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去年戰桑乾源,
今年戰葱河道。
洗兵條支海上波,
放馬天山雪中草。
萬里長征戰,
三軍盡衰老。
匈奴以殺戮爲耕作,
古來唯見白骨黄沙田。
秦家築城備胡處,
漢家還有烽火然。
烽火然不息,
征戰無已時。
野戰格鬪死,
敗馬號鳴向天悲。
烏鳶啄人腸,
銜飛上挂枯樹枝。
士卒塗草莽,
將軍空爾爲。
乃知兵者是凶器,
聖人不得已而用之。
戰城南
去年 桑乾に源に 戰ひ,
今年 葱河の道に 戰ふ。
兵を 條支 海上の波に 洗ひ,
馬を 天山 雪中の草に 放つ。
萬里 長征して 戰ひ,
三軍 盡(ことごと)く 衰老す。
匈奴 殺戮を 以て 耕作と 爲し,
古來 唯だ見る 白骨 黄沙に 田(う)うるを。
秦家 城を 築きて 胡に 備へて 處し,
漢家 還(な)ほ 烽火 然(も)ゆる 有り。
烽火 然(も)えて 息(や)まずして,
征戰 已(や)む時 無し。
野戰に 格鬪して 死し,
敗馬 號鳴して 天に 向かひて 悲し。
烏鳶 人の腸(はらわた)を 啄(ついば)み,
銜(くは)へ 飛び上りて 枯樹の枝に 挂(か)く。
士卒 草莽に 塗(まみ)れ,
將軍 空しく 爾(しか) 爲す。
乃(すなは)ち 知る 兵 者(は) 是(こ)れ 凶器にして,
聖人は 已(や)むを 得ずして 之(こ)れを 用ふ。
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◎ 私感註釈
※戰城南:樂府題。征戦を詠う。
※去年戰桑乾源:先年は、北方の桑乾河で戦い。 ・去年戰:去年は、…で戦う。『舊唐書・卷九・玄宗下』を見れば、玄宗開元末期から天寶初期(安禄山の乱直前)にかけては、突厥や吐蕃との交渉が実に多く、特定しがたい。毎年とも謂える。『中国軍事史略』中(軍事科学出版社)によれば、突厥とは武徳七年(624年)〜永淳元年(682年)、吐蕃とは咸亨元年(670年)〜大中五年(851年)の長きに亘っている。 ・桑乾:桑乾河附近の戦闘のこと。桑乾河北方に要衝・雲中(現・大同)がある。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)46−47ページ「河東道」にある。桑乾河は、山西省北部から東に流れ、河北省北部を通り、北京を貫流する。永定河の別称。北京より上流を桑乾河と呼び、北京より下流を永定河と呼ぶ。長安の人にとっては遙かなところになる。唐・賈島に『渡桑乾』「客舍并州已十霜,歸心日夜憶咸陽。無端更渡桑乾水,卻望并州是故ク。」 や、李益『幽州』「征戍在桑乾,年年薊水寒。殷勤驛西路,此去向長安。」がある。 ・源:みなもと。
※今年戰葱河道:今年は西域の葱嶺の川で戦っている。 ・今年戰:今年は…で戦っている。ここでは最近の戦闘をいう。 ・葱河:葱嶺を流れる二つの川で、葱嶺北河は、カシュガル川。パミール高原(葱嶺)の北端のカシュガルを流れる川。天山の西端になる。葱嶺南河は、叶爾羌河、タリム川。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)63−64ページ「唐 隴右道西部」にある。三国が集まる要衝。
※洗兵條支海上波:武器(の血)をペルシア湾の波で洗い。 ・洗兵:武器(の血)を洗う。 ・條支:イラク。條枝國。 ・海上波:ペルシア湾の波。
