去歳歡遊何處去,
曲江西岸杏園東。
花下忘歸因美景,
樽前勸酒是春風。
各從微宦風塵裏,
共度流年離別中。
今日相逢愁又喜,
八人分散兩人同。
******
哥舒大が 贈られしに酬(むく)ゆ
去歳 歡遊して 何(いづれ)の處にか去る,
曲江の西岸 杏園の東。
花下に 歸るを忘るるは 美景に因り,
樽前に 酒を勸むるは 是(こ)れ 春風。
各(おのおの) 微宦に 從ふ 風塵の裏(うち),
共に 流年を 度(わた)る 離別の中(うち)。
今日 相ひ逢ひ 愁へて 又(また) 喜ぶ,
八人 分散し 兩人 同じ。
◎ 私感註釈 *****************
※白居易:中唐の詩人。772年(大暦七年)〜846年(會昌六年)。字は楽天。号は香山居士。官は武宗の時、刑部尚書に至る。平易通俗の詩風といわれるが、詩歌史上、積極的な活動を展開する。晩年仏教に帰依する。
※酬哥舒大見贈:去年に進士の試験に及第し、祝宴を賜った際に哥舒大から贈られた詩に答える形で、離合集散(の喜びと哀しみ)を表現した詩。「去年與哥舒等八人同登科第,今敘會散之意」。「酬……見贈」という基本文型で「……から贈られた(詩に)答える形で作る」の意。 ・見(+動詞):…られる。…らる。受身表現。
※去歳歡遊何處去:去年(進士の試験に及第した際の)交歓会は、どこに行ったのか(というと)。 ・去歳:去年。 ・歡遊:遊興。交歓。よろこびでかける。喜び交友する。たのしみあそぶ。 ・何處:どこ(に)。 ・去:(…に)行く。
※曲江西岸杏園東:長安の東南部にある曲江(池)西岸の杏園だった。 ・曲江:長安の都の東南部にある池。 ・西岸:曲江の西岸に杏園があった。 ・杏園:曲江の池の畔にあった園。進士の試験に及第した者に、ここで祝宴を賜った。 ・東:「曲江の西岸にある杏園」のそこの東、つまり、「杏園の東寄り部分」の意とはなるが、句中の対「曲江西岸 杏園東」を考え、韻脚が平水韻上平一東韻「東風中同」であることにも因り、必ずしも東寄りと考えなくともよいのではないか。
※花下忘歸因美景:(咲き誇る)花のしたで、帰ることを忘れてしまったのは、美しい景色であったことに起因する。(我が世の春に忘我の思いになったこと)。 ・花下:(咲き誇る)花のもとに。花のしたで。 ・忘歸:帰ることを忘れる。 ・因:よる。起因する。原因である。
※樽前勸酒是春風:酒の甕(かめ)を前にして、酒を勧めたのは、春風である。(我が世の春に酔い痴れたこと)。 ・樽前:酒樽(さかだる)の前。=尊前。樽(尊)は、壺(つぼ)、甕(かめ)、胴回りの太い花瓶(かびん)に似た形をしている。日本の酒樽や西洋の酒樽などとは形やサイズが異なる。 ・是:…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。
※各從微宦風塵裏:おのおのが官吏の役職に従事して、俗世間のわずらわしい雑事の中にいるようになり。 ・各:おのおの。 ・從:(…に)従事する。(…に)したがう。 ・微宦:微官。官吏。 ・風塵:俗世間。わずらわしい世の中。世上の雑事。風や塵。風と塵。 ・裏:うち。後出「中」の用法に同じ。「裏」は●で、「中」は○のときにと、使い分ける。
※共度流年離別中:(それぞれのメンバーが)共に流れ過ぎてゆく年月を過ごした。 ・共:ともに。 ・度:過ごす。 ・流年:流れ過ぎてゆく年月。 ・離別:別離。「離別」は現代にまでも通ずる用法。「離別」は○●で、「別離」は●○であり、峻別すべきことば。
※今日相逢愁又喜:(一年ぶりの)今日の出逢いは、(別離の)かなしみがあり、同時に(会同の)喜びがある。 ・今日:ここでは「今」の意になる。前出「去年」に対してのことばで、去年を詠じていた場面から現在の場面へと転換したことを表している。 ・愁:(別離の)かなしみ、うれい。 ・又:…であり、…でもある。二つの形容詞の間にある「又」〔(形容詞)+又+(形容詞)〕 ・喜:(会同の)よろこび。
※八人分散兩人同:(それは、進士の試験に及第し、共に祝宴を賜った仲間の中、)八人は(それぞれの任地に赴任したままであり)別れ別れになっているが、(わたしたち)二人(作者(白居易)と哥舒大)は、会同した(ことだ)。 ・八人:ここでは、進士の試験に及第し、共に祝宴を賜った仲間の中、この場にいない八人のことになる。 ・分散:(八人はそれぞれの任地に赴任して)分かれ散じている。別れ別れになっている。 ・兩人:二人。ここでは、作者(白居易)と哥舒大とのことになる。 ・同:会同した。同じところに集まりあった。
◎ 構成について
韻式は「AAAA」。韻脚は「東風中同」で、平水韻上平一東。平仄はこの作品のもの。
●●○○○●●,
●○○●●○○。(韻)
○●●○○●●,
○○●●●○○。(韻)
●○○●○○●,
●●○○○●○。(韻)
○●○○○●●,
●○◎●●○○。(韻)
2007.1.6 1.7 1.8 |
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