顏生稱爲仁,
榮公言有道。
屡空不獲年,
長飢至於老。
雖留身後名,
一生亦枯槁。
死去何所知,
稱心固爲好。
客養千金躯,
臨化消其寶。
裸葬何必惡,
人當解意表。
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飮酒 其十一
顏生は 仁を爲すと 稱され,
榮公は 有道と 言はる。
屡ば空にして 年を 獲ず,
長(つね)に 飢ゑて 老いに 至る。
身後の名を 留むると 雖も,
一生 亦た 枯槁す。
死去せば 何の知る所ぞ,
心に稱(かな)ふを 固(もと)より 好しと爲す。
千金の躯を 客養すとも,
化に 臨みては 其の寶を消さん。
裸葬 何ぞ必しも 惡(にく)からん,
人 當(まさ)に 意表を解すべし。
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◎ 私感註釈
※陶潛:陶淵明。東晉の詩人。。。この作品は『古詩十九首之十一』の「廻車駕言邁,悠悠渉長道。四顧何茫茫,東風搖百草。所遇無故物,焉得不速老。盛衰各有時,立身苦不早。人生非金石,豈能長壽考。奄忽隨物化,榮名以爲寶。」の影響が大きい。
※顏生稱爲仁:顔回は、「仁」をなすと云われるが。 ・顏生:顏先生、顏さん、顏氏。顔回のこと。 ・生:尊称。 ・稱:称されている。謂われている。 ・爲仁:「仁」をなす、「仁」があると云われる。『論語』雍也篇「子曰:『賢哉!回也。一箪食,一瓢飮,在陋巷。人不堪其憂,回也不改其樂。賢哉!回也。』」や「哀公問:『弟子孰爲好學?』孔子對曰:『有顏回者好學,不遷怒,不貳過。不幸短命死矣!今也則亡,未聞好學者也。』」とその人格の高さを孔子に屡々褒められている。
※榮公言有道:榮啓期は、道徳を身に備えていると言われているが。 ・榮公:栄啓期のこと。春秋の人。縄を帯にして、楽器を打ち鳴らして歌を唱っている人物で、九十歳まで生きた人の名。「榮啓期三樂」とされる「人」と生まれ、「男」と生まれ、「寿」を得たことをその楽とした。『列子』天瑞篇に「孔子遊於太山,見榮啓期行乎之野(現・山東省寧陽県)。鹿裘帶索,鼓琴而歌,孔子問曰:『先生所以樂,何也?』 對曰:『吾樂甚多。天生萬物,唯人爲貴,而吾得爲人,是一樂也。男女之別,男尊女卑,故以男爲貴。吾既得爲男矣,是二樂也。人生有不見日月,不免襁褓者,吾既已行年九十矣,是三樂也。貧者,士之常也。死者,人之終也。處常得終,當何憂哉?』孔子曰:『善乎!能自ェ者也。』」同様に『孔子家語』にも描かれている。 ・公:尊称。 ・言:言われている。 ・有道:道徳を身に備えている。『論語』學而篇に「子曰:『君子食無求飽,居無求安,敏於事而慎於言,就有道而正焉,可謂好學也已。』」ということ。
※屡空不獲年:(「爲仁」と称えられた顏回は、)しばしば食べる物に不足して、長生きできなかった。 ・屡空:貧しくてたびたび家財が欠乏すること。しばしば空し。『論語』先進篇「子曰:『回也其庶乎!屡空。賜不受命,而貨殖焉,億則屡中。』」のことに基づく。 ・不獲年:長生きできなかった。前出「不幸短命死矣」のことを云う。
※長飢至於老:(「有道」と言われた榮啓期は、)いつも飢えていたままで、年老いていった。 ・長飢:いつも飢えている。常に飢えている。長≒常。 ・至於老:老いに至るまで。ここは「至於・老」とみるのよりも、「至・於老」とみるべきところ。
※雖留身後名:没後の名声は、残してはいるものの。 ・雖留:留めてはいるものの。 ・身後名:没後の名声。前出『古詩十九首之十一』の「人生非金石,豈能長壽考。奄忽隨物化,榮名以爲寶。」のことになる。また、『雜詩十二首』其六に「昔聞長者言,掩耳毎不喜。奈何五十年,忽已親此事。求我盛年歡,一毫無復意。去去轉欲速,此生豈再値。傾家時作樂,竟此歳月駛。有子不留金,何用身後置。」 とある。
