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芙蓉洞 | |
明・王陽明 |
巖下雲萬重,
洞口桃千樹。
終歳無人來,
惟許山僧住。
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芙蓉洞
巖下 雲萬重 ,
洞口 桃千樹 。
終歳 人の來 る 無し,
惟 だ許す 山僧の住 するを。
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◎ 私感註釈
※王陽明:(王守仁)明代の哲学者・思想家。陽明学の祖。成化八年(1472年)~嘉靖七年(1528年)。紹興府余姚県(現・浙江省余姚市杭州東南東100キロメートル)の人。名は守仁。字は伯安。号して陽明。大監(宦官)の劉瑾を弾劾したために恨みを買い、貴州省の龍場に左遷された。(このページの詩はここでの作か)。その地で思索を続け、陸九淵の心学を継承・発展させ、「龍場の大悟」といわれる陽明学を生み、知行合一を提倡した。
※芙蓉洞:作者のいた貴州省龍場の北方、四川省東南部にある重慶のまた東南にある鍾乳洞。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)59-60ページ「唐 黔中道」に芙蓉、芙蓉山がある。貴州省の貴陽の北方120キロメートルのところ。ただし、作者・王陽明は、陽明洞に室を構えたので、陽明先生と称されたことからすると、借りて心境を詠ったのか。
※巌下雲万重:巌(いわお)の下を雲がいくえにも幾重にも取り巻いて。 ・巖:いわお。岩。山家ごつごつと険しい。 ・雲:俗世間を超越したことを暗示する語でもある。唐の王維の『送別』「下馬飮君酒,問君何所之。君言不得意,歸臥南山陲。但去莫復問,白雲無盡時。」や、唐・杜牧の『山行』「遠上寒山石徑斜,白雲生處有人家。停車坐愛楓林晩,霜葉紅於二月花。」
また、崔顥(さいかう:cui1hao4)の七律『黄鶴樓』「昔人已乘白雲去,此地空餘黄鶴樓。黄鶴一去不復返,白雲千載空悠悠。晴川歴歴漢陽樹,芳草萋萋鸚鵡州。日暮鄕關何處是,煙波江上使人愁。」
、漢の武帝・劉徹の樂府『秋風辭』「秋風起兮白雲飛,草木黄落兮雁南歸。蘭有秀兮菊有芳,懷佳人兮不能忘。汎樓船兮濟汾河,橫中流兮揚素波。簫鼓鳴兮發櫂歌,歡樂極兮哀情多。少壯幾時兮奈老何。」
「白雲」の語はなく「雲」だけになるが、晉・陶淵明の『歸去來兮辭』の「歸去來兮,田園將蕪胡不歸。既自以心爲形役,奚惆悵而獨悲。悟已往之不諫,知來者之可追。實迷途其未遠,覺今是而昨非。舟遙遙以輕
,風飄飄而吹衣。問征夫以前路,恨晨光之熹微。乃瞻衡宇,載欣載奔。僮僕歡迎,稚子候門。三逕就荒,松菊猶存。攜幼入室,有酒盈樽。引壺觴以自酌,眄庭柯以怡顏。倚南窗以寄傲,審容膝之易安。園日渉以成趣,門雖設而常關。策扶老以流憩,時矯首而游觀。雲無心以出岫,鳥倦飛而知還。景翳翳以將入,撫孤松而盤桓。歸去來兮,請息交以絶遊。世與我以相遺,復駕言兮焉求。悅親戚之情話,樂琴書以消憂。農人告余以春及,將有事於西疇。或命巾車,或棹孤舟。既窈窕以尋壑,亦崎嶇而經丘。木欣欣以向榮,泉涓涓而始流。羨萬物之得時,感吾生之行休。已矣乎,寓形宇内復幾時。曷不委心任去留,胡爲遑遑欲何之。富貴非吾願,帝鄕不可期。懷良辰以孤往,或植杖而耘
。登東皋以舒嘯,臨淸流而賦詩。聊乘化以歸盡,樂夫天命復奚疑。」
や唐の賈島『尋隱者不遇』「松下問童子,言師採藥去。只在此山中,雲深不知處。」
がある。 ・萬重:極めていくえにも重なるさま。
※洞口桃千樹:ほらあなの入口には、(武陵桃源のように、また、玄都觀のように)モモの木が千本(植わっている)。 ・桃千樹:モモの木が千本。桃源郷の入口にも生えており、桃源郷(理想郷)を暗示する。東晋・陶淵明の『桃花源記』に「晉太元中,武陵人捕魚爲業,縁溪行,忘路之遠近,忽逢桃花林。夾岸數百歩,中無雜樹。芳草鮮美,落英繽紛。漁人甚異之,復前行,欲窮其林。林盡水源,便得一山。山有小口。髣髴若有光。便舎船從口入。初極狹,纔通人。復行數十歩,豁然開朗。…」に表される世界。また、中唐・劉禹錫の『元和十一年自朗州召至京戲贈看花諸君子』「紫陌紅塵拂面來,無人不道看花回。玄都觀裏桃千樹,盡是劉郎去後栽。」
も指すだろう。この詩は、劉禹錫が地方官に左遷された感懐を桃の花に託して詠ったもので、作者・王陽明と境遇を同じくする。
※終歳無人来:一年中、人の来ることが無く。 *東晉・陶潛の『歸園田居五首』其二に「野外罕人事,窮巷寡輪鞅。白日掩荊扉,虚室絶塵想。時復墟曲中,披草共來往。相見無雜言,但道桑麻長。 桑麻日已長,我土日已廣。常恐霜霰至,零落同草莽。」・終歳:一年中。年中。 ・無人來:人の来ることがない。節奏は「無 ・ 人來」。
※惟許山僧住:ただ、山僧だけが許されて住んでいる。 ・惟:ただ。 ・許:ゆるす。『桃花源記』では桃源郷から戻った人物が太守にいきさつを申し出たところ、「太守即遣人隨其往,尋向所誌,遂迷不復得路。南陽劉子驥,高尚士也。聞之欣然規往。未果,尋病終。後遂無問津者。」と、桃源郷へは二度と再び行けなかった。ここでは、「それにもかかわらず山僧のみは…」の意。
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◎ 構成について
韻式は、「aa」。韻脚は「樹住(「住」の正確な漢音は「ぢゅ」。「ぢゅう」は慣用音)」で、平水韻去声七遇。この作品の平仄は、次の通り。
○●○●○,
●●○○●(韻)
○●○○○,
○●○○●。(韻)
2011.10.28 |
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