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                         金陵圖

                                
  唐・韋莊
  
江雨霏霏江草齊,
六朝如夢鳥空啼。
無情最是臺城柳,
依舊烟籠十里堤。


   
           **********************

              金陵の圖

江雨 霏霏として  江草 齊
(ひと)し,
六朝
(りくてう) 夢の如く  鳥 空しく啼く。
無情 最もなるは是れ  臺城の柳,
舊に 依りて 烟は 籠
(こ)む  十里の堤。

             ******************

◎ 私感訳註:

 『聯珠詩格』卷七より
※金陵圖:金陵の絵を見て。『聯珠詩格』では『過金陵』とする(写真:右)。 中唐・韓愈の『早春呈水部張十八員外二首』に「天街小雨潤如酥,草色遙看近卻無。最是一年春好處,絶勝煙柳滿皇都。」とある。 ・金陵:古代の金陵邑。六朝の建業、建康。元代の集慶のこと。この時代明初の應天、現・南京のこと。六朝の古都なので異称、別名が多い。『樂府詩集』に遺された南朝斉の謝に『入朝曲』で「江南佳麗地,金陵帝王州。逶水,迢遞起朱樓。飛甍夾馳道,垂楊蔭御溝。凝笳翼高蓋,疊鼓送華。獻納雲臺表,功名良可收。」と讃えられたところでもある。この作品と同様のモチーフのものは、唐彦謙の『金陵懷古』「碧樹涼生宿雨收,荷花荷葉滿汀洲。登高有酒渾忘醉,慨古無言獨倚樓。宮殿六朝遺古跡,衣冠千古漫荒丘。太平時節殊風景,山自水自流。」、劉禹錫『石頭城』「山圍故國週遭在,潮打空城寂寞回。淮水東邊舊時月,夜深還過女牆來。」、唐・杜牧『泊秦淮』「煙籠寒水月籠沙,夜泊秦淮近酒家。商女不知亡國恨,隔江猶唱後庭花。」、孫光憲の『後庭花』其二「石城依舊空江國,故宮春色。七尺絲芳草碧,絶世難得。」、欧陽炯『江城子』「晩日金陵岸草平,落霞明,水無情。六代繁華,暗逐逝波聲,空有姑蘇臺上月,如西子鏡,照江城。」、南唐後主・李Uの『浪淘沙』「往事只堪哀,對景難排。秋風庭院蘚侵階。一任珠簾閑不卷,終日誰來。   金鎖已沈埋,壯氣蒿莱。晩涼天靜月華開。想得玉樓瑤殿影, 空照秦淮。」、朱敦儒の『相見歡』「金陵城上西樓,倚清秋,萬里夕陽垂地、大江流。   中原亂,簪纓散,幾時收?試倩悲風吹涙、過揚州。」、宋・王安石『桂枝香』「金陵懷古」「登臨送目,正故國晩秋,天氣初肅。千里澄江似練,翠峰如簇。歸帆去棹殘陽裡,背西風酒旗斜矗。彩舟雲淡,星河鷺起,畫圖難足。念往昔,繁華競逐。嘆門外樓頭,悲恨相續。千古憑高,對此漫嗟榮辱。六朝舊事隨流水,但寒煙衰草凝香B至今商女,時時猶唱,後庭遺曲。」、辛棄疾の『念奴嬌』「登建康賞心亭,呈史留守致道」「我來弔古,上危樓、贏得闖D千斛。虎踞龍蟠何處是?只有興亡滿目。柳外斜陽,水邊歸鳥,隴上吹喬木。片帆西去,一聲誰噴霜竹?却憶安石風流,東山歳晩,涙落哀箏曲。兒輩功名キ付與,長日惟消棋局。寶鏡難尋,碧雲將暮,誰勸杯中香H江頭風怒,朝來波浪翻屋。」、明・高啓の『登金陵雨花臺望大江』「大江來從萬山中,山勢盡與江流東。鍾山如龍獨西上,欲破巨浪乘長風。江山相雄不相讓,形勝爭誇天下壯。秦皇空此黄金,佳氣葱葱至今王。我懷鬱塞何由開,酒酣走上城南臺。坐覺蒼茫萬古意,遠自荒煙落日之中來。石頭城下濤聲怒,武騎千群誰敢渡。黄旗入洛竟何,鐵鎖江未爲固。前三國,後六朝,草生宮闕何蕭蕭。英雄乘時務割據,幾度戰血流寒潮。我生幸逢聖人起南國,禍亂初平事休息。從今四海永爲家,不用長江限南北。」、現代では『知之歌』「藍藍的天上,白雲在飛翔,美麗的揚子江畔是可愛的南京古城,我的家ク。,彩虹般的大橋,直上雲霄,斷了長江,雄偉的鍾山脚下是我可愛的家ク 告別了媽媽,再見家ク,金色的學生時代已轉入了春史册,一去不復返。,未來的道路多麼艱難,曲折又漫長,生活的脚印深淺在偏僻的異ク。」など多い。

※江雨霏霏江草齊:長江に雨がしとしとと岸辺の(草に降り、)草は、生え揃っている。 ・江雨:長江に降る雨。 ・霏霏:雨などがはらはらと降るさま。 ・江草:岸辺の草。 ・齊:そろう。ひとしい。たいらか。

※六朝如夢鳥空啼:六朝の栄華は夢のように儚く、今はただ、鳥が空しく鳴いているだけで(過去の栄華を示すものは、なにもない)。 ・六朝:江南に興った六つの王朝。三国以降の魏晋南北朝の(金陵に都をおいた)南朝で、文学で謂う漢魏六朝の六朝のこと。東呉、東晉、宋、齊、梁、陳の六代に亘る王朝のことで、約三百年間を指す。全て金陵(南京)を都とした。≒南朝。 ・如夢:夢のようである。どの王朝も短命で儚く滅んでいったことからいう。 ・空啼:かいもなく鳴く。

※無情最是臺城柳:(歴史上の悲劇を知っていながら)情が無いのは、宮城の柳である。 ・無情:金陵は、六朝・陳、隋の歴史上の悲劇が起こったところではあるが、春の風情は、人の世の出来事とは関わることなく、恰も無情であるかの如くである。 ・最是:一番に。 ・臺城:宮城。

※依舊烟籠十里堤:昔ながらに、十里の堤を緑色の霞で包んでしまっている。 ・依舊:昔のままに。昔ながらに。 ・烟籠:もやが立ち込めている。霞がかかっている。柳や草が遥か遠くまで茂っているさまを屡々こう表現する。また、葉がこんもりと茂って恰も緑色のもやがかかっているかのようであるかのようであることをいう。





◎ 構成について

 韻式は「AAA」。韻脚は「齊啼堤」で平水韻部上平四支。次の平仄はこの作品のもの。

○●○○○●○,(韻)
●○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2004.1.28
     1.29完
2007.4.2補
2021.9.16

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