変の失敗後康有為や梁啓超は日本へ亡命、他の譚嗣同、楊鋭ら6人は処刑された。
※康有爲:前出戊戌の変法の主役。1888年〜1898年。原名は祖詒。字は廣廈。号は長素、更生。康南海や南海先生と称される。広東南海県の官僚の家庭出身のため、前記のように称された。政変の失敗後、日本へ亡命するが、帝政維持を主張する団体を組織する。満州民族の王朝打倒を呼号する革命派とは、異なる考えを持っていた。
※歴歴維新夢:政治改革の夢は、(今でも)ありありと見える。 ・歴歴:明らかなさま。ありありと見えるさま。 ・維新夢:政治改革の夢。変法維新の夢。
※分明百日中:・分明:はっきりとしている。 ・百日中:戊戌変法は百三日で終わりを告げたので、「百日維新」ともいう。蛇足だが、後出、『一百零三天 』(周煕著上海文武出版社)が文革終結後間もなくの1981年に出版された。
※莊嚴對宣室:重々しく帝室に対し。 ・莊嚴:たっとく重々しい。仏教に帰依した西太后慈禧を暗示するか。 ・宣室:殷の宮殿の名。また獄をもいう。漢の未央前殿の正室。光緒帝を暗示するか。
※哀痛起桐宮:悲しみの気持ちが宮中に起こる。 ・桐宮:湯王の陵墓のある桐の地の宮室。山西省栄河県に遺蹟がある。
※禍水滔中夏:わざわいの水害は、中華にみなぎり。 ・禍水:わざわいの水害。 ・滔:みなぎる。 ・中夏:世界の中心である国。中華。中州。
※堯臺悼聖躬:帝位の禅譲に、皇帝陛下のお体を気遣います。ここでは、西太后のために幽閉された光緒帝を気遣うことをいう。 ・堯臺:堯帝が台を築いて、(盛り土をして祭壇を築き、)平定に功労があった舜に帝位を譲ったところ。禅譲の舞台。 ・聖躬:天子の体。聖体。玉体。ここでは、光緒帝を指している。
※小臣東海涙:わたくしめは、(亡命をして)日本にいて、(辛くて)涙を流している。 ・小臣:康有為自身のこと。 ・東海:日本をいう。
※望帝杜鵑紅:蜀王・杜宇(望帝)の魂が化して杜鵑となって(冤罪で死んだ人の魂の悲痛な訴えで)悲しげに鳴き、血を吐いている。 *「望帝啼鵑」は冤罪で死んだ人の魂の悲痛な訴えのことを謂う。 ・望帝:蜀王・杜宇のこと。その魂が化して杜鵑となったという。また、帝都と皇帝がおられる西の方を思い望んでともかけている。 ・杜鵑紅:ホトトギスは悲しげに鳴き、血を吐くと謂われる。胸に思いがあって鬱屈した悲しげな描写をする際に使われる語彙でもある。 ・杜鵑:〔とけん;du4juan1●○〕ホトトギス。蜀王・杜宇(望帝)の魂が化してこの鳥となったという。「杜鵑」は、その鳴き声から、血を吐くような強い哀しみの表現として、宋詞では悲痛な思いの描写に、しばしば出てくるが、この場合は帝王の魂に思いを致す意にも使っている。杜甫の『杜鵑』「我昔遊錦城,結廬錦水邊。有竹一頃餘,喬木上參天。杜鵑暮春至,哀哀叫其間。我見常再拜,重是古帝魂。」『杜鵑行』「君不見昔日蜀天子,化作杜鵑似老烏。寄巣生子不自啄,群鳥至今與哺雛。」南宋・文天の『江月』和友驛中言別「乾坤能大,算蛟龍、元不是池中物。風雨牢愁無著處,那更寒蟲四壁。槊題詩,登樓作賦,萬事空中雪。江流如此,方來還有英傑。 堪笑一葉漂零,重來淮水,正涼風新發。鏡裏朱顏都變盡,只有丹心難滅。去去龍沙,江山回首,一綫青如髮。故人應念,杜鵑枝上殘月。」の用法に同じ。
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◎ 構成について
作品全体の韻式は「AAAA」。一韻到底。韻脚は「中宮躬紅」で、平水韻上平一東。この作品の平仄は次の通り。
●●○○●,
○○●●○。(韻)
●○●○●,
○●●○○。(韻)
●●○○●,
○○●●○。(韻)
●○○●●,
◎●●○○。(韻)
2003. 6.28 6.29 6.30完 2005.10.30補 2012.10. 5 |
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