落日五湖遊,
烟波處處愁。
浮沈千古事,
誰與問東流。
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秋日湖上
落日 五湖の遊,
烟波 處處 愁ふ。
浮沈 千古の事,
誰(たれ)と與(とも)にか 東流を 問はん。
◎ 私感註釈 *****************
※薛瑩:中唐の詩人。文宗時代の人。
※秋日湖上:秋の日に太湖で遊んだときの作。乗った舟の浮き沈みから人の世の浮沈に思いを致し、東流する水に、過ぎ行く時を感じた詩。 ・湖上:湖畔。湖のほとり。また、湖水の上。
※落日五湖遊:夕陽が射す頃に、太湖で気ままに過ごした(が)。 ・落日:沈もうとする太陽。落暉。夕陽。夕日。ここでは、夕刻に、の意になる。 ・五湖:太湖のこと。また、太湖附近の五つの湖。ここは、前者の意。 ・遊:野山などに気ままに出かける。
※烟波處處愁:靄(もや)のたちこめた水面は、方々、もの悲しげである。 ・烟波:靄のたちこめた水面。また、遠く広い水面が煙ったように波立っているさま。=煙波。 ・處處:あちこち。方々。ところどころ。 ・愁:ものさびしい。かなしげである。思いに沈む。うれえる。蛇足になるが、「うれふ」では「愁」の外に「憂」があり、ともに尤韻である。その差異は、「愁」:もの寂しいこと。心のうかぬこと。案じる。「憂」:心配する。心を痛めものを気遣うこと。
※浮沈千古事:栄枯盛衰の歴史が昔からおこった(が)。 *後世、両宋・辛棄疾の『南ク子・登京口北固亭有懷』に「何處望~州?滿眼風光北固樓。千古興亡多少事?悠悠。不盡長江滾滾流。」と使われている。また、日本でも廣瀬旭莊が『阿部野』で「興亡千古泣英雄,虎鬪龍爭夢已空。欲問南朝忠義墓,蕎花秋仆野田風。」と使う。 ・浮沈:浮き沈み。転じて、栄えたり衰えたりすること。栄枯盛衰。 ・千古:遠い昔から現在に到るまでの長い間。歴史的長時間。また、太古。極めて遠い昔。また、千年の後。永久。 ・事:出来事。
※誰與問東流:(過ぎ去った時の出来事を)いったい誰とともに、東に流れ去る水の流れに尋ねれば(よい)のだろうか。 ・誰與:誰と。誰とともに。誰と一緒になって。誰に(向かって)。=與誰。「誰與」は「○●」(「●●」とすべきところ)で使われる形。「與誰」は「●○」(「○○」とすべきところ)で使われる。 ・問:たずねる。とう。問いかける。 ・東流:川の流れ。中国の川は東流する。ここでは、太湖の湖水のことになるが、流れる水の流れは、歴史的な時間の経過を表す言葉で、一度去って再び帰らないものの譬えとしても使われる。『論語・子罕』「子在川上曰:逝者如斯夫!不舎晝夜。」。南唐後主・李Uの『虞美人』に「春花秋月何時了,往事知多少。小樓昨夜又東風,故國不堪回首 月明中。 雕欄玉砌應猶在,只是朱顏改,問君能有幾多愁。恰似一江春水 向東流。」 とある。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「遊愁流」で、平水韻下平十一尤。平仄はこの作品のもの。
●●●○○,(韻)
○○●●○。(韻)
○○○●●,
○●●○○。(韻)
2006.10.30 |
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