偶成 |
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伊達政宗 | ||
邪法迷邦唱不終, 欲征蠻國未成功。 圖南鵬翼何時奮, 久待扶搖萬里風。 |
邪法 邦を迷はして 唱へて終らず,
蠻國を 征せんと 欲すれども 未だ功を成さず。
圖南の鵬翼 何れの時にか奮はん,
久しく待つ 扶搖 萬里の風。
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◎ 私感註釈
※伊達政宗:安土桃山時代〜江戸初期の武将。1567年(永禄十年)〜1636年(寛永十三年)。仙台藩主。徳川方に属し、仙台六十二万石の基礎を築く。支倉常長(はせくらつねなが)をローマへ派遣。
※偶成:たまたまできた詩。『荘子』の内篇逍遙遊第一』に基づく詩。この詩は、作者・伊達政宗が南征して邪教の国を平らげようというものだが、彼はその前には家臣の支倉常長(はせくらつねなが)をローマ法王の許へ派遣し、西洋との交流を試みている。ただ、時代が豊臣氏の時代から徳川氏の時代となり、キリスト教は禁教となり、鎖国されたように激変の時代の流れであった。彼・伊達政宗は支倉常長一族を処罰し、更にこの詩を作って自己の無罪証明として、安泰を図ったのか。
※邪法迷邦唱不終:よこしまな宗教(キリスト教)が国を迷わす(教えを)唱(とな)えることが終わることなく。 ・邪法:〔日本語〕邪教。よこしまな教え。よこしまな宗教。ここでは、キリスト教のことになる。 ・迷邦:国を迷わす。 ・唱:となえる。ここでは、(邪法を)となえることになる。 ・不終:終わらず。「不盡」の意で使う。
※欲征蠻國未成功:(南方の)えびすの住む国を討って懲(こ)らしめようと思うが、まだ功(いさお)を打ち立てられないでいる。 ・欲:…とおもう。…たい。 ・征:討ちに行く。攻めて懲(こ)らす。 ・蠻國:(南方の)えびすの住む国。えびすの住む国。外国。
※圖南鵬翼何時奮:大事を企てる鵬(ほう)が翼を何時になったらはばたいて空高く舞い上がることになるのだろうか。 ・圖南:〔となん;tu2nan2○○〕大事業を企てる喩え。鵬(ほう)という大きな鳥が翼をはばたいて九万里も空高く舞い上がり、南の海へ飛ぼうとしたたとえ話。ここでは、そのことと、南蛮征伐とをかけている。後出『莊子・逍遙遊』のやや後の部分に「故九萬里則風斯在下矣,而後乃今培風,背負天,而莫之夭閼者,而後乃今將圖南。」とある。 ・鵬翼:〔ほうよく;peng2yi4○●〕万里を飛ぶことが出来る鵬の翼。
※久待扶搖萬里風:長い間(鵬が翼をはばたいた時に起こる)万里の彼方までのつむじ風を待ち望んでいる。 ・久待:長い間待ち望む。 ・扶搖:(鵬が翼をはばたいた時に起こった)つむじ風。旋風。『莊子・内篇逍遙遊第一』のトツプに「北冥有魚其名爲鯤,鯤之大不知其幾千里也。化而爲鳥,其名爲鵬,鵬之背不知其幾千里也。…鵬之徙於南冥也,水撃三千里,摶扶搖而上者九萬里 ,去以六月息者也。」とある。 ・萬里:遙かな道程。ここでは、前出『莊子・内篇逍遙遊第一』青字部分に因る。
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◎ 構成について
韻式は「AAA」。韻脚は「終功風」で、平水韻上平一東。平仄はこの作品のもの。
○●○●●●○,(韻)
●○●●●○○。(韻)
○○●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
平成21.3.5 3.6 3.7 |
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