魚玄機江陵愁望寄子安　詩詞世界　碇豊長の詩詞：漢詩　Yu Xuanji

江陵愁望寄子安
	唐・魚玄機

楓葉千枝復萬枝，
江橋掩映暮帆遲。
憶君心似西江水，
日夜東流無歇時。

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江陵に愁望して　子安に寄す

楓葉(ふうえふ)　千枝　　復(ま)た萬枝(ばんし )，
江橋(かうけう)に　掩映(えんえい)して　　暮帆( ぼはん) 遲し。
君を憶(おも)へば　心は　西江(せいかう)の水(みづ)に似て，
日夜　東流して　　歇(や)む時無し。

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◎　私感註釈

※魚玄機：中唐の女流詩人。（八四三～八六八）字は幼微。またの字は蕙蘭。長安の娼家に生まれるが、聡明で学問を好んだ。補闕の李億の妾となるが、やがて愛情が衰え、ついに咸宜観の女道士となった。後に、小婢の緑翹を殺したために死罪に処せられた。森鴎外の作品に『魚玄機』がある。 *なお、「玄機」とは、道教でいう）深遠な哲理の意。

※江陵愁望寄子安：江陵の方を愁いをおびて眺め、李子安に詩を送り届ける。 *抑えきれない慕情を詠う。　・江陵：地名。長江が南側の洞庭湖へ曲がる部分の要衝。（現・湖北省江陵）『中国歴史地図集・第五冊「隋・唐・五代時期』「江漢湘諸郡」２６－２７ページ）にある。李億の夫人である裴氏がいるところ。　・愁望：愁いをおびて眺める。　・寄：詩文を郵送する。よす。　・子安：李億の字。李億のこと。温庭筠の友人。作者・魚玄機に『情緒寄李子安』『春情寄子安』がある。

楓橋

※楓葉千枝復万枝：フウの木の枝葉が、幾重にも幾重にもかさなって。 *『楚辭』宋玉の『招魂』に「朱明承夜兮，時不可以淹。皐蘭被徑兮，斯路漸。湛湛江水兮，上有楓，目極千里兮，傷春心。魂兮歸來哀江南！」とある。後世、明・李攀龍は『於郡城送明卿之江西』で「青楓颯颯雨凄凄，秋色遙看入楚迷。誰向孤舟憐逐客，白雲相送大江西。」と詠う。　・楓葉：フウの木の葉。 *「楓」〔ふう；feng1○〕は、マンサク科の落葉喬木の「フウ」のことであって、日本語でいうところの「カエデ」ではない。（右の写真の手前の木はフウか）。　・千枝：極めて多くの木々の枝。「千枝復万枝」多くの枝が幾層にもなって重なっているさまを謂う。　・復：かさなる。重複する。また、また。ふたたび。ここは、前者の意。

※江橋掩映暮帆遅：橋に覆い被さって、（あなたの乗った）夕ぐれに帰ってくる船がぐずぐずとして（なかなか姿を見せない）。　・掩映：〔えんえい；yan3ying4●●〕掩（おお）い遮（さえぎ）る。また、対照しあう。（二つのものが）互いに引き立て合う。コントラストをなす。ここは、前者の意。右上の写真のような情景か。　・暮帆：夕ぐれに帰る舟。　・遅：おくれる。おそくなる。間に合わない。また、（ぐずぐずして）おそい。のろい。ゆっくり。唐・無名女子『怨詩』に「君生我未生，我生君已老。君恨我生遲，我恨君生早。」とある。

※憶君心似西江水：あなた（＝いとしい男性）を思い出せば、思いは川の西側の流れのようになり。　・憶君：あなたを思い出す。　・君：あなた。ここでは､思う男性を指す｡　・西江：大きな川の西側。上流のことになる。　・水：河川、湖沼。

※日夜東流無歇時：昼夜、東に向かって流れ、とどまるところがない。　・東流：東に向かって流れる。地勢上、中国の大河は、基本的に東に向かって流れる。このことから、「東流」には天地自然の理といった趣を伴う。南唐後主・李煜の『虞美人』「恰似一江春水　向東流。や、明・高啓の『登金陵雨花臺望大江』「大江來從萬山中，山勢盡與江流東。鍾山如龍獨西上，欲破巨浪乘長風。江山相雄不相讓，形勝爭誇天下壯。秦皇空此黄金，佳氣葱葱至今王。我懷鬱塞何由開，酒酣走上城南臺。坐覺蒼茫萬古意，遠自荒煙落日之中來。石頭城下濤聲怒，武騎千群誰敢渡。黄旗入洛竟何祥，鐵鎖橫江未爲固。前三國，後六朝，草生宮闕何蕭蕭。英雄乘時務割據，幾度戰血流寒潮。我生幸逢聖人起南國，禍亂初平事休息。從今四海永爲家，不用長江限南北。」など極めて多い表現。
　・歇：〔けつ；xie1●〕憩（いこ）う。休む。やめる。停止する。

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◎　構成について

韻式は、「AAA」。韻脚は「枝遲時」で、平水韻上平四支。この作品の平仄は、次の通り。

○●○○●●○，（韻）
○○●●●○○。（韻）
●○○●○○●，
●●○○○●○。（韻）