新年自唱自和 | |
南宋・戴復古 |
聖朝開寶暦,
淳祐四年春。
生自前丁亥,
今逢兩甲辰。
黄梁一夢覺,
青鏡二毛新。
七十八歳叟,
乾坤有幾人。
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新年に自 ら唱 ひ自 ら和 す
聖朝 寶暦 を開けば,
淳祐 四年の春。
前の丁亥 より生まれ,
今兩 の甲辰 に逢 ふ。
黄梁 一夢 覺 め,
青鏡二毛 新たなり。
七十八 歳の叟 ,
乾坤 幾人 か有らん。
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◎ 私感註釈
※戴復古:南宋の詩詞人。1167年(南宋・乾道三年・丁亥)〜(没年不詳)。字は式之。号は、故郷の南塘の石屏山に隠棲したことに因み、石屏と称する。天台黄岩(現・浙江省)の出身。江湖派の詩人として有名。江湖派とは、南宋中期、後期の詩歌流派の一で、江湖を流離った人々、つまり、進士試験の落第生や野にある知識人で、時の中央の詩壇に対して、下層社会(江湖)の中に出来あがった、社会の下層知識人の詩壇であると謂える。名の由来は、陳起が江湖(世間)の作品を集めて『江湖集』をはじめとして、『江湖×集』『江湖○集』という具合に、出版を続けたことによる。詩人は、本サイトに出てくる人物では、劉過、姜、劉克荘 など。作風は、その社会的立場を反映して、中央政権や社会の中の矛盾には批判的な面を持ったものを、或いは、社会の第一線から身を引いて隠棲し、斜に構えた態度でのものが多い。
※新年自唱自和:新年を迎えて、みずから歌い、みずから調子をとって。 ・新年:ここでは、1244年の淳祐四年・甲辰。作者が(数え年)七十八歳になった新春。数え年では元旦で歳が増える。 ・自唱自和:みずから歌い、みずから調子をとって。和〔he4●〕。
※聖朝開宝暦:(新年に)天朝の御暦(こよみ)を初めて見(れば)。 ・聖朝:(大)御代((おお)みよ)。今の天子の代を尊んで謂う。 ・宝暦:尊いこよみ。統治する天子の徳に服する地方では、天子の出したこよみや諸制度を敬って使用する。
※淳祐四年春:(今年は)淳祐四年(1244年・甲辰年)の新春(だ)。 ・淳祐四年:1244年。甲辰年。「淳祐」は南宋の元号。1241年(淳祐元年)〜1252年(淳祐十二年)。
※生自前丁亥:さきの丁亥年に生まれてより。 ・生自-:…に生まれてより。「自」:…から。…より。 ・前:さき。まえ。前の方の。作者にとって丁亥年は二度あり、その前の方の丁亥年を謂う。 ・丁亥:作者にとって、「前」の丁亥年(=生まれた年)とは、1167年・乾道三年・丁亥年。(なお、後の丁亥年は1227年(寶慶三年)。作者が六十一歳(還暦)の時)。 ・丁亥:〔ていがい;ding1hai4○●ひのとゐ〕。干支で表した年で、ここでは、1167年・南宋・乾道三年を指す。*干支とは、十干と十二支の組み合わされた序列の表記法のこと。十干とは、甲乙丙丁戊己庚辛壬癸のことをいい、十二支とは子丑寅卯辰巳午未申酉戌亥のことをいう。十干のはじめの「甲」、十二支のはじめの「子」から順次、次のように組み合わせていく。 甲子、乙丑、丙寅、丁卯、戊辰、己巳、庚午、辛未、壬申、癸酉、(以上、10組で、ここで十干は再び第一位の「甲」に戻り、11組目が始まる)甲戌、乙亥、……(ここで、十二支は「子」に戻り、13組目は)丙子、丁丑…となって、合計は(ページの)60組になる。これで、1から60までの順を表し、年月日の表示などに使われる。なお、61番目は、1番目の甲子にもどる。還暦である。蛇足になるが、丙寅年は、丁亥年は寶慶三年(1227年)だけに限らず、±60年(の倍数年)も丙寅年となる。(例えば:1287年、1347年…。また、1167年、1107年…と)。
※今逢両甲辰:今、二度の甲辰年(淳煕十一年(1184年)と淳祐四年(1244年)に出逢った。 ・両:ふたつ。二度。 ・甲辰:はじめの方の甲辰年は、1184年の淳煕十一年のことで、二度目の甲辰年は、1244年の淳祐四年のこと。二度目の甲辰(1244年の淳祐四年の甲辰)が作者にとっての今年の新年で、この詩を作った年。
※黄梁一夢覚:オオアワが煮えるまでの短い間に、人生の富貴と栄辱との夢から目覚めて。 ・黄梁一夢:オオアワが煮えるまでの短い間に、邯鄲の廬生が人生の富貴と栄辱とを夢見た故事。富貴、功名のはかないことの譬え。=「黄梁一炊(の)夢」、「邯鄲(の)夢」。 ・覚:目覚める。
※青鏡二毛新:青銅の鏡(に映る)白い髪と黒い髪(の割合がが変化して)新たになった。 ・青鏡:青く輝く青銅の鏡。「清鏡」:澄んだ鏡。 ・二毛:白髪交じりの人。白い髪と黒い髪。
※七十八歳叟:七十八歳の(男性の)老人は。 ・七十八歳:作者が淳祐四年(1244年)甲辰年の新春に迎えた歳の数。 ・叟:(男性の)老人。
※乾坤有幾人:天地の間に、(一体)何人いようか。(この世に(一体)何人いようか。極めて少なかろう)。 ・乾坤:〔けんこん;qian2kun1○○〕天地。ここで「乾坤」を使い、「天地」を使わないわけは:この句は「○○●●○」とすべきものだから。「乾坤」は○○で、○○(●○)のところで使い、「天地」は○●で、●●(○●)のところで使う。また、「乾坤」は抽象的な意味合いのところで使い、「天地」はより具体的な意味で使うことが多い。 ・有幾人:何人いようか。「幾」は少数(一桁の数)を謂う。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAA」。韻脚は「春辰新人」で、平水韻上平十一真。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●●,
○●●○○。(韻)
○●○○●,
○○●●○。(韻)
○○●●●,
○●●○○。(韻)
●●●●●,
○○●●○。(韻)
2017.11.19 11.20 |
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