盧溪別人 | |
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唐・王昌齡 |
武陵溪口駐扁舟,
溪水隨君向北流。
行到荊門上三峽,
莫將孤月對猿愁。
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盧溪にて 人に別る
武陵溪口扁舟 を駐 め,
溪水 君に隨 って 北に向かって流る。
行 いて荊門 に到って三峽 を上らば,
孤月と將 に猿愁 に對すること莫 れ。
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◎ 私感註釈
※王昌齢:盛唐期の詩人。700年?(嗣聖年間)〜755年?(天寶年間)。字は少伯。京兆の人。七言絶句に秀で、辺塞詩で有名。
※盧渓別人:盧渓にて、人と別れる。 *この詩は、盧渓→(北へ)→武陵渓(沅江)→(東へ)→〔洞庭湖〕→(北へ)→〔長江〕→(西北へ)→荊門山→(西へ)→三峡、と行程を詠み込んだ詩。 ・盧渓:川の名。辰州の上流50キロメートルのところの現・懐化市附近の流れの盧水(現・武水)で、沅江の支流か。地名でもその附近に盧渓(現・瀘渓)がある。漢の武陵郡の地(現・湖南省)に属した辰州五渓の一。岳陽市西南西300キロメートル、また、長沙市の西300キロメートルのところ。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期27−28ページ「北宋 荊湖南路 荊湖北路」(中国地図出版社)の荊州中央南寄りにある。また、地名。鎮の名で、江西省萍郷県の東にある。ここは、前者の意。
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※武陵渓口駐扁舟:盧渓の武陵渓口駐扁舟:武陵渓のほとりに小舟をとどめれば。 ・武陵渓:(地名の)盧渓を流れる谷川。盧溪に同じ。 ・口:ほとり。 ・駐:とどまる。 ・扁舟:小舟。
※渓水随君向北流:谷川の流れは、あなたの行く方向に従い、北を向いて流れる。 ・北流:盧渓からは北へ流れ、沅江となって、東流し、洞庭湖へ注ぐ。
※行到荊門上三峡:荊門山に到ったら、(その次は)三峡(西陵峡・巫峡・瞿塘峡)を上ることとなるが。 ・荊門:山名。荊門山のこと。現・湖北省宜都と夷陵(現・宜昌市)との中間地点の長江の南岸にある。『中国歴史地図集』第六冊 宋・遼・金時期27−28ページ「北宋 荊湖南路 荊湖北路」(中国地図出版社)の峡州中央にある。また、唐代の県名。湖北省当陽県の北。ここは、前者の意。 ・三峡:長江の上流にある三つの峡谷。東側(=下流側)から、西陵峡・巫峡・瞿塘峡の三つの峡谷。盛唐・李白の『峨眉山月歌』に「峨眉山月半輪秋,影入平羌江水流。夜發清溪向三峽,思君不見下渝州。」とある。
※莫将孤月対猿愁:(そこ(=三峡)では。)ただひとつ出ている月とともに、猿の悲しげな声にむかってはいけない。 ・莫-:なかれ。禁止・否定の辞。「莫」は「将孤月対猿愁」までかかる。(「莫」で禁止した内容は「将孤月対猿愁」ということ)。 ・将:…ともに。…と。…をもって。…を〔介詞〕。【「将」+名詞(賓語)】の型で、賓語を動詞の前へ出す表現。古語の「以」、現代語の「把」に似た働きをする。 ・孤月:星のない月だけの夜空の月。 ・猿愁:巴・三峡に棲む猿の悲しげな声。唐・顧况の『竹枝詞』に「帝子蒼梧不復歸,洞庭葉下荊雲飛。巴人夜唱竹枝後,腸斷曉猿聲漸稀。」とあり、盛唐・李白の『早發白帝城』に「朝辭白帝彩雲間,千里江陵一日還。兩岸猿聲啼不住,輕舟已過萬重山。」とある。
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◎ 構成について
韻式は、「AAA」。韻脚は「舟流愁」で、平水韻下平十一尤。この作品の平仄は、次の通り。
●○○●●○○,(韻)
○●○○●●○。(韻)
○●○○●○●,
●○○●●○○。(韻)
2013.12. 8 12. 9 12.10 12.11完 2016. 3.11補 |
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