昭君怨

恨煞回天無力,
只學子規啼血。
愁恨感千端,
危欄


枉把欄干拍遍,
難訴一腔幽怨。
殘雨一聲聲
不堪聽!

******


昭君怨

           
恨煞す  回天の 力 無し,
只だ學ぶ  子規の 血に啼くを。
愁恨  感ひ 千端,
危欄を 拍つ。


枉(むなし)く   欄干を 拍つこと遍し,
訴へ難し  一腔の 幽怨。
殘雨  一聲聲,
聽くに 堪へず!

                   

           **********
◎ 私感註釈

※昭君怨:詞牌の一。

※恨煞回天無力:本当に恨みに思っているのは革命的な回天の力量がないことで。 ・恨煞:(古白話)恨みの極みである。=殺。忙殺の殺と同じく、形容詞の後に付き、程度の激しいことを表す。詞では、すこぶる、非常に、の意に用いられる。 ・回天:衰えた勢いを盛り返す譬え。革命的行為。明末〜・朱舜水の『述懷』に「九州如瓦解,忠信苟偸生。受詔蒙塵際,晦跡到東瀛。囘天謀不就,長星夜夜明。單身寄孤島,抱節比田。已聞鼎命變,西望獨呑聲。」とあり、清末・譚嗣同の『絶命詞』に「有心殺賊,無力回天。死得其所,快哉快哉。」とある。 ・回天無力:「回天之力」(大事を行う力)がないことを言う。

※只學子規啼血:ただホトトギス(の悲しげな鳴き声を真似て、)血を吐いてなくだけだ。 ・只學:ただ…だけ。選択肢が外にない、という時に使う。惟・唯、但、も「ただ」と読むが、意味が違う。おそらくここは李商隠の詩(下出)からきていると思われる。 ・子規:ホトトギス。日本でも中国でも文学によく現れたので、共にこれを表す漢字の種類は多い。 ・啼血:血を吐いて鳴く。ホトトギスの鳴き声が、悲しげなところからいわれる。李商隠の詩にホトトギスを詠って「莫學啼成血,從教夢寄魂。」というのがある。蛇足だが、正岡子規は吐血する自分の姿を号とし、機関誌名としたものか。

※愁恨感千端:うれいは、多くの事柄にある。 ・愁恨:うれい。chou2hen4と現代語で言えば、先ず「仇恨」と思う。こちらは「うらみ」の義で、愁恨よりももっと能動的できつい。 ・千端:多くのことがら。千は多数を表し、端は物事の端、始まりで、転じて物事。万端。あらゆる方面。萬端としないで千端としたのは、ここはとすべきところで、萬は
で、千はのためゆえである。

※拍危欄:高楼に昇って(遠くを見遣りながら物思いに耽って)手すりをたたいて。 ・危欄:(古・現代語)高い建物の欄干。ここの危は高いという意味で、あぶないという意味ではない。危楼(高い建物)の危のこと。

※枉把欄干拍遍: むなしく手すりを打ち続けよう。 ・枉:むだに、むざむざ。むなしくするさまをいう。 ・把:(現代語)…を(…してしまう)。後に名詞(目的語)がくる。古文の將に近く、以とも似ている。 ・欄干:らんかん。てすり。詞には極めてよく詠み込まれる物の一。欄干に寄り添い、遠くを眺めやりながら、物思いに耽る、という情景がよくある。欄干には、体を寄り添わせているのだが、其の実、心を寄り添わせているともいえる。詞で欄干の語が出てくれば、作者の心がそこで揺らいでいるところともいえる。 ・拍遍:打つこと あまねし。

※難訴一腔幽怨:胸の中いっぱいの内に秘められた恨みは、なかなか人に言いにくいところがある。 ・難訴:うったえ がたい。(相手に)言いにくい。訴は現代語では(相手に向かって)言う、という普通によく使うことば。 ・一腔:満腔。胸に一杯たまった。一は満の義。一座(満座)一江(満江)一面(満面)等の一と同じ。 ・幽怨:内に秘められた恨み。女性の閨情に関するものが多いというが、秋瑾のこの詞は関係がないだろう。

※殘雨一聲聲:残り雨がパラパラ、パラパラと。 ・殘雨:残り雨。残字は、すたれた、まばらになった、という、気勢が上がらない感じを出す。ただ単に残りというだけではない。 ・一聲聲:聲は声(こえ)ではない。音のことである。雨音。一聲ではなく一聲聲と、重ねて聲聲と表現するのは、一声、また一声と、ぱらぱら、またぱらぱらと、複数回、断続的に雨音があったことを表している。 現代語では、量詞の畳字の場合は、それが顕著である。畳字は、また詩をリズミカルにしたり、字数を揃える(これも一種のリズムともいえるが)働きを実際上していることも事実である。

※不堪聽:聴いていられない。 ・不堪:堪えられない。 ・聽:きく。自分からきく。耳をすまして聴く。きこうとすること。きこえる、ではない。






◎ 構成について
   昭君怨  双調。四十字 換韻。韻式は「aaBB ccDD」。

●,(仄韻)
●。(仄韻)
●●○○,(平韻)
●○○。(平韻)


●,(仄韻)
●。(仄韻)
●●○○,(平韻)
●○○。(平韻)

韻脚:「力血」は第十八十七部入声、「端欄」は第七部平声、「遍怨」は第七部去声、「聲聽」第十一部平声で、換韻をしている。  
               
2000. 7.21
      7.22
      7.23完
      7.24補
      9. 1補
      9. 2補
2007.10. 7
2016.11.27


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