※放馬天山雪中草:馬を天山の雪の合間にある草地で放牧する。 ・放馬:馬を放牧する。 ・天山:〔てんざん;tian1shan1○○〕新疆にある祁連山〔きれんざん;Qi2lian2shan1○○○〕(チーリェンシャン)。天山一帯。当時の中国人の世界観では、最西端になる。天山山脈のこと。新疆ウイグル(維吾爾)自治区中央部タリム盆地の北を東西に走る大山系で、パミール高原(葱嶺)の北部に至る。雪山。ここでは「異民族との戦闘の前線」の意として、使われている。唐・岑参の『胡笳歌送顏真卿使赴河隴』「君不聞胡笳聲最悲,紫髯濠瘡モ人吹。吹之一曲猶未了,愁殺樓蘭征戍兒。涼秋八月蕭關道,北風吹斷天山艸。崑崙山南月欲斜,胡人向月吹胡笳。胡笳怨兮將送君,秦山遙望隴山雲。邊城夜夜多愁夢,向月胡笳誰喜聞。」、また、李白の『塞下曲』「五月天山雪,無花祗有寒。笛中聞折柳,春色未曾看。曉戰隨金鼓,宵眠抱玉鞍。願將腰下劍,直爲斬樓蘭。」や、南宋・陸游の『訴衷情』「當年萬里覓封侯,匹馬戍梁州。關河夢斷何處? 塵暗舊貂裘。胡未滅,鬢先秋,涙空流。此生誰料,心在天山,身在蒼洲!」とある。 ・雪中草:雪の合間にある草(地)。
※萬里長征戰:遙かな遠征の戦い(では)。 ・萬里:長大な距離をいう。 ・長征戰:遠征の戦(いくさ)。
※三軍盡衰老:全軍、ことごとく年を取って衰えた。 ・三軍:全軍。 ・盡:ことごとく。 ・衰老:衰え年取る。老いて衰弱する。
※匈奴以殺戮爲耕作:匈奴は殺戮することを(恰も)耕作に従事するかのようにしている。 ・匈奴:北方の遊牧民族。紀元前三世紀から紀元後五世紀の間、安徽省方面から中原の漢民族を屡々おびやかした。 ・以…爲:…を…とする。 ・殺戮:(刑罰として)殺すこと。 ・戮:罪人を殺す。 ・耕作:田畑を耕して、農作物を作ることで、ここでは日常の労働の意で使われている。
※古來唯見白骨黄沙田:古来より、ただ白骨だけが黄砂に植わっているさまを見受けるだけである。 ・古來:昔から。 ・唯見:ただ…だけが見られる。 ・白骨:(征戦の勇士や人民の)白骨(が)。 ・黄沙:黄土。黄土の荒原。ここの用語法では、「黄沙の地に、黄土の所で」になる。 ・田:たがやす。植え付ける。田作りする。動詞として使っている。ここでは、そのさまになる。「黄沙の田」と読めば、語調はよい。
※秦家築城備胡處:秦王朝は、万里の長城を築いいて異民族の(侵入に)備えて、対処して。 ・秦家:秦王朝。ここでは、「過去の時代」の意として使われている。 ・築城:万里の長城を築く。 *北狄の騎馬による侵入を防ぐための堤防とも謂える城壁。 ・備:そなえる。準備する。 ・胡:えびす。異民族。 ・處:ここは聯として見た場合、おそらく動詞になり、「処す、対処する」、になる。「胡に備ふる處」も、なめらかですばらしい。
※漢家還有烽火然:漢代(現代)でも、まだ狼煙火が燃えて、辺塞での有事に関する狼煙火の逓伝がある。 ・漢家:漢王朝。ここでは、「現代」のことになる。 ・還有:まだ…がある。また…がある。 ・烽火:のろし。 ・然:燃やす。燃える。=燃。
※烽火然不息:狼煙火が燃えて熄(や)むことがない。 ・不息:止まない。
※征戰無已時:征伐の戦争はやむ時がない。 ・征戰:征伐、征服のための戦争。自国内で戦うことではなく、他国、他地域に出かけて行って戦うこと。敵を攻め戦うことで、相手側からいえば、侵略戦争。 ・已時:やむ時。
