塞上 | |
北宋・ 柳開 |
鳴骹直上一千尺,
天靜無風聲更乾。
碧眼胡兒三百騎,
盡提金勒向雲看。
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塞上
鳴骹 直ちに上る 一千尺,
天 靜かに 風 無く 聲 更に乾 く。
碧眼 の胡兒 三百騎,
盡 く金勒 を提 めて 雲に向かひて看る。
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◎ 私感註釈
※柳開:北宋の文学者。後漢(こうかん)・天福十二年(947年)〜北宋・咸平三年(1000年)。字は仲塗。号は東郊野夫、補亡先生。大名(現・河北省大名)の人。太祖の開寶六年の進士。韓愈、柳宗元の古文の伝統を継承することをもって己の任務とし、後の欧陽修の詩文改革運動の先声となった。『河東先生集』がある。
※塞上:(万里の長城の)城塞のほとり。(西北方の)とりでのそば。国境地帯。 *国境地帯を我が物顔に横行する異民族のさまを詠った。
※鳴骹直上一千尺:(異民族側の軍事上の合図である)かぶら矢がまっすぐに高々と上がった。 ・鳴骹:〔めいかう、めいけう;ming2xiao1?ming2qiao1?○○〕なりかぶら。かぶら矢。音をたてる筒をつけた矢。北方、西方異民族である匈奴の得意とする通信聯絡、命令を伝える武器。ここでは、異民族側が放った鏑矢(かぶらや)。 ・骹:〔かう、けう;qiao1、xiao1○〕かぶら矢。音をたてて飛ぶ矢。=鳴鎬。鳴箭。嚆矢。 ・直上:まっすぐに上がる。すぐ上。真上。盛唐・王之渙は『唐詩三百首』(巻八・七言絶句・楽府)での『出塞』」で「黄沙直上白雲間,一片孤城萬仞山。羌笛何須怨楊柳,春風不過玉門關」とし、盛唐・杜甫の『兵車行』に「車轔轔,馬蕭蕭,行人弓箭各在腰。耶孃妻子走相送,塵埃不見咸陽橋。牽衣頓足闌道哭,哭聲直上干雲霄。道旁過者問行人,行人但云點行頻。或從十五北防河,便至四十西營田。去時里正與裹頭,歸來頭白還戍邊。邊庭流血成海水,武皇開邊意未已。君不聞漢家山東二百州,千邨萬落生荊杞。縱有健婦把鋤犁,禾生隴畝無東西。況復秦兵耐苦戰,被驅不異犬與鷄。長者雖有問,役夫敢申恨。且如今年冬,未休關西卒。縣官急索租,租税從何出。信知生男惡,反是生女好。生女猶得嫁比鄰,生男埋沒隨百草。君不見青海頭,古來白骨無人收。新鬼煩冤舊鬼哭,天陰雨濕聲啾啾。」とある。
※天静無風声更乾:大空は静かであり、風も無いために(かぶら矢の)音は、(乾いた空気の中で)一層乾いた(音をたてていた)。 ・声:音声。 ・更:一層。その上。
※碧眼胡児三百騎:青い目をした異民族の(騎馬が)三百騎。 ・碧眼:(白人系(=コーカソイド系)の光彩の色の)青い目。 ・胡児:西方のえびす。西方異民族。歴史地図を繙(ひもと)けば、当時、10世紀中頃の西方の異民族は、中央アジアに強勢を誇るウィグル人がいる。イスラム帝国の諸王朝の一であるウィグル人のサーマン朝、カラ=ハン朝があった。ウィグル人は、東は甘州からウィグル・亀茲・ベラサグン・キルギス・ボハラ一帯(現・中国甘粛省・中国青海省・モンゴル国・中国新疆ウィグル自治区・ロシア聯邦・カザフスタン共和国等)にはウィグル人がいた。彼等は純粋のモンゴロイドではないので「青い目」に該当しようか。北宋初頭の北方の異民族は、遼(契丹/キタイ=モンゴル系)、西夏、女真(後の金)があるが、黒い目で黒い髪、直毛のモンゴロイド。 ・騎:〔き;ji4●〕騎馬を数える助数詞。
※尽提金勒向雲看:(異民族の騎馬が)一斉に金のくつわ(に繋がる手綱)を引き締めて(馬を停めて、)雲の方を見上げた。 ・尽:ことごとく。 ・提:〔てい;ti2○〕引っぱる。(乗馬している者が、「手綱を引き締める」という動作をとることは、馬を停めるということ。)また、手に提(さ)げて持つ。引き上げて持つ。 ・金勒:〔きんろく;jin1le4○●〕金のくつわ。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「船煙」で、平水韻下平一先。この作品の平仄は、次の通り。
●●○○●●,
●○●●○○。(韻)
○●○○●●,
●○○●○○。(韻)
2012.7.29 |
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