夜雨寄北 | |
唐・李商隱 |
君問歸期未有期,
巴山夜雨漲秋池。
何當共剪西窗燭,
卻話巴山夜雨時。
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夜雨 北に寄す
君 歸期 を問 ふも未 だ期 有 らず,
巴山 の夜雨 秋池 に漲 る。
何 か當 に共 に西窗 の燭 を剪 りて,
卻 って話 すべき巴山 夜雨 の時 を。
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◎ 私感註釈
※李商隠:晩唐の詩人。杜牧、温庭筠らと同時代人。812年(元和七年)〜856年(大中十年)。字は義山。河内(現・河南省)の人。玉溪生とも号した。独自の世界を開いた。
※夜雨寄北:雨の夜、手紙に詩歌を添えて北の方(の妻)に送る。 ・夜雨:夜に降る雨。「夜雨」と「巴山」は詩中に二回使われている。似た趣の詩に北宋・文同の『守居園池雜題・望雲樓』「巴山樓之東,秦嶺樓之北。樓上卷簾時,滿樓雲一色。」がある。 ・寄:手紙を送る。手紙に詩歌を添えて送る。よす。 ・北:作者の位置(巴の国(現・四川省東部))から見て北の方で、ここでは、妻・王氏のいる都・洛陽のことになる。
※君問帰期未有期:あなた(妻から夫(である作者・李商隱)に「帰郷の期日(は、いつになるのか)?」と問いかけてくるが、わたし(=李商隱)は「まだその時期でない」(と答えている)。 ・君:あなた。ここでは作者の妻のことになる。 ・問:たずねる。といかける。 ・帰期:帰郷の期日。 ・未有期:まだその時期でない。
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※巴山夜雨漲秋池:(四川の)巴山の夜降る雨が、秋の(澄んだ)池に漲(みなぎ)っている。 ・巴山:〔はざん;Ba1shan1○○〕大巴山のこと。現・四川省と陝西省省境にある大巴山(白帝城の北・80キロメートルのところ)。また、現・四川省通江県にある山の名。また、巴(は)(四川東部から東北部)の地方の山。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)52−53ページ「唐 山南東道 山南西道」には壁州に諾水があり、現・通江県がある。ただし、巴山は無い。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期(中国地図出版社)29−30ページ「北宋 成都府路 梓州路 利州路 夔州(きしう)路」にも巴州の中に通江があるが、巴山は無い。前出・文同の『守居園池雜題・望雲樓』「巴山樓之東,秦嶺樓之北。樓上卷簾時,滿樓雲一色。」がある。後出・『竹枝詞』のように「巴の地方の山」(四川東部から東北を覆う山々)と見るのが自然ではなかろうか。 中唐・劉禹錫の『竹枝詞』の「楚水巴山江雨多,巴人能唱本ク歌。今朝北客思歸去,回入那披漉。」は、「巴の地方の山」の意。 ・漲:〔ちゃう;zhang4●〕水が満ちあふれる。みなぎる。はびこる。 ・秋池:秋の清らかな水の池。
※何当共剪西窓燭:何時(いつ)、向き合って、西に向かって開いている静かな書斎の灯火の芯を一緒に切ることがかなうことだろうか。 ・何:いつ。 ・当:称(かな)う。向き合う。また、当然…である。まさに…べし。ここは、前者の意。この「当」を後者での「まさに…べし」と読むのは、適切ではなかろうが、伝統に従っておく。 ・共:(夫婦)そろって。ともに。 ・剪:(蝋燭や油での灯火の)芯を切る。蝋燭(ろうそく)を点(とも)していると、蝋が溶けて燃えてもに芯が燃え残り、長い芯のままにすると炎が大きくなって不安定となるため、芯を切って短くする。 ・西窓:西に向かって開いている窓。静かな書斎。また、密謀する。ここは、前者の意。 ・燭:〔しょく;zhu2●〕ともしび。あかり。ここで、は?燭の火や灯油のともしび。
※却話巴山夜雨時:さて(その時は)、巴山で夜の雨に降られた時の話をしようかな。 ・却話:〔古白話〕さて。何はさておき。発語の詞。≒却説 、且説。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「期池時」で、平水韻上平四支。この作品の平仄は、次の通り。
○●○○●●○,(韻)
○○●●●○○。(韻)
○◎●●○○●,
●●○○●●○。(韻)
2011.3. 4完 2012.5.26補 2014.4.21 |
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