咫尺愁風雨,
匡廬不可登。
祗疑雲霧窟,
猶有六朝僧。
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江行無題
咫尺 風雨を 愁ひ,
匡廬 登る可からず。
祗だ疑ふ 雲霧の窟,
猶ほ 六朝の僧 有らんかと。
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◎ 私感註釈
※錢起:中唐の詩人。字は仲文。呉興(現・浙江省)の人。722年(開元十年)〜780年(建中元年)。天宝十年(751年)の進士。大暦中に翰林学士となった。大暦十才子の一人。
※江行無題:作者が長江を下って九江の廬山附近にさしかかっての作。江行無題百首の一。錢珝の作ともする。
※咫尺愁風雨:(廬山が)非常に間近に(見えだしたが)、残念なことに風雨で。 ・咫尺:〔しせき;zhi3chi3●●〕非常に近い距離。短い。尺度の短い。20cmほど。簡単なこと。 *非常に近い距離の関係にあるのは何と何なのか。作者と廬山との間か。作者と風雨との間か。「咫尺愁風雨,匡廬不可登」という文脈からでは前者、作者と廬山との間と見るのが自然だろう。 ・咫:周尺で八寸≒約18cm。 ・尺:一尺≒約22.5cm。晩唐・韋莊の『浣溪沙』に「夜夜相思更漏殘。傷心明月凭欄干。想君思我錦衾寒。咫尺畫堂深似海,憶來唯把舊書看。幾時攜手入長安。」とある。 ・愁:悲しく思う。 ・風雨:風と雨。風や雨。風を伴って降る雨。
※匡廬不可登:廬山には登ることができない。 ・匡廬:〔きゃうろ;kuang1lu2○○〕廬山の別名。周の世に、仙人の匡俗が隠れ住んだことに因る。 ・不可:…ことができない。
※祗疑雲霧窟:(下から見上げると、あの山の)雲や霧が立ち籠めている洞窟には。 ・祗:〔し;zhi1○〕ただ。「祇」「秪」ともする。同義。 ・疑:うたがう。 ・雲霧:雲と霧。 ・窟:〔くつ;ku1●〕いわや。ほらあな。洞窟。
※猶有六朝僧:今なお六朝(りくちょう)の昔の僧侶がいるかのようである。 ・猶有:今までずっと続いてある。 ・六朝:江南に興った六つの王朝。三国以降の魏晋南北朝の(金陵に都をおいた)南朝で、文学で謂う漢魏六朝の六朝のこと。東呉、東晉、宋、齊、梁、陳の六代に亘る王朝のことで、約三百年間を指す。晩唐・韋莊の『金陵圖』「江雨霏霏江草齊,六朝如夢鳥空啼。無情最是臺城柳,依舊烟籠十里堤。」や、唐彦謙の『金陵懷古』に「碧樹涼生宿雨收,荷花荷葉滿汀洲。登高有酒渾忘醉,慨古無言獨倚樓。宮殿六朝遺古跡,衣冠千古漫荒丘。太平時節殊風景,山自水自流。」 とうたわれる。 ・僧:廬山にいた支遁、慧遠などの高僧。
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◎ 構成について
韻式は「AA」。韻脚は「登僧」で、平水韻下平十蒸。次の平仄はこの作品のもの。
●●○○●,
○○●●○。(韻)
○○○●●,
○●●○○。(韻)
2007.11.18 |
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