凱歌 | |
明・沈明臣 |
銜枚夜度五千兵,
密領軍符號令明。
狹巷短兵相接處,
殺人如草不聞聲。
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凱歌
枚 を銜 み 夜を度 す 五千の兵,
密 かに軍符 を領 して 號令明 かなり。
狹巷 に 短兵相 ひ接する處,
人を殺すこと草 かるが如く聲 を聞かず。
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◎ 私感註釈
※沈明臣:〔しんめいしん;Shen3 Ming2chen2〕明代の詩人。1518年〜1596年。字は嘉則。号して句章山人。鄞(ぎん;Yin2)県(現・浙江省寧波(ニンポー)市南部の鄞県(ぎんけん;Yin2xian4)の人。王叔承、王稚登とともに、万暦年間の三大「布衣詩人」と称される。 *蛇足になるが、「沈」字と「沉」字について、日本語での漢字使い分けは正字と俗字の違いとなる(ちん/しん)だけだが、現代中国語表記では、「沈」字は姓に使われ、「沉」字は「しずむ」意と使い分けられる。読み方も「沈」は〔しん;Shen3〕(姓の「しん」)、 「沉」は〔ちん;chen2〕(しずむ)。
※凱歌:凱旋の時に歌う歌。戦いの勝利の歌。 *詩の内容から判断して、倭寇を討った時の詩になろう。なお、倭寇との戦いの凱歌の詩に、明・徐渭の『龕山凱歌』其五「夷女愁妖身畫丹,夫行親授不縫衫。今朝死向中華地,猶上阿蘇望海帆。」がある。
※銜枚夜度五千兵:枚(ばい)を銜(ふく)ませ(声を立てずに)、夜を過ごした五千名の兵士(は)。 ・銜枚:枚(ばい)を銜(ふく)む。枚(ばい)は、箸(はし)のような木で、両端に紐があるもの。秘かに敵を攻める時、兵士や馬にこれを銜(くわ)えさせて、声を立てるのを防いだ。 ・銜:〔かん;xian2○〕ふくむ。口にふくむ。口にくわえる。 ・度:すごす。
※密領軍符号令明:秘かに(攻撃の)命令を受領して、(今までの沈黙を打ち破って)凛として響きわたる号令の大音声。(/軍令が厳しく明確であるからだ。) ・密領:ひそかに受理する。こっそりと率いる。 ・領:率いる。連れる。 ・軍符:竹で作られた命令伝達の発令のしるし。 ・明:明瞭である。 *詩の前半では、「沈黙」が場面の主題となっている。それを打ち破るのが、「突撃」との号令の声。その凛として響きわたる命令の大音声。また、厳しく明確である。ここは、前者の意
。
※狹巷短兵相接処:狭い路地で、白兵戦を展開し。 ・狹巷:狭い路地。 ・短兵:刀や槍などの手に執る武器。(弓矢などの飛び道具は含まない)。 ・短兵相接:肉薄する。白兵戦をやる。この表現は、現代語では成語となっている。 ・處:時。ところ。場所。
※殺人如草不聞声:人(≒敵)を殺すのを(まるで)草(を刈る)かのように、粛粛と処理をしている。 ・人:ここでは、倭寇を指す。倭寇とは、鎌倉末期から室町時代に朝鮮半島や中国大陸沿岸を襲った海賊に対する朝鮮・中国側の呼称。日本の寇(あだ)、倭人の群盗の意。南北朝時代には、北九州や瀬戸内海の沿岸漁民や土豪が武装して貿易活動をし、しばしば暴力化した。十五世紀には大陸沿岸部にまで活動範囲を拡げたが、これには日本人よりも大部分は明の乱民が加わっていた。後に、勘合貿易の制が整うと終熄した。 ・如草:草(を刈る)ように。 ・不聞聲:音や声に聞こえてこない。静かに粛粛と処理をしているさまを謂う。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「平明聲」で、平水韻下平八庚。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
●●●○○●●,
●○○●●○○。(韻)
2011.10.15完 2015. 2.26補 |
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