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南來飛燕北歸鴻。
偶相逢。
慘愁容。
綠鬢朱顏,
重見兩衰翁。
別後悠悠君莫問,
無限事,
不言中。
小槽春酒滴珠紅。
莫怱怱。
滿金鐘。
飮散落花流水、 各西東。
後會不知何處是,
煙浪遠,
暮雲重。
江城子
南來の 飛燕 北歸の 鴻。
偶(たまた)ま 相ひ逢ふ。
慘たる 愁容。
綠鬢 朱顏は,
重ねて見(まみ)えれば 兩衰の翁たり。
別後の 悠悠たるは 君 問ふこと莫(なか)れ,
無限の事,
中を言らじ。
小槽の 春酒 珠なす紅を 滴らす。
怱怱たる 莫(なか)れ。
金鐘に滿たす。
飮 散ずれば 落花 流水、 各(おのお)の 西東す。
後會 知らず 何處(いづ)こか 是(こ)れなるを,
煙(かす)める 浪 遠く,
暮雲 重し。
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◎ 私感註釈
※南來飛燕北歸鴻:南から飛んで来る夏の渡り鳥のツバメと、北へ帰っていく冬の渡り鳥のカリ(が、)。 ・鳥南來飛燕:南から飛んで来るツバメ。渡り鳥の夏鳥。 ・北歸鴻:北へ帰っていくカリ。渡り鳥の冬鳥。日頃、すれ違っている者同士をいう。
※偶相逢:たまたま出逢った。(日頃、すれ違っている者同士が)たまたま出逢った。 ・偶:たまたま ・相逢:…に出逢う。 ・逢:偶然に行き逢う。たまたま出逢う。後出の「後會」の「会」もその意は、「あう」だが、こちらは日時を決めて意図的に会うこと。
※慘愁容:いたましい様子である。 ・慘:いたむ。いたいたしく思う。いたましい。むごい。みじめである。 ・愁:うれえる。あわれな。 ・容:かたち。容貌。外形。
※綠鬢朱顏:若々しい容貌(も)。 ・綠鬢:豊かでつややかに輝く鬢。緑なす黒髪。 ・朱顏:若々しい顔。紅顔。
※重見兩衰翁:(若々しい容貌であった者は)再び出会ってみたら、髪の色も、顔色もどちらも衰えた老人になっていた。偶然に再会したが、(昔の若さはすっかり失われてしまい)老け込んでいるのに驚いていること。 ・重見:かさねて会う。再会する。 ・兩衰翁:髪の色も、顔色もどちらも衰えてしまった老人。 ・兩:ふたつとも。ふたつながら。どちらも。 ・翁:男性の老人。劉希夷の『白頭吟〔代悲白頭翁〕』「洛陽城東桃李花」が、思い出される。
※別後悠悠君莫問:(双方が若かった頃に)別れて、その後の遙かに長かった(過ぎ去った)年月のことは、貴君よ、どうか訊ねないでいただきたい。 ・別後:(双方が若かった頃に)別れた後。 ・悠悠:遙かに長い(過ぎ去った)年月。崔顥の『黄鶴樓』「昔人已乘白雲去,此地空餘黄鶴樓。黄鶴一去不復返,白雲千載空悠悠。」がある。 ・君莫問:貴君よ、問わないでほしい、の意。王維の『送別』に「下馬飮君酒,問君何所之。君言不得意,歸臥南山陲。但去莫復問,白雲無盡時。」がある。
※無限事:限りない思い。尽きない思い出。馮延巳の『南鄕子』に「細雨濕流光,芳草年年與恨長。煙鎖鳳樓無限事,茫茫。」というのがある。また、白居易の白居易の『琵琶行』に「弦弦掩抑聲聲思,似訴生平不得志。低眉信手續續彈,説盡心中無限事。」とある。
※不言中:(「無限事」の)なかみを声に出して語らなくてもよい。(「無限事」の)なかみについては、暗黙の了解がある。「言わず語らずに心と心」ということ。そのことのなかみは言わずもがなである。 ・不言:声に出して言う必要がない。語らない。語りたくない。黙契があるということ。 ・中:(前の句「無限事」の)なかみ。名詞。これを動詞の「あたる」、「中毒」(毒に中る)の「中」と同じと見れば、去声になり、不具合が生じ、意味も通じなくなる。
