春行寄興 | |
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唐・李華 |
宜陽城下草萋萋,
澗水東流復向西。
芳樹無人花自落,
春山一路鳥空啼。
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春行 興 を寄 す
宜陽 城下 草萋萋 ,
澗水 東に流れて復 た西に向かふ。
芳樹 人 無くして 花自 づから落ち,
春山 一路 鳥空 しく啼 く。
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◎ 私感註釈
※李華:盛唐の文学者。開元三年(715年)〜大暦九年(774年)。字は遐叔。趙州・賛皇(現・河北省の賛皇)の人。開元二十三年の進士。監察御史、右補闕等を歴任した。蕭穎士と並び称された古文運動の先駆者。安禄山の乱のとき、叛乱軍の職を得たため、叛乱鎮定後に節義を瀆したことを深く恥じ、山陽(現・江蘇省淮安)に隠棲、農耕に従事して世を終えた。
※春行寄興:春の行楽でのおもむきを詩を詩に寄せて表現する。*自分の才能が世に報われることなく、野に埋もれていることの哀しさを詠ったか。「……無人花自落,……一路鳥空啼。」で、それを訴えている。 ・春行:〔しゅんかう;chun1xing2○○〕春の行楽。春に野山を歩くこと。 ・寄:よせる。やる。おくる。 ・興:たのしむ。よろこぶ。心におもむきを感じる。おもむき。たのしみ。
※宜陽城下草萋萋:宜陽(ぎよう)の街の外では、草が盛んに生えていて。 ・宜陽:〔ぎやう;Yi2yang2○○〕東都・河南府・洛陽の西南西20キロメートルにある都市。現・河南省洛陽市。『中国歴史地図集』第五冊 隋・唐・五代十国時期(中国地図出版社)44ページ「洛陽附近」にある。 ・城下:城の下。城(=まち)の周辺。城壁の外。中唐・張籍の『征婦怨』に「九月匈奴殺邊將,漢軍全沒遼水上。萬里無人收白骨,家家城下招魂葬。婦人依倚子與夫,同居貧賤心亦舒。夫死戰場子在腹,妾身雖存如晝燭。」とあり、同・張籍の『沒蕃故人』に「前年戍月支,城下沒全師。蕃漢斷消息,死生長別離。無人收廢帳,歸馬識殘旗。欲祭疑君在,天涯哭此時。」とある。 ・宜陽城下:宜陽のまちの外側。宜陽の郊外。 ・萋萋:〔せいせい;qi1qi1○○〕木や草の繁っているさま。『楚辞・招隱士』「王孫遊兮不歸」に基づく。王昭君の『昭君怨』(『怨詩』)に「秋木萋萋,其葉萎黄。有鳥處山,集于苞桑。養育猪ム,形容生光。既得升雲,上遊曲房。離宮絶曠,身體摧藏。志念抑沈,不得頡頏。雖得委食,心有徊徨。我獨伊何,來往變常。翩翩之燕,遠集西羌。高山峨峨,河水泱泱。父兮母兮,道里悠長。嗚呼哀哉,憂心惻傷。」とあり、崔の『黄鶴樓』に「昔人已乘白雲去,此地空餘黄鶴樓。黄鶴一去不復返,白雲千載空悠悠。晴川歴歴漢陽樹,芳草萋萋鸚鵡洲。日暮ク關何處是,煙波江上使人愁。」とあり、『楚辞・招隱士』「王孫遊兮不歸,春草生兮萋萋。歳暮兮不自聊,蛄鳴兮啾啾。」温庭の『折楊柳』に「館娃宮外城西,遠映征帆近拂堤。繋得王孫歸意切,不關春草萋萋。」とあり、唐・温庭の『菩薩蠻』に「玉樓明月長相憶。柳絲娜春無力。門外草萋萋。送君聞馬嘶。 畫羅金翡翠。香燭消成涙。花落子規啼。坂x殘夢迷。」とあり、唐・無名氏の『雜詩』に「近寒食雨草萋萋,著麥苗風柳映堤。等是有家歸未得,杜鵑休向耳邊啼。」とある。
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※澗水東流復向西:谷川の流れは、東に向かって流れたかと思うと、また西に向かって流れている。 ・澗水:谷川の流れ。 ・東流:東に向かって流れる。中国の主要な河川の流れる方向。前出・『中国歴史地図集』第五冊44ページの「洛陽附近」図では宜陽の附近を洛水が東に向かって流れている。 ・復向西:また(反対の)西に向かう。宜陽から洛陽までの洛水(現・洛河)は蛇行している。(右:地図の左手(=西側)から右上(=東北東)の方に蛇行して流れる川が洛水)
※芳樹無人花自落:花の咲いた木を愛でる人がいないので、花は賞する人もないままに、勝手に散っていき。 *野に埋もれた自分の才能を謂うか。 ・芳樹:花の咲いた木。 ・無人:ここでは、(花を愛でる)人がいない。 ・花自落:花は賞する人もないままに、勝手に散っていく意。
※春山一路鳥空啼:春の山の一筋の路では、鳥があてもなく鳴いている。 *野に埋もれた自分の才能を謂うか。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「萋西啼」で、平水韻上平八齊。この作品の平仄は、次の通り。
○○○●●○○,(韻)
●●○○●●○。(韻)
○●○○○●●,
○○●●●○○。(韻)
2012.7.31 8. 1 |
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