欲成斯志豈思躬, 埋骨靑山碧海中。 醉撫寶刀還冷笑, 決然躍馬向關東。 |
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客舍の壁に題す
斯(こ)の志を 成さんと欲す 豈(あに) 躬(み)を 思はんや,
骨を埋(うづ)む 靑山 碧海の中。
醉(ゑ)ひて 寶刀を撫して 還(ま)た 冷笑し,
決然 馬を 踊らせて 関東に 向かふ。
◎ 私感註釈 *****************
※雲井龍雄:弘化元年(1844年)~明治三年(1870年)。米沢藩士。本名は小島守善。通称は龍三郎。雲井龍雄は変名。薩摩藩の専横を不満として、新政府の転覆を計劃するが、逮捕されて処刑された。
※題客舍壁:宿舎の壁に詩を題する。宿舎の壁に詩を書き附ける。宿舎で詩を作る。 ・題壁:壁に詩を書き附ける。この十余年前、釋月性『將東遊題壁』に「男兒立志出郷關,學若無成不復還。埋骨何期墳墓地,人間到處有靑山。」とある。 ・客舍:旅館。旅社。
※欲成斯志豈思躬:(薩長は、幕府が恭順の意を表しているのに、なおも攻撃を仕掛けようとしてくるが、薩長の専横を斥けたいという)この志を成し遂げたいとは思うが、我が身のことはどうして思おうか。 ・欲成:成し遂げようと思う。 ・斯志:この(神聖な)志(こころざし)。薩摩の専横を斥ける意志。 ・豈:どうして…しようか。反語。あに。 ・躬:身。ここでは、我が身のことになる。
※埋骨靑山碧海中:(わたしの)骨を埋める場所は、青い山か碧い海の中であろう。(畳の上では死なない。刀槍場裡に身を抛とう。) ・埋骨:死に場所。死んで骨を埋めるところ。死んで骨を埋める。 ・靑山:墓所とすべき山。また、青い山。 ・碧海:青緑色の海。
※醉撫寶刀還冷笑:(酒に)酔いながら伝家の宝刀を撫でながら、なおもまた、(薩長の露骨な陰謀を)さげすみ笑い。 ・醉撫:酒に酔いながら(刀を)なでる。 ・寶刀:宝物として大切にしている刀。 ・還:また。なおもまた。 ・冷笑:さげすみ笑う。せせらわらう。ここでは、薩摩藩の行動に対する作者の心情の表現になる。
※決然躍馬向關東:心に強く決心して、(東北の米沢から)馬を疾走させて、関東の江戸(その時はもう東京となっていたが)方面へ向かおう。 ・決然:心に強く決心したさま。思いきったさま。 ・躍馬:〔やくば;yue4ma3●●〕馬を疾走させる。 ・關東:東京(江戸)方面。
◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「躬中東」で、平水韻上平一東。次の平仄はこの作品のもの。
●○○●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
●●●○○●●,
●○●●●○○。(韻)
平成19.2.10 |
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