白居易強酒詩詞世界碇豊長の詩詞：漢詩白楽天BaiJuyi

                     　       　　
      強酒　
　　　　　　　　　　　　　　
      　　　　　　　　　　　　白居易　

若不坐禪銷妄想，
即須吟醉放狂歌。
不然秋月春風夜，
爭那閒思往事何。

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酒を強（し）ひる　　

若（も）し　坐禪して　　妄想を　銷（せう）せずんば，
即（すなは）ち須（すべか）らく　吟醉して　　狂歌を　放（ほしいまま）にすべし。
然（しか）らずんば　　秋月春風の夜，
爭（いか）でか　閒に往事を思ふを　那何（いかん）せん。

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◎　私感註釈

※白居易：中唐の詩人。７７２年（大暦七年）～８４６年（會昌六年）。字は楽天。号は香山居士。官は武宗の時、刑部尚書に至る。平易通俗の詩風といわれるが、詩歌史上、積極的な活動を展開する。晩年仏教に帰依する。

※強酒：酒を強（し）いる。

※若不坐禪銷妄想：もしも座禅して（悟りの道を求めようとして）も、迷いの心を消すことができなかったら。　・若：もしも。もし。　・不：意志の否定で「…する気がない」の意。　・坐禪：仏教用語：端坐して無我の境に入り、悟りの道を求めること。　・銷：〔せう；xiao1○〕消す。とかす。　・妄想：〔まうざう；wang4xiang3●●〕仏教用語：でたらめな空想。迷いの心。

※即須吟醉放狂歌：ただちに酒に酔っぱらって詩を吟じ、狂おしく歌を（大きな声で）ほしいままに歌う必要がある。（酒に酔わない限り、「千載憂」（＝死への恐れ）は消すことが出来ない。）　・即：ただちに。すなわち。　・須：ぜひ、…する必要がある。すべからく…べし。　・吟醉：酒に酔って詩を吟じる。＝醉吟。「醉吟」としないで、「吟醉」としたのは、「醉吟」は●○で、本来○○となるべき所で使う。ここで「吟醉」としたのは○●として、●●となるべき所で使えるようにしたため。　・放：ほしいままにする。　・狂歌：狂おしく歌う。

※不然秋月春風夜：そうでなかったら、あの麗しい時季の夜。　・不然：そうでなかったら。しからずんば。（酒を飲まなかったら、あの思い出深い時季を過ごす際に）。　・秋月春風：麗しい風景の時季。過去に、楽しい思い出が残っている時期を謂う。　・夜：回想をし、懐旧の情にひたる時でもある。

※爭那閒思往事何：（秋月春風の夜に楽しく過ごした）昔の事をとりとめもなく思い出してくるのをどうすればよいのだろうか。（懐旧の情をいかんとすればよいのか。）　*この句「爭那…何」と「閒思往事」とで出来ている。「『閒思往事』をどうしたらよいのか」の意。　・爭：どうして。いかでか。南宋初・李清照の『如夢令』に「嘗記溪亭日暮，沈醉不知歸路。興盡晩回舟，誤入藕花深處。爭渡，爭渡，驚起一灘鴎鷺。」と使い、金・元好問は『岐陽』で「百二關河草不橫，十年戎馬暗秦京。岐陽西望無來信，隴水東流聞哭聲。野蔓有情戰骨，殘陽何意照空城。從誰細向蒼蒼問，爭遣蚩尤作五兵。」と使う。現代語の“怎”に通じる語。　・那：いかん。　・那…何：…をどうしよう。（…を）いかんせん。〔那＋（目的語）＋何〕。　・閒思：暇をもてあましてのつまらぬ思い。＝閑思。　・往事：昔の出来事。

◎　構成について

　韻式は「AA」。韻脚は「歌何」で、平水韻下平五歌。平仄はこの作品のもの。

●●●○○●●，
●○○●●○○。（韻）
●○○●○○●，
○●○○●●○。（韻）