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春去也,
多謝洛城人。
弱柳從風疑舉袂,
叢蘭露似霑巾。
獨坐亦含顰。
憶江南
樂天の春詞に和して,『憶江南』の曲拍に依りて句を爲す
春 去らんとす 也,
多謝す 洛城の人に。
弱柳 風に從ひて 疑ふらくは 袂を舉げたるかと,
叢蘭 露に れて 巾を 霑すが似(ごと)く。
獨り坐して 亦た 顰を 含む。
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◎ 私感註釈
※劉禹錫:中唐の詩人。772年〜842年。字は夢得。洛陽(現・河南省)の人で、匈奴系の末裔ともいう。蘇州剌史、太子賓客に任じられた。白居易と詩詞を通じての交流がある。白居易と共に新たな詩風を求めて、嘗て左遷されていた湖南、四川での少数民族の生活や風俗、民歌に基づき『竹枝』や『浪淘沙』を作って残している。本サイトの「竹枝詞」のページには、劉禹錫の採取、編輯した民歌を載せている。白居易とともに、唐詞の先魁でもある。
※憶江南:詞牌の一。詳しくは下記「構成について」を参照。この作品は、春を擬人化して詠んでいる。この作品には「和樂天春詞,依『憶江南』曲拍爲句」という前書きがあった。白居易の春の詞(『憶江南』「江南好,…」のこと)に和して、『憶江南』の曲拍に依ってこの句を作る、というように、填詞が曲にのせて歌われていたことがよく分かることばである。
※春去也:春が帰り去ろうとして。『憶江南』の別名『春去也』は、この作品のこの句から起こった。 ・去:さる、離れる。行く。 ・也:注意を促す。感慨を示す。
※多謝洛城人:洛陽城の人に別れの挨拶をして。・多謝:別れの挨拶をする。ありがとう。感謝する。 ・洛城人:洛陽城の人。
※弱柳從風疑舉袂:しなやかなヤナギが、(吹いてくる)風のままに、まるでたもとをあげて(別れの手を振っている)かのようだ。 ・弱柳:しなやかで弱々しいヤナギ。 ・從風:(吹いてくる)風のままに。 ・疑:まるで……みたいだ。・舉袂:たもとをあげる。別れの手を振っている様を言う。 ・袂:〔べい;mei4〕たもと。そで。
※叢蘭露似霑巾:茂っているランが、露にぬれているのは、ハンカチを(別れを惜しむ涙で)ぬらしているかのようである。 ・叢蘭:茂っているラン。ランの茂み。ランは、春の花の象徴。春蘭。 ・露:つゆにぬれる。 ・:〔いふ:yi4〕うるおす。露で湿らすこと。 ・似:…のようである。…の如くである。…に似ている。 ・霑巾:(絹の)ハンカチを(涙で)ぬらす。 ・霑:〔せん;zhan1〕うるおす。ひたす。ぬらす。つゆおく。雨や霧でぬれてへばりつくこと。現代語で言えば、(サシミ等を醤油・タレに)つけることにも使う。そんな用法に対して前出「」の場合は、露で湿らすこと。
※獨坐亦含顰:(春蘭は)独りぼっちで坐っていて、眉をひそめた(愁いの)表情を帯びたままでいる。 ・獨坐:独りぼっちで坐る。 ・亦:…もまた。 ・含:帯びる。いだく。 ・顰:眉の縦皺。眉をひそめる(しかめる)。西施の效顰のように愁いの中にも艶めかしさがあることの表現。
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◎ 構成について
二十七字(これは単調。別体三種あり)。望江南、謝秋娘、夢江南、春去也ともいう。一韻到底。韻式は、「AAA」。韻脚は「人巾顰」で詞韻第六部十一真。詞調は次の通り。
○●,
●●○○(韻)。
●○○●●,
○●●○○(韻)。
●●○○(韻)。
2003.7.23完 |
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