爛漫朝眠後,
頻伸晩起時。
煖爐生火早,
寒鏡裹頭遲。
融雪煎香茗,
調酥煮乳糜。
慵饞還自哂,
快活亦誰知。
酒性温無毒,
琴聲淡不悲。
榮公三樂外,
仍弄小男兒。
******
晩起
爛漫たる 朝眠の後,
頻(しきり)に伸ぶ 晩起の時。
煖爐 火を生ずること 早く,
寒鏡 頭を裹(つつ)むこと 遲し。
雪を 融(と)かして 香茗(かうめい)を 煎じ,
酥(そ)を調して 乳糜(にゅうび)を 煮る。
慵饞(ようざん) 還(なほ)も 自ら哂(わら)ふ,
快活 亦(ま)た 誰(たれ)か知らん。
酒性 温にして 毒 無く,
琴聲 淡にして 悲しからず。
榮公(えいこう)三樂の外(ほか),
仍(な)ほ 小男兒を 弄す。
◎ 私感註釈 *****************
※白居易:中唐の詩人。772年(大暦七年)〜846年(會昌六年)。字は楽天。号は香山居士。官は武宗の時、刑部尚書に至る。平易通俗の詩風といわれるが、詩歌史上、積極的な活動を展開する。晩年仏教に帰依する。
※晩起:朝寝をする。朝寝坊をする。この作品は、朝寝の醍醐味を詠う。 ・晩:〔ばん;wan3●〕は、時間的に後の方にずれている、タイミングとしておそいの意。
※爛漫朝眠後:ぐっすりとよく眠って寝坊をした後に。 ・爛漫:〔らんまん;lan4man4●●〕よく眠るさま。また、溢れ散らばり消える。色鮮やかである。すなおである。ここは、前者の意。 ・朝眠:朝寝。朝寝坊。
※頻伸晩起時:しきりに伸びをして、ゆっくりとおそおきする。 ・頻:〔ひん;pin2○〕しきりに。しばしば。 ・伸:〔しん;shen1○〕伸びをする。伸ばす。晴れ晴れとする。 ・晩起:ゆっくりと起きた(時)おそおき。「晩」は時間がおくれる、時間がおそくなる、の意。
※煖爐生火早:煖炉に火をおこすことは、起きあがって早々にするが。 ・煖爐:煖炉。 ・生火:火をおこす。 ・早:はやい。時間的にはやい。
※寒鏡裹頭遲:ひんやりとした貧相な姿を映し出す鏡(に向かって)頭髪を(冠で)包んでセットすることには、ぐずぐずとしている。 ・寒鏡:ひんやりとする鏡。粗末な鏡。また、貧相な姿を映し出す鏡。鏡に映っている自分の姿が貧相であるイメージをもいっていよう。 ・裹頭:冠をかぶる。 ・裹:〔くゎ;guo3●〕つつむ。すっぽり包む。 ・遲:ぐずぐずしている。のろのろしている。蛇足になるが、前出「晩」も「遲」も「おそい」と読むが、「晩」〔ばん;wan3●〕は「時間的に後の方になっている、タイミングとしておそい」意で、対義語は「早」。 「遲」〔ち;chi2○〕は「スピードがのろのろしている、動作が緩慢である、ぐずぐずしている」の意で、対義語は「速」。
※融雪煎香茗:雪を溶かして、上等のお茶を点(た)て。 ・融:〔ゆう;rong2○〕とかす。 ・融雪:当時の風習は分からないが、中国の水は硬度が高いので、必ず煮沸させて後、飲用とするが、雨や雪は硬度が低いことであろうし、飲用に最適とも謂える。 ・煎:〔せん;;jian1○〕お茶を(火にゆっくりとかけて)煎じる。煮る。煮詰める。煎じる。 ・香茗:上等茶。 ・茗:〔めい;ming2(ming3)●〕茶。おそく取った茶葉。茶の木の柔らかい芽。安物の茶。
※調酥煮乳糜:クリームをほどよく混ぜ合わせて、グラタンを煮る。 ・調:〔てう;tiao2○〕ほどよく混ぜ合わせる。ほどよく整える。 ・酥:〔そ;su1○〕牛や羊の乳で作った飲料。クリームを煮詰めて作った脂肪。 ・煮:〔しゃ;zhu3●〕時間をかけてにる。 ・乳糜:〔にゅうび;ru3mi2●○〕乳で作ったかゆ。乳酪。中華風グラタンのようなものになるのか? ・糜:〔び;mi2○〕かゆ。
