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      得樂天書
              
                  元稹 
遠信入門先有涙,
妻驚女哭問何如。
尋常不省曾如此,
應是江州司馬書。


******

 樂天の書を 得(う)   
遠信 門に入りて  先づ 涙 有り,
妻 驚き 女
(むすめ) 哭して  何如(いかん)と 問ふ。
尋常 省
(かへり)みざれば  曾(すなは)ち 此(か)くの如し,
(まさ)に是(こ)れ 江州 司馬の書なるべし。

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◎ 私感註釈

※元稹:中唐の詩人。進士に及第して官僚となる。白居易と親交があり元白と称され、その詩風は二人合わせて「元軽白俗」とも評される。字は微之。河南・洛陽の人。779年〜831年。二人の交流を示すものに、元稹は『聞白樂天左降江州司馬』「殘燈無焔影幢幢,此夕聞君謫九江。垂死病中驚坐起,暗風吹雨入寒窗。」 や、白居易の『舟中讀元九詩』「把君詩卷燈前讀,詩盡燈殘天未明。眼痛滅燈猶闇坐,逆風吹浪打船聲。」がある。

※得樂天書:白居易の手紙を受け取る。この作品は、元稹、白居易の二人がともに、都から左遷されて、地方に下っていたときの作。 ・得:手に入れる。 ・樂天:白居易のこと。樂天は白居易の字。 ・書:手紙。書き付けたたより。

※遠信入門先有涙:遠くから手紙が戸口に入ってきた途端、(手紙を開けることや手紙文を読む感激よりも)先(まず)涙が出てきた。 ・遠信:遠くからのたより。 ・信:便り。手紙。 ・入門:戸口に入ってくる。 ・先:さきに。前もって。 ・有涙:涙が出る。

※妻驚女哭問何如:妻は驚いて、むすめは泣き出して「どうしたの」と問いかけてくる。 ・妻:元稹の妻のこと。 ・女:むすめ。 ・哭:声をあげて泣く。 ・問:問いかける。 ・何如:どのようか。どのようであるか。いかん。また、「なんぞ…しかんや」≒不如。ここは、前者の意。

※尋常不省曾如此:普段、見舞い(の手紙)を出さないので、このように(手紙を頂く事態となった)。 ・尋常:普段。常々。平生。また、普通。世の常。通常。 ・省:安否を問う。見舞う。訪問する。「帰省」の「省」。 ・曾:〔そう(ぞう);zeng1○〕かえって。反対に。なんとまあ。反対の結果、意外な気持ちを表す。すなはち。ます。また、〔そう;ceng2○〕かつて。これまで。ここは、前者の意。 ・如此:このような(次第である)。

※應是江州司馬書:(これは)きっと江州の司馬である白居易からの手紙に違いあるまい。 ・應是:(それは)きっと…だろう。(それは)きっと…に違いない。 ・應:きっと…だろう。まさに…べし。「應是」と「應」との用法上の違いは、「應是」は「…是」の句として名詞句の前に附く。「應」は副詞で後に動詞に続く。〔應是+名詞〕であり、〔應+動詞〕となる。 ・江州司馬:江州の司馬である白居易のこと。白居易の『琵琶行』の序には「元和十年,予左遷
九江郡司馬。明年秋,送客浦口,聞舟船中夜彈琵琶者。聽其音,錚錚然有京都聲。問其人,本長安倡女,嘗學琵琶於穆・曹二善才,年長色衰 ,委身爲賈人婦。遂命酒,使快彈數曲。」 とある。 ・司馬:官職名。





◎ 構成について

 韻式は「AA」。韻脚は「如書」で、平水韻上平六魚。平仄はこの作品のもの。
●●●○○●●,
○○●●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●○○○●○。(韻)
2006.6.9

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