絶命辭 |
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中島米華 | ||
高情自與世人違, 我是南豐一布衣。 三十六鱗猶欠二, 今朝天上化龍飛。 |
高情自 から 世人と違 ふ,
我 は是 れ 南豐の 一布衣 。
三十六鱗 猶 ほ二を欠 けども,
今朝 天上 龍と化 して飛ぶ。
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◎ 私感註釈
※中島米華:江戸時代後期の儒者。享和元年(1801年)〜天保五年(1834年)。豊後佐伯(さいき)藩士。広瀬淡窓に師事し、後に、昌平黌で古賀侗庵に学ぶ。帰藩後、藩校・四教(しこう)堂でおしえた。三十四歳の時、破傷風のため死去。名は大賚。字は子玉、如玉。通称は増太。別号に海棠窠主人、古香外史。著作に「日本詠史新楽府」「愛琴堂詩鈔」などがある。
※絶命辞:臨終のことば。
※高情自与世人違:けだかい心情は、自然と世間の人とは違う(が)。 ・高情:けだかい心情。 *敬語の表現でもあり、「高情」を敬語と見れば、この『絶命辞』は中島米華の最期を見取った人の作になるが…。 ・自:おのずと。自然に。おのずから。 ・与:と。 ・世人:世の中の人。世間の人。 ・違:ちがう。たがう。
※我是南豊一布衣:わたしは豊後の国の一庶民である。 ・是:…は…である。これ。主語と述語の間にあって述語の前に附き、述語を明示する働きがある。〔A是B:AはBである〕。「我是-」:「わたしは…である。」。 ・南豊:豊後(の)国を謂う。旧国名の一で、現・大分県。なお、豊前(の)国は「北豊」で、「南豊」とともに豊国(とよのくに)(=豊州(ほうしゅう)を構成する。 ・布衣:〔ふい/ほい/ほうい;bu4yi1●○〕官位のない人。平民。庶民。本来は、(絹織物ではなくて)布製の着物のことで、一般庶民の着物の意。
※三十六鱗猶欠二:(三十四歳のわたしは)三十六鱗のコイよりも、まだ二つ足らない(ものの)。 ・三十六鱗:鯉(こい)の別称。鱗獣(鱗虫)の一。「六六:三十六鱗」唐・段成式の『酉陽雜俎・鱗介篇』に「鯉,脊中鱗一道,毎鱗有小K點,大小皆三十六鱗。」とあるのに因る、と。なお、後出の龍は「九九:八十一鱗」。 ・猶:なおまだ。 ・欠二:「2」足らない。「三十六…缺二」:「36に2足りない」⇒「36−2=34」で、三十四。当時の作者の年齢。 ・欠:〔けん;qian4●〕すくない。たりない。また、かける。こわれる。 *欠・缺について:(「缺」(けつ)の教育漢字字体が「欠」となり、また、古くから混用があったものの、)本来は「缺」と「欠」とは別のもの。⇒欠〔けん;qian4●〕(すくない、たりない。かける、こわれる。あくび)で、 缺〔けつ;que1●〕(かける、こわれる。たりない)。ただし、現在の日本での表記は「欠」字を以て、欠〔けん;qian4●〕・缺〔けつ;que1●〕双方を表す。
※今朝天上化竜飛:今日は、天に(九九:八十一鱗の)龍となって昇るのだ。 ・龍:りゅう。りょう。鱗獣(鱗虫)の長。「九九:八十一鱗」。九種の(他の動物に)似通った点があり、背中には八十一の鱗があるという。「九」は一桁の奇数では最大。なお、前出・三十六鱗は、鯉(こい)の別称。「六六:三十六鱗」。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「違衣飛」で、平水韻上平五微。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
○●●○○●●,
○○○●●○○。(韻)
平成29.1.24 1.25完 平成31.1.11補 1.12 令和2. 7. 1 |
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