※小槽春酒滴珠紅:酒器の春酒を注げば、赤い玉のようなしずくを滴らせて。 *中唐・李賀の『將進酒』に「琉璃鍾,琥珀濃。小槽酒滴眞珠紅。烹龍炮鳳玉脂泣,羅屏繡幕圍香風。吹龍笛,撃鼉鼓。皓齒歌,細腰舞。況是青春日將暮,桃花亂落如紅雨。勸君終日酩酊醉,酒不到劉伶墳上土。」とある。 ・小槽:水、酒などを入れる器。醸造所。四角い桶。 ・春酒:春に造って置いた酒。新春の酒。春にできる酒。酒の美称。『詩經』国風・風・中の「七月」「八月剥棗,十月穫稻。爲此春酒,以介眉壽。」ということからは、春に仕込んだのではなくて、新春の酒、春にできる酒の意になる。 ・滴珠紅:赤ブドウ酒などの酒をぽたぽたとしたたり落とす。
※莫怱怱:あわただしくするな。久しぶりの再会なので、ゆっくり腰を落ち着けて飲もう、ということ。 ・怱怱:忙しい。
※滿金鐘:深い酒杯にいっぱいに満たす。 ・金鐘:深い酒器。高駢の『邊方春興』 に「草色靑靑柳色濃,玉壺頃酒滿金鐘。」とあり、同義。
※飮散落花流水:酒宴が散会して別れた後、(恰もそれぞれが東西に分かれて)流されてゆく行く花びらのように。 ・飮散:宴会が終了して別れた後。 ・落花流水:散りゆく花が川の流れに流されて。現代語では、さんざんに。手ひどく。徹底的に。すっかり。の意がある。
※各西東:それぞれが東西に別れ別れに分かれて行く。別れ行くことをいう。ここの「西東」は、動詞。「東西」としないのは、「東」が韻脚のため。
※後會不知何處是:(この次に)再会する所は、どこになるのか分からない。いつまた会えるのだろうか。 ・後會:また会う日。=後會の期。 ・不知:分からない。 ・何處是:どこがそうであるか。どこが再会する場所であるか。 ・何處:どこ。いづこ。 ・是:そうである。ここでは、再会する場所である。この表現は、本サイトでも陸游、辛棄疾、李淸照その他よく使われている。
※煙浪遠:遙か彼方の波が霞んでいるさまをいう。双方が遙かに離れていくさまを暗示している。
※暮雲重:夕暮れの雲が、かさなっている。 ・重:かさなる。ここは「おもい」の意ではない。ここは平韻が来るところで、「かさなる」〔ちょう;chong2〕で○。「おもい」の意では〔ぢゅう:zhong4〕で●になる。夕暮れの雲が重々しい、とはならない。
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◎ 構成について
双調。七十字。平韻一韻到底。韻式は、「AAAAA AAAAA」。韻脚は「鴻逢容翁中 紅怱鐘東重」で、詞韻第一部平声一東(鴻翁中東)。二冬(逢容鐘重)。なお、「重」は両韻で、ここは「かさねる」という動詞〔ちょう;chong2〕であって、○になる。なお、「おもい」という形容詞〔ぢゅう;zhong4〕は去声で、●になる。ここは、○。
○●○○。(韻)
●○○,(韻)
●○○。(韻)
●○○,
●●●○○。(韻)
●○○●●,
○●●,
●○○。(韻)
○●○○。(韻)
●○○,(韻)
●○○。(韻)
●○○,
●●●○○。(韻)
●○○●●,
○●●,
●○○。(韻)
2003.4.13 4.14 4.15 4.16完 3. 9B 2011.5.26補 |
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