送無可上人 | |
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唐・賈島 |
圭峰霽色新,
送此草堂人。
麈尾同離寺,
蛩鳴暫別親。
獨行潭底影,
數息樹邊身。
終有煙霞約,
天台作近鄰。
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無可上人を送る
圭峰 霽色 新 たに,
此 の草堂 の人を 送る。
麈尾 同 うして 寺を離れ,
蛩鳴 暫 く親 と別 る。
獨 り行 く潭底 の影,
數 ば息 ふ樹邊 の身。
終 には煙霞 の約 有りて,
天台 を近鄰 と作 さん。
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◎ 私感註釈
※賈島:中唐の詩人。779年(大暦十四年)〜843年(會昌三年)。字は浪仙。范陽の人。初め、僧侶で無本と号し、後、韓愈に認められて還俗、仕官した。五言律詩にすぐれる。
※送無可上人:無可という僧侶を見送る。 *作者・賈島は僧侶の時に無本と号しており、(無可⇔無本と)似通っている。同一の法門の法兄弟のような関係か。この詩は作者がまだ僧侶だった時期のものとすれば、分かりよいが、還俗後の作であれば、人間関係が解りづらくなる。この詩を作った後『題詩後』「二句三年得,一吟雙涙流。知音如不賞,歸臥故山秋。」を作った。「獨行潭底影,數息樹邊身。」の二句に三年かかったことを謂う。『全唐詩』の『題詩後』の註記に「(賈)島吟成『獨行潭底影,數息樹邊身』二句下,註此一絶」とある。
※圭峰霽色新:切り立った峰の雨があがりのおもむきが新鮮であり。 ・圭峰:〔けいほう;gui1feng1○○〕切り立った峰。かどだった峰。 ・霽:〔せい;ji4●〕はれる。雨があがる。 ・霽色:〔せいしょく;ji4se4●●〕はれる。雨があがってはれわたったおもむき。 ・新:あらたである。新鮮である。唐・王維の『送元二使安西』に「渭城朝雨浥輕塵,客舎柳色新。勸君更盡一杯酒,西出陽關無故人。」とあり、盛唐・祖詠の『終南望餘雪』に「終南陰嶺秀,積雪浮雲端。林表明霽色,城中摯驫ヲ。」とある。
※送此草堂人:(わたしは)この草庵の主人(=無可上人)送って小旅行をする。 ・送:見送る。作者・賈島が無可上人を送る。旅立つ人を送るために、少し行をともにする。 ・草堂:草ぶきの家。粗末な家。草屋。また、自分の家を謙遜していう語。 ・草堂人:無可上人のこと。
※麈尾同離寺:払子(ほっす)を一緒に携えて、(自分の)寺を離れ。 ・麈尾:〔しゅび;zhu3wei3●●〕払子(ほっす)。オオシカの尾の毛や獣毛などを束ねて柄をつけたもので、僧が威儀を正すのに用いる用具。 ・同:(…と)ともに。同じくして。 ・離寺:寺をはなれる。
※蛩鳴暫別親:コオロギの鳴き声が(聞こえ始めた時候となり)、暫し、親しい人(=無可上人)に別れ(を告げた)。 ・蛩:〔きょう;qiong2○〕コオロギ。 ・蛩鳴:コオロギの鳴き声。 ・暫:しばらく。 ・別親:親族などの親しい者に別れを告げる。「別秦」ともする。その場合は「長安のある地方に別れを告げる」意。
※獨行潭底影:(ひとりだけになった旅路は寂しいもので)ひとりだけで行き、深い池の底に影を落とし。 ・獨行:ひとりだけで旅をして行く。 ・潭底:深い池の底。 ・潭:〔たん;tan2○〕ふち。水がよどむ所。また、深い。また、岸。汀(みぎわ)。ここは、前者の意。
※數息樹邊身:しばしば木蔭で憩いをとった。 ・數息:しばしば憩(いこ)う。 ・數:〔さく;shuo4●〕しばしば。この字は複雑な多音字なので、要注意。 ・樹邊:木蔭。
※終有煙霞約:(今は孤独であっても)とどのつまりには、(あなたと共に)山での隠棲生活の約束があり。 ・終有:つまりは…。とどのつまりには…。 ・煙霞約:山での隠棲の約束をいうのか。「煙霞痼疾」をいうのか。 ・煙霞:もややかすみ。山水のよい景色。
※天台作近鄰:(そのときは一緒に)天台山の近くに、隠棲の場所を求めよう(ではないか)。 ・天台:天台山。現・浙江省天台県北にある仏教の名山。 ・作:…とする。なす。
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◎ 構成について
韻式は、「AAAAA」。韻脚は「新人親身鄰」で、平水韻上平十一真。この作品の平仄は、次の通り。
○○●●○,(韻)
●●●○○。(韻)
●●○○●,
○○●●○。(韻)
●○○●●,
●●●○○。(韻)
○●○○●,
○○●●○。(韻)
2011.8.2 8.3 8.4 |
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