歸家 | |
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唐・杜牧 |
稚子牽衣問,
歸來何太遲。
共誰爭歳月,
贏得鬢邊絲。
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家に歸る
稚子 衣 を牽 きて問ふ:
歸來 何ぞ太 だ遲き。
誰 と共に 歳月を爭 ふ,
贏 ち得 たり鬢邊 の絲。
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◎ 私感註釈
※杜牧:晩唐の詩人。803年(貞元十九年)〜852年(大中六年)。字は牧之。京兆萬年(現・陝西省西安)の人。進士になった後、中書舍人となる。杜甫を「老杜」と呼び、杜牧を「小杜」ともいう。李商隠と共に味わい深い詩風で、歴史や風雅を詠ったことで有名である。
※帰家:家に帰る。(出先の所から)自宅にもどる。26歳で進士に及第。833年、31歳の時に揚州の淮南節度使牛僧孺の幕下に入り、書記を勤めた。揚州在任の3年間、毎晩妓楼に通い、風流の限りを尽くしたと言われる。その後は、一族を養うため、名門出身でありながら中央での出世を取らず地方長官を志望し、黄州・池州・睦州と刺史を歴任し、その後更に湖州の刺史に任ぜらる。各地を遍歴の末、歳長ずるに及び、中央に戻り中書舎人となるが、この詩は遍歴が終わって都の自宅に帰り、身内の幼い子から、「どうしてこんなに長かったの?」と尋ねられ、作者が心の中での返答を詩にまとめた。この詩、趙嘏の『到家』ともする。手許の『杜牧詩選』繆鉞 選註(香港新月出版社 1961年香港)では、見あたらないようだ。 ・帰:本来の居場所である自宅・故郷・墓地などにもどること。この詩と似たイメージのものに、日本の幕末・佐野竹之助の『出ク作』「決然去國向天涯,生別又兼死別時。弟妹不知阿兄志,慇懃牽袖問歸期。」がある。
※稚子牽衣問:幼子(おさなご)が袖を引っ張って問いかけてくる。 ・稚子:〔ちし;zhi4zi3●●〕おさなご。幼児。 ・牽:〔けん;qian1●〕(人や家畜を)引く。引っ張る。
※帰来何太遅:帰ってくるのが、どうしてこんなにもゆっくりになったのですか。(…ぐずぐずと時間がかかったのか。◎「帰宅時間が、どうしてこんなにも(夜が更けて)おそいのか」の意ではない。その場合は「…遲」とは表現しないで、「…晩」と表現する。) ・帰来:(自宅に)もどってくる。 ・何:なんと。疑問・感嘆を表す。 ・太:はなはだ。あまりにも。 ・遅:ぐずぐずとして時間がかかっておそい。のろい。ゆっくり。にぶい。久しい。また、おくれる。おそくなる。⇔「速」。蛇足になるが、「晩」は:日が暮れる。あと。あとになる…の意の「おそい」。⇔「早」。
※共誰争歳月:誰と年月を過ごしていたって…(それは…)。 ・共:…と一緒に。 ・争歳月:年月をあくせくとして過ごす意か。
※贏得鬢辺糸:(その結果)手に入れたのは、耳ぎわの髪のあたりの白いもの(だけさ)。 ・贏得:(その結果)…を贏(か)ち得た。(勝ち得た)。(その結果)…を獲得した。勝ち得る。手に入れる。杜牧の『遣懷』に「落魄江南載酒行,楚腰腸斷掌中輕。十年一覺揚州夢,贏得青樓薄倖名。」とある。 ・鬢辺糸:鬢(びん=耳ぎわの髪)のあたりの白い絹糸(=髪の毛)。
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◎ 構成について
韻式は、「AA」。韻脚は「遲絲」で、平水韻上平四支。この作品の平仄は、次の通り。
○●○○●,
○○○●○。(韻)
●○○●●,
○●●○○。(韻)
2012.5.20 5.22完 2021.8.14補 |
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