小樓 | |
清・張問陶 |
小樓春雨似呉篷,
萬里浮家少定蹤。
墨海淘金知水利,
硯田收税學山農。
升沈祗覺生如戲,
貧病方爲世所容。
坐破蒲團歸未得,
夜天何處一聲鐘。
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小樓
小樓の春雨は呉篷 に似,
萬里の浮家 定蹤 を少 く。
墨海 に金 を淘 げて 水利を知り,
硯田 に 税を收めて 山農に學ぶ。
升沈 祗 だ覺 る生 は戲 の如しと,
貧病 方 に爲 る 世の容 るる所と。
蒲團 を坐破 すれども 歸ること未 だ得ず,
夜天 の何處 か一聲 の鐘。
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◎ 私感註釈
※張問陶:清代中期の官吏、詩人。乾隆二十九年(1764年)生〜嘉慶十九年(1814年)。四川・遂寧の人。字は仲冶、柳門。故郷の山に因み、船山と号した。乾隆五十五年(1790年)の進士。翰林院検討等を歴任し、山東・莱州知府となる。官を辞した後は呉県(現・蘇州)虎邱に寓居し、旅先で病死した。繊細な感情を詠い込んだ詩を遺している。
※小楼:二、三階建ての小ぶりな建物。
※小楼春雨似呉篷:(今いるこの)小さな建物に降る春の雨(の風情は)江南の(水上生活者の)苫舟(とまぶね)に似ており。 ・呉篷:江蘇・浙江地方の苫舟(とまぶね)。 ・篷:〔ほう;peng2○〕苫(とま)。竹や茅(かや)等を編んで作った、雨除けや日除けのかまぼこ形の、舟を覆うテント状のもの。(右の図の中の舟)。
※万里浮家少定蹤:非常に遠い距離を水上生活者の(ように)流離(さすら)い、定住したところは少なかった。 ・万里:非常に遠い距離。 ・浮家:水上生活をして、長い間、流離(さすら)う。「浮家泛宅」を謂う。 ・定蹤:とどまったあと。
※墨海淘金知水利:すずり(=文筆)で、砂金を水でより分けて(金もうけして)、水(=文筆)の利便さを知り。 ・墨海:〔ぼっ(ぼく)かい;mo4hai3●●〕大硯(すずり)。すずりのこと。 ・淘金:〔たうきん;tao2jin1○○〕砂金を水でより分ける。転じて、金もうけする意。 ・淘:〔たう;tao2○〕洗いすすぐ。洗い流す。よなげる。よなぐ。 ・水利:河川等の水の便利。
※硯田収税学山農:硯田(けんでん)(=文筆で生活すること)で、税を取り立てることは山家の農家に学んだ。 ・硯田:〔けんでん;yan4tian2●○〕文筆で生活すること。文人のすずりを農夫の田に喩える。 ・収税:税を取り立てること。徴税。
※升沈祗覚生如戯:栄えることもあったがおとろえこともあり、ただ、人生は、劇のようだと感じ。 ・升沈:〔しょうちん;sheng1chen2○○〕のぼると、しずむと。栄えると、おとろえると。(官位の)昇進と降格。(人生の)浮き沈み。浮沈・栄枯・盛衰。 ・祗:ただ。=只。 ・覚:さとる。思う。 ・生如戯:人生は、芝居のようなものだ。 ・戯:劇。芝居。
※貧病方為世所容:貧乏と病気になって、やっと世間様の仲間にいれてもらった。 ・貧病:〔ひんびゃう;pin2bing4○●〕貧乏と病気。 ・方:ちょうど。今まさに。やっと。 ・所-:…のところ。…のこと。…の時。動詞の前に置き、動詞を名詞化する。
※坐破蒲団帰未得:円座に(ずっと)坐りつくして、(故郷に)まだ帰ることができないでいる。 ・坐:〔動詞〕すわる。蛇足になるが、古語は別として、現代語では、“坐”は動詞「すわる」の意で用いられ、「座席、席」といった名詞では、“座”と表記される。 ・-破:…つくす。…しとげる。 ・蒲団:〔ほたん(ふとん);pu2tuan2○○〕僧が坐禅などに用いる、ガマの葉で編んだ敷物。大形の座布団(ざぶとん)。円座。 ・帰未得:まだ帰れない。【〔動詞〕+〔否定詞〕+〔得〕】で、「…が成(な)し遂(おお)せない」「…が出来ない」の意。盛唐・杜甫の『江亭』に「坦腹江亭暖,長吟野望時。水流心不競,雲在意倶遲。寂寂春將晩,欣欣物自私。故林歸未得,排悶強裁詩。」とある。 ・帰:(本来かえっていくべき、自宅・郷里・墓所などに)もどる。ここは、故郷に帰ることを謂う。
※夜天何処一声鐘:夜空(よぞら)のどこかから、鐘の音が一つ(聞こえてきた)。 ・夜天:夜空(よぞら)。 ・何処:どこ(か)。いづれのところ。いづこ。
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◎ 構成について
韻式は、韻式は、「AAAAA」。韻脚は「篷蹤農容鐘」で、平水韻上平二冬。この作品の平仄は、次の通り。
●●○●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
●○○●●○○。(韻)
○○●●○○●,
○●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
●○○●●○○。(韻)
2012.5.10 5.11 |
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