※慵饞還自哂:めんどうくさがり屋で口が卑しい(姿は)、なおもまた、自分で笑えてくる。 ・慵饞:〔ようざん;yong1chan2○○○〕めんどうくさがり屋で口が卑しい。 ・慵:〔よう;yong1○〕ものうい。めんどうくさい。おっくう。 ・饞:〔ざん(さん);chan2○〕食をむさぼる。口が卑しい。 ・還:なおもまた。かえって。また。 ・自:みずから。 ・哂:〔しん;shen3●〕わらう。あざわらう。謗(そし)り笑う。
※快活亦誰知:この快楽は、一体だれが分かっていようか。(だれも分かるまい)。 ・快活:楽しみ。たのしい。愉快。楽しく過ごす。なお、国語(日本語)での意である「性質がさっぱりとしていて、物事にこだわらなで、明るく元気のよいさま」の意はない。 ・亦:また。…もまた。やはり。なんと。 ・誰知:だれが分かろうか。だれも分かりはしない。
※酒性温無毒:酒の(アルコール度数の)強さは穏やかなもので、無害であり。 ・酒性:酒の強さ。 ・温:〔をん;wen1○〕穏やかである。まろやかである。あたたまる。あたためる。ここの「温」の意は「穏やか(形容詞)」の意か、「あたたまる(-める)(動詞)」の意か、どちらの意になるかといえば、「酒性温無毒,琴聲淡不悲。」の聯で考える。ここは対仗で、「酒性⇔琴聲」「温⇔淡」「無毒⇔不悲」となる。つまり、「温」と「淡」とが対になり、「淡」(あわい、淡泊である)といった形容詞に対して、「温」も同様の形容詞「穏やかである、まろやかである」の意が詩としては妥当となる。もっとも、日本酒の飲酒の風習は燗酒で、現代(中国)語でも燗酒は“温酒”というが…。 ・無毒:害がない。
※琴聲淡不悲:琴の音(ね)は、あっさりとしていて、悲しくさせるようなものではない。 ・琴聲:琴の音(ね)。音楽を謂う。 ・淡:〔たん;dan4●〕あっさりとしている。あわい。薄味である。 ・不悲:感情を過激に揺すぶることはない。穏やかである。悲しくさせるようなものではない。
※榮公三樂外:「榮啓期の三樂」である「人と生まれ」、「男と生まれ」、「長寿」であること以外に。 ・榮公三樂:「榮啓期の三樂」の意。 1.「人と生まれ」、2.「男と生まれ」、3.「寿を得た」こと。 ・榮公:栄啓期のこと。春秋の人。縄を帯にして、楽器を打ち鳴らして歌を唱っている人物で、九十歳まで生きた人の名。「榮啓期三樂」とされる1.「人」と生まれ、2.「男」と生まれ、3.「寿」を得たことをその楽とした。『飮酒』其十一「顏生稱爲仁,榮公言有道。屡空不獲年,長飢至於老。雖留身後名,一生亦枯槁。死去何所知,稱心固爲好。客養千金躯,臨化消其寶。裸葬何必惡,人當解意表。」。『列子』天瑞篇に「孔子遊於太山,見榮啓期行乎之野(現・山東省寧陽県)。鹿裘帶索,鼓琴而歌,孔子問曰:『先生所以樂,何也?』對曰:『吾樂甚多。天生萬物,唯人爲貴,而吾得爲人,是一樂也。男女之別,男尊女卑,故以男爲貴。吾既得爲男矣,是二樂也。人生有不見日月,不免襁褓者,吾既已行年九十矣,是三樂也。貧者,士之常也。死者,人之終也。處常得終,當何憂哉?』孔子曰:『善乎!能自ェ者也。』」同様に『孔子家語』にも描かれている。 ・外:そのほか。それ以外に。
※仍弄小男兒:男の子をものした(という「楽」を得た)。 ・仍:〔じょう;reng2○〕なお。なおその上に。その上に。重ね重ね。 ・弄:〔ろう;nong4●〕する。なす。ものす。もてあそぶ。いじる。扱う。 ・小男兒:男の子。
◎ 構成について
韻式は「AAAAAA」。韻脚は「時遲糜知悲兒」で、平水韻上平四支。次の平仄はこの作品のもの。
●●○○●,
○○●●○。(韻)
●○○●●,
○●●○○。(韻)
○●◎○○,
○○●●○。(韻)
○○○●●,
●●●○○。(韻)
●●○○●,
○○●●○。(韻)
○○○●●,
○●●○○。(韻)
2006.3.31 4. 1 4. 2 4. 3 4. 4 4. 7完 5. 9補 |
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