※一生亦枯槁:その一生は枯渇していた。 ・亦:〔雖+用言……,亦…。〕として、譲歩の意味を表し、主従複句を作り、従句の頭に附く。「雖留身後名,一生亦枯槁。」「……ではあるが、やはり、……だ。」 ・枯槁:落ちぶれる。やつれる。痩せ衰える。生気のないこと。
※死去何所知:死んでしまえば、何も分からない。死んでしまえば、何が分かるのか。 ・死去:死んでしまう。 ・何所知:「何」は、用言の前について、疑問、反問を表す。「何所+動詞」…するところは、何なるか。 ・所知:知るところ(の)。 ・所…:後に続く動詞を名詞化する。…ところ。
※稱心固爲好:心にかなっていれば、もとより好いことである。 ・稱心:心にかなう。満足する。気に入る。 ・固:もとより。もともと。以前から。 ・爲好:よいこととする。「爲」「好」は共に両韻だが、ここでは、「爲」:平声で、「好」:上声となる。
※客養千金躯:かけがえのない身体を大切にしてきた(が)。頑健な肉体にと培ってきた(が)。肉体に客をもてなすように仕えてきた(が)。 ・客養:客をもてなす。(あまり用例がない。)前後の関係や漢字の意味を基にすると、諸侯が賓客を大切にして、もてなすように、我が身を大切に培ってきた、ことになろう。 ・千金躯:貴重なからだ。大切な肉体。素晴らしい肉体。頑健な身体。もしも『古詩十九首之十一』の「人生非金石,豈能長壽考。」に基づくものとすれば、「頑健な身体」の意になる。
※臨化消其寶:死に臨んでは、そのすばらしい宝のような(肉体をも)消し去ることになる。前出『古詩十九首之十一』の「奄忽隨物化,榮名以爲寶。」に 基づくが、その意を逆に否定して使っている。『古詩十九首之十一』では「寶」の意を抽象的な貴重なものの意で使っている。 ・臨:面する。のぞむ。際して。 ・化:死。前出『古詩十九首之十一』の「奄忽隨物化」の赤字部分に同じ。 ・消其寶:そのすばらしさを消す(ことになる)。前出の「榮名以爲寶」の青字部分に同じ。
※裸葬何必惡:裸葬も、必ずしもにくみきらっていやがるものでもない。 ・裸葬:裸で埋葬すること。分相応な厚葬をしないこと。『漢書』卷六十七「楊胡朱梅云傳」に、「楊王孫者,孝武時人也。學黄老之術,家業千金,厚自奉養生,亡所不致。及病且終,先令其子,曰:『吾欲葬,以反吾眞,必亡易吾意。死則爲布盛尸,入地七尺,既下,從足引脱其,以身親土。』其子欲默而不從,重廢父命,欲從(其)〔之〕,心又不忍,乃往見王孫友人祁侯。…」と奇矯な命令を出して、みんなを困らせた。結局「千載之後,棺槨朽腐,乃得歸土,就其眞宅。(由)是言之,焉用久客!……故聖王生易尚,死易葬也。不加功於亡用,不損財於亡謂。今費財厚葬,留歸隔至,死者不知,生者不得,是謂重惑。於戲!吾不爲也。』。祁侯曰:『善。』遂葬。」として、裸葬された。 ・何必:かならずしも…する必要がない。なんぞかならずしも…せん。 ・惡:〔を;wu4〕にくむ。きらう。いやがる。動詞。
※人當解意表:人々は、当然ながら思いの外のことを理解するべきである。 ・人:ひと。人々。 ・當:当然……すべきである。まさに…すべし。 ・解:理解する。解る。 ・意表:思いの外。意外。
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◎ 構成について
仄韻の一韻到底。韻式は「aaaaaa」。韻脚は「道老槁好寶表」。平水韻で見れば、上声十九皓(寶老好道槁)等。この作品の平仄は次の通り。
○○○○○,
○○○●●(韻)
●○●●○,
○○●○●。(韻)
○○○●○,
●○●○●。(韻)
●●○●○,
●○●○●。(韻)
●●○○○,
○●○○●。(韻)
○●○●●,
○○●●●。(韻)
2003.9.15 9.16 9.17 9.18完 2004.4.15補 2005.1.31 2007.4.29 2017.1. 6 |
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