陳陶隴西行詩詞世界　碇豊長の詩詞　漢詩 chentao

                    　　　
       隴西行

      　　　　　　　　　　　陳陶

誓掃匈奴不顧身，
五千貂錦喪胡塵。
可憐無定河邊骨，
猶是春閨夢裏人。

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隴西行

　
誓って　匈奴を掃（はら）はんとして　　身を顧（かへり）みず，
五千の貂錦（てうきん）　　胡塵に喪（うしな）ふ。
憐（あはれ）むべし　　無定河邊の骨，
猶（な）ほ是れ　春閨　夢裏の人。

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◎　私感註釈

※陳陶：晩唐の詩人。（８１２年頃～８８５年頃）。字は嵩伯。その詩は平淡をもって知られる。長安に遊学するが志を得ず、後に南昌の西山に隠棲する。

※隴西行：楽府題。これは四首のうちの其二になる。隴西は甘肅省西部。西域への出口にあたる。この作品は、一聯でSVを構成しており、上句が主部、下句が述部のようになっている。珍しい構成の作品である。「『誓掃匈奴不顧身』と思って、『五千貂錦喪胡塵』となってしまった。　『可憐無定河邊骨』とは、『猶是春閨夢裏人』なのだ。」

※誓掃匈奴不顧身：必ず匈奴を打ち払い、我が身を顧みることはしない（と、勇ましく出征したが）。盛唐・王翰の『古長城吟（飮馬長城窟行）』に「長安少年無遠圖，一生惟羨執金吾。麒麟前殿拜天子，走馬西撃長城胡。胡沙獵獵吹人面，漢虜相逢不相見。遙聞撃鼓動地來，傳道單于夜猶戰。此時顧恩寧顧身，爲君一行摧萬人。壯士揮戈回白日，單于濺血染朱輪。歸來飲馬長城窟，長城道傍多白骨。問之耆老何代人，云事秦王築城卒。黄昏塞北無人煙，鬼哭啾啾聲沸天。無罪見誅功不賞，孤魂流落此城邊。當昔秦王按劍起，諸侯膝行不敢視。富國強兵二十年，築怨興徭九千里。秦王築城何太愚，天實亡秦非北胡。一朝禍起蕭墻内，渭水咸陽不復都。」とあり、後世、日本の藤森弘庵の『八幡公勿來關圖』に「誓掃胡塵不顧家，懸軍萬里向邊沙。馬上殘日東風惡，吹落關山幾樹花。」や江藤新平は『逸題』で「欲掃胡塵盛本邦，一朝蹉跌臥幽窗。可憐半夜蕭蕭雨，殘夢猶迷鴨綠江。」と使う。　・誓：誓って…する。ちかって。かならず。たしかに。　・掃：〔さう；sao3●〕掃く。はらい清める。　・匈奴：西北方の異民族。漢代は甘肅省からその北方全体にいた。　・不顧身：自分の身を顧みない。身を献げること。

※五千貂錦喪胡塵：五千名の勇敢な兵士は、胡人との紛争で死んでしまった。この句だけ単独で読めば、伝統的に「五千の貂錦　胡塵に喪（うしな）ふ」とする。ここを「誓掃匈奴不顧身，五千貂錦喪胡塵。」と一聯単位で見ると、「『誓って匈奴を掃はんと身を顧みず』と決心して、出征した五千名の貂錦を纏った兵士たちは胡塵の間に葬られた。」の意になり、「五千の貂錦（てうきん）　胡塵に喪（はふむ）らる」になろう。　・五千：死亡した兵員の数。　・貂錦：〔てうきん；diao1jin3○●〕貂（てん）の毛皮と錦（にしき）で、軍装のこと。美しい軍装の兵士。貔貅。　・喪：〔さうsang1○。両韻〕死ぬ。死。　〔さうsang4●〕失う。　・胡塵：異民族が攻めてくるさわぎ。

※可憐無定河邊骨：かわいそうに、無定河のほとりの骨は。　・可憐：かわいそうだ。心が動かされる。あわれむべきだ。　・無定河：北辺を流れる川の名。内蒙古に源を発して陝西を通って、解家溝附近で黄河に注ぎこむ河。黄河支流の一。朔水。オルドス地方の東側を流れて黄河へ注ぎ込む大河。『中国歴史地図集』第五冊　隋・唐・五代十国時期（中国地図出版社）４０－４１ページ「唐京畿道関内道」にある。砂漠地帯を流れるので、流域を変えることからこの名が附いたのか。　・邊：ほとり。あたり。側。　・骨：遺骨。屍骸。李白は『戰城南』で「去年戰桑乾源，今年戰葱河道。洗兵條支海上波，放馬天山雪中草。萬里長征戰，三軍盡衰老。匈奴以殺戮爲耕作，古來唯見白骨黄沙田。」や杜甫の『兵車行』』「君不見青海頭，古來白骨無人收。新鬼煩冤舊鬼哭，天陰雨濕聲啾啾。」は、白骨を詠い、常建は『塞下曲』「北海陰風動地來，明君祠上望龍堆。髑髏皆是長城卒，日暮沙場飛作灰。」と髑髏を詠う。

※猶是春閨夢裏人：やはり、（出征した夫の帰還を待つ）妻の夢の中に出てくる人なのだろう。　*「無定河邊骨」は、故郷に自分の帰りを待っている妻のいる身なのだろう。　・猶是：〔いうぜ；you2shi4〕（ためらう感じを持った、）ちょうど…のようだ。なお。やはり。まだ。　・猶：なほ…ごとし。　・春閨：〔しゅんけい；chun1gui1○○〕艶めかしい婦人の部屋。女性自身をも暗示する。　・夢裏人：（女性の）夢の中に出てくる人。

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◎　構成について

韻式は「AAA」。韻脚は「身塵人」で、平水韻上平十一真。次の平仄はこの作品のもの。

●●○○●●○，（韻）
●○○●◎○○。（韻）
●○○●○○●，
○●○○●●○。（韻）