※野戰格鬪死:原野での戦闘で組み討ちをして死んでいき。 ・野戰:山野での戦闘。原野を遠征しての征討。 ・格鬪:組み討ち合って争うこと。
※敗馬號鳴向天悲: ・敗馬:敗走する軍馬。 ・號鳴:大きな鳴き声で鳴く。大きく嘶く。 ・向天悲:天に向かって悲しげである。
※烏鳶啄人腸:カラスやトンビが人のはらわたをついばんで。 ・烏鳶:〔うえん;wu1yuan1〕カラスやトビ。野生の鳥。 ・啄:〔たく;zhuo2●〕ついばむ。 ・人腸:人のはらわた。
※銜飛上挂枯樹枝:(くちばしで)くわえて飛び上がり、枯れ木の枝に掛けている。 ・銜飛上挂:(くちばしで)くわえて、飛び上がる。 ・銜:〔かん;xian2○〕ふくむ。口にくわえる。 ・挂:〔くゎい;gua4●(両韻)〕かける。 ・枯樹枝:枯れ木の枝。 ・枯樹〔こじゅ;ku1shu4○●〕
※士卒塗草莽:兵士は草むらに斃れ。 ・士卒:士官と兵卒。兵士。 ・塗:まみれる。けがれる。『史記・高祖本紀第八』「天下方擾,諸侯並起,今置將不善,壹敗塗地。吾非敢自愛,恐能薄,不能完父兄子弟。」の「塗」に同じ。「たおれる」。 ・草莽:〔さうまう;cao3mang3●●〕草むら。草原。草のおい茂っているところ。
※將軍空爾爲:(一軍を率いる)将軍はむなしくそのようにした。 ・空:むなしく。 ・爾爲:そのようにする。しかなす。
※乃知兵者是凶器:そのあげく、分かったのは軍事ということは、まがごとであるということだった。 *『韓非子』「『兵者,凶器也,』不可不審用也。」外に『国語』、後出『老子』にある。 ・乃:やむなく。そのあげく。すなわち。 ・兵:武力。武器。 ・者:…は。主語の後に附き、主語を明示する。 ・是:…である。主語と述語の間に入って、述部を明確にする働きがある。 ・凶器:いまわしいもの。兇器。
※聖人不得已而用之:聖天子は、やむを得ずしてこれを用いている。『老子』「夫佳兵者不祥之器,物或惡之,故有道者不處。……兵者不祥之器,非君子之器,不得已而用之,恬淡爲上。」 ・聖人:天子のこと。(唐以降)天子をうやまっていう。尭、舜、禹。湯、文王、武王、周公。孔子などの徳望や知識がすぐれ、世の模範と仰がれるような人をいう。 ・不得已:やむを得ない。 ・而:…て。 ・用:もちいる。 ・之:これ。兵のこと。
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◎ 構成について
韻式は「aaaBBCCCCC」。韻脚は「道草老 田然 時悲枝爲之」で、平水韻上声十九皓(「道」は古韻では上声、現代語韻では去声)、下平一先、上平四支。次の平仄はこの作品のもの。
●○●○○○,
○○●○○●。(韻)
●○○○●●○,
●●○○●○●。(韻)
●●○○●,
○○●○●。(韻)
○○●●●○○●,
●○○●●●○○○。(韻)
○○●○●○●,
●○○●○●○。(韻)
○●○●●,
○●○●○。(韻)
●●●●●,
●●●○●○○。(韻)
○○●○○,
○○●●○●○。(韻)
●●○●●,
○○○●○。(韻)
●○○●●○●,
●○●●●○●○。(韻)
2004. 9. 5 9. 8 9.10 9.11完 2007.10. 7補 |
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