春日偶成 | ||
夏目漱石 |
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細雨看花後, 光風靜坐中。 虚堂迎晝永, 流水出門空。 |
細雨 花を看るの後,
光風 靜坐 の中。
虚堂 昼を迎へて永く,
流水 門を出 でて空 し。
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◎ 私感註釈
※夏目漱石:明治期の小説家。慶応三年(1867年)〜大正五年(1916年)東京出身。名は金之助。東大英文科卒。松山中学教諭、五高教授を経て、イギリスに留学、帰国後一高教授。『明暗』では、自我を越えた所謂「則天去私」の世界を志向した。
※春日偶成:春の日に、偶然にできた詩。 *この詩は其の三。対にして表現しようとしたか。 ・偶成:偶然にできた詩。ふとした思いつきでできた詩。絶句に多く見られる詩題。
※細雨看花後:霧雨(きりさめ)になった(のは)花を看た後で。 ・細雨:こまかい雨。霧雨(きりさめ)。 ・看花:花を看る。花を眺める。
※光風静坐中:晴れた日の麗らかな風に、心を鎮(しず)めて端座する。 ・光風:晴れた日の麗らかな風。 ・静坐:心をしずめてすわる。精神を統一して端座する。明・高攀龍の『夏日閑居』に「長夜此靜坐,終日無一言。問君何所爲,無事心自閑。細雨漁舟歸,兒童喧樹間。北風忽南來,落日在遠山。願此有好懷,酌酒遂陶然。池中鴎飛去,兩兩復來還。」とある。
※虚堂迎昼永:人気(ひとけ)のない家で昼の長い時間を過ごし。 ・虚堂:人のいない部屋。人気(ひとけ)のない家。南宋・姜夔の『平甫見招不欲往』に「老去無心聽管絃,病來杯酒不相便。人生難得秋前雨,乞我虚堂自在眠。」とある。
※流水出門空:流れ去る水が、門から出て行き、むなしく(感じられる)。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「中空」で、平水韻上平一東。この作品の平仄は、次の通り。
●●◎○●,
○○●●○。(韻)
○○●●●,
○●●○○。(韻)
令和3.9.26 |
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