西亭春望 | |
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唐・賈至 |
日長風暖柳青青,
北雁歸飛入窅冥。
岳陽城上聞吹笛,
能使春心滿洞庭。
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西亭春望
日 長く 風 暖かにして 柳青青 たり,
北雁 歸り飛びて窅冥 に入 る。
岳陽 城上 吹笛 を聞く,
能 く春心 をして洞庭 に滿 たしむ。
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◎ 私感註釈
※賈至:盛唐の詩人。718年(開元六年)〜772年(大暦七年)。字は幼幾。洛陽の人。安史の乱には、玄宗に従って、蜀に避れる。
※西亭春望:(岳陽城の)西にあるあずまやから(洞庭湖湖畔の)春のながめ。 ・西亭:岳陽城の西にあったあずまやという。岳陽の西には洞庭湖があるので、洞庭湖を見下ろす位置にあったのだろう。 ・春望:春のながめ。春景色。
※日長風暖柳青青:昼間が長くなり、風が暖かくなって、柳は青青としてきた(春も本格的になってきた)。 *SV構文+SV構文+SV構文での表現。 ・日長:昼間が長くなる。春になったことを謂う。後出の「風暖」や「柳青青」も同様に春になったさまの描写。
※北雁帰飛入窅冥:北方の(帝都・長安の方)へ渡っていくガン飛んで帰って遠く暗い奥の涯に消えていった。 *「北」「歸」という語(≒字)は、この詩の耀いている部分であり、作者の思いが凝縮されている語。 ・北雁:(春になって)北方へ渡っていくガン。岳陽(現・湖南省岳陽)に流寓する賈至ら一行(賈至、李白、李曄)からすると北方には第二の故郷である帝都・長安がある。 ・帰飛:飛んでもどる。「帰」は、本来あるべき處(自宅・故郷・墓所)へもどること。 ・窅冥:〔えうめい;yao3ming2●○〕遠く暗い涯。
大きな地図で見る中央が洞庭湖北部で右岸が岳陽(岳阳)市
※岳陽城上聞吹笛:(東の方の)岳陽城から笛を吹くのが聞こえてきて。 ・岳陽:〔がくやう;Yue4yang2●○〕現・湖南省岳陽市。岳陽市の市街の北西、岳陽城の西城門上の楼閣が岳陽楼で有名。岳陽楼は、三層二十メートルの黄色瑠璃瓦葺きで、各層の軒先が天に向かってぴんと跳ね上がった、特徴のある楼門で、「岳陽門」の額が掛けられている。岳陽楼は、西は洞庭湖に臨み、遥か対岸の君山を望む。北は長江を扼しており、この場所はちょうど洞庭湖と長江の接点になっており、両方を抑えている。そのため、三国の呉の時代に水師(水軍)の閲兵台となり、後、唐代に楼閣が建てられた。やがて兵火に遭い、北宋時に再建された。唐・賈至の『岳陽樓重宴別王八員外貶長沙』「江路東連千里潮,青雲北望紫微遙。莫道巴陵湖水闊,長沙南畔更蕭條。」や、唐・杜甫の『登岳陽樓』の「昔聞洞庭水,今上岳陽樓。呉楚東南,乾坤日夜浮。親朋無一字,老病有孤舟。戎馬關山北,憑軒涕泗流。」や、南宋・陳與義の『登岳陽樓』「洞庭之東江水西,簾旌不動夕陽遲。登臨呉蜀分地,徙倚湖山欲暮時。萬里來遊還望遠,三年多難更憑危。白頭吊古風霜裏,老木蒼波無限悲。」があり、また、北宋の范仲淹(范希文)の『岳陽樓記』がある。・聞:聞こえる。耳に入ってくる。 ・吹笛:笛を吹く。
岳陽楼前より岳陽門と洞庭湖を望む。
大陸旅游倶楽部三國志篇より賜る
※能使春心満洞庭:よく春の物思いを(西側に広がる)洞庭湖の上にまで満ちあふれさせている。 ・能使:…を…させることができる。後世、清末・秋瑾は『秋風曲』で「秋風起兮百草黄,秋風之性勁且剛,能使羣花皆縮首,助他秋菊傲秋霜。秋菊枝枝本黄種,重樓疊瓣風雲湧。秋月如鏡照江明,一派C波敢搖動?昨夜風風雨雨秋,秋霜秋露盡含愁。有葉畏搖落,胡鳥悲鳴繞樹頭。自是秋來最蕭瑟,漢塞唐關秋思發。塞外秋高馬正肥,將軍怒索黄金甲。金甲披來戰胡狗,胡奴百萬囘頭走。將軍大笑呼漢兒,痛飮黄龍自由酒。」と使う。 ・能:よく。 ・使:…させる。使役表現。 ・春心:春の物思い。また、春情。ここは、前者の意。 ・洞庭:〔どうてい;Dong4ting2●○〕湖南省北部にある湖。湖の東北端に岳陽市がある。中国第二の淡水湖で、長江の南側にあり、南方や西方から湘江、沅江、澧水、資水が注ぎこんでいる。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「青冥庭」で、平水韻下平九青。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
●○○●○○●,
○●○○●●○。(韻)
2012.8.2 8.3 |
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