花下醉 | |
唐・李商隱 |
尋芳不覺醉流霞,
倚樹沈眠日已斜。
客散酒醒深夜後,
更持紅燭賞殘花。
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花下に醉ふ
芳 を尋 ねて覺 えず流霞 に醉 ひ,
樹 に倚 り沈眠 して日 已 に斜めなり。
客 散 じ 酒は醒 む 深夜の後 ,
更に紅燭 を持 して殘花 を賞 す。
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◎ 私感註釈
※李商隠:晩唐の詩人。杜牧、温庭筠らと同時代人。812年(元和七年)~856年(大中十年)。字は義山。河内(現・河南省)の人。玉溪生とも号した。独自の世界を開いた。
『歴代絶句類選』二
卷之二 第三十九葉
※花下酔:花のもとで酔う。 ・花下:花の美しく咲きにおう下。=花底。 *艶めかしい意味が隠された詩である。
※尋芳不覚酔流霞:花(自然界の花/美しい妓女)を探し求めているうちに、いつの間にか流霞(=靄や雲気/仙界の酒)に酔ってしまい。 ・尋芳:花を探し求める。=尋花。この語の意は、野外で春の花を愛でるために外出する意とともに、花柳の巷に遊ぶ意もあり、ここでは、前者の意を表面の意として、後者のことも暗示していよう。現代語でも、なお同様。 ・不覚:いつの間にか。知らず知らずのうちに。 ・流霞:たなびき動くもや。朝夕の紅雲。また、仙人が飲むといわれる酒。ここは双方の意を兼ねていよう。『論衡・道虚篇』に「輒飮我流霞一杯。毎次一杯,數月不飢。」とあり、『抱朴子』に「仙人但以流霞一杯,與我飮之,輒不飢渇。」とある。後世、南宋・辛棄疾は『水調歌頭』壽趙漕介庵で「千里渥洼種,名動帝王家。金鑾當日奏草,落筆萬龍蛇。帶得無邊春下,等待江山都老,敎看鬢方鴉。莫管錢流地,且擬醉黄花。 喚雙成,歌弄玉,舞綠華。一觴爲飮千歳,江海吸流霞。聞道淸都帝所,要挽銀河仙浪,西北洗胡沙。囘首日邊去,雲裏認飛車。」と使う。
※倚樹沈眠日已斜:木に寄りかかって熟睡してしまい、日も西に傾いている。 ・倚:〔い;yi3●〕もたれる。よりかかる。よる。 ・沈眠:〔ちんみん;chen2mian2○○〕熟睡する。 ・已:とっくに。すでに。 ・斜:かたむく。午後になって、日が西に傾いていること。
※客散酒醒深夜後:他の人々が帰り、酒の酔いが醒めた深夜になってから。 ・客散:人が帰った(後)。「人散(…)後」の表現がままある。 ・酒醒:酒の酔いが醒める。
※更持紅燭賞残花:さらにまた、あかいともしびを手に持って散り残りの花を観賞した。*『歴代絶句類選』(写真:右)では「更將紅燭照殘花」(更に紅燭を將ちて(=將って)殘花を照らす)とする。 ・紅燭:桃色のともしび。あかいともしび。=紅燈。なお、「紅」はべにおしろいのべに(濃いピンク色)の意があり、革命現代京劇『紅灯記』のような「くれない」の色とは異なる場合がある。 ・賞:めでる。愛したのしむ。 ・賞花:花見をする。花をめでる。 ・残花:散り残りの花。散り残って、すたれた花。≒殘紅。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「霞斜花」で、平水韻下平六麻。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
●●○○○●●,
○○○●●○○。(韻)
2011.2.14 2.15 2.16完 11. 5